39.シスコンの
「ようこそ。ユーキスタス様、エリオット様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへお掛けになって下さい」
生徒会室に迎え入れてくれたのは、2年次生のセドリック・フォン・ウィッツバーグ子爵令息だった。ウィッツバーグ子爵はグランデスブルグ派に属する家で、有り体に言うとグランデスブルグ公爵の子分的な家だ。
今の生徒会役員は前生徒会の体制から大きく変わってはいないらしい。基本的には、グランデスブルグ派で占められている。これも前生徒会長の采配の賜物で、シスコン気味………いや、過保護な兄の尽力のお陰である。
「ここへ来て下さった事に感謝致します。改めて確認致しますが、ユーキスタス様は私からの次期生徒会長の指名を受けられるという事で宜しいのですね?」
私の対面に座ったジュリエッタ嬢が、そう問い掛けてくる。エリオットは私の後ろで従者の如く突っ立っている。
「勿論。他ならぬグランデスブルグ公爵令嬢の貴女からの指名ならば、引き受けるのは当然でしょう」
「何だか含みがあるような気がしますが、良いでしょう。では、ユーキスタス様は現生徒会の副会長として入会して頂きます。そして、副会長という役職を通して、生徒会での仕事を学んで頂くつもりです」
生徒会の集まりはいつも行っている訳ではないらしい。学院の行事関連の準備等があれば忙しくなるようだが、出来るだけ学業に専念出来るようなシステムが構築されているようだ。
これは、何代か前の生徒会によるものだそうだ。なんでも、生徒会の仕事が忙し過ぎてストライキを起こしたそうな………。そのお陰で生徒会が関わる仕事は減り、学業との両立が辛うじて出来るようになったのだとか。………辛うじて?
「最近は、新入生の事に関して忙しいですからね。とりあえずは、来週から入って頂くようにお願い致します。………それと、側近見習いの方々はエリオット様が同行するのですか?」
「いえ、同行者は都度変わると思います。それに、こんな体制は新入時だけで、側近見習い達が私に同行しなくなる可能性もある。まぁ、そこは追々調整するつもりですよ。………ついでにエリオットも生徒会に───」
「ご遠慮致します」
私が言い終わらない内に、食い気味でエリオットが否定する。その様子に、ジュリエッタ嬢は苦笑を浮かべ、周囲の生徒会役員達は表情を無で固定していた。
まぁ、最後のは冗談だが、エリオットを始めとした側近見習い達は生徒会には入らないだろうな。………カストルは入りたそうにする気がするが、奴は色々な意味で許可出来ない。
そんな訳で、生徒会の役員達と挨拶をしておいた。まぁ、向こうはグランデスブルグ傘下の家ばかりなので、私の顔も名前も知ってはいたが、形式上一応やっておくに越した事はない。
とりあえず、現生徒会の内訳はこうだ。
生徒会長に、3年次生のジュリエッタ・フォン・グランデスブルグ公爵令嬢。
副会長は空席で、ここに私が入る予定だ。本来ならば副会長は2年次生から選ばれるようだが、王子が入学した事によって、私に白羽の矢が立ったらしい。
書記は、2年次生のセドリック・フォン・ウィッツバーグ子爵令息。
会計は、3年次生のメニエッタ・フォン・シスィーゲル伯爵令嬢。
庶務に、1年次生のセドレア・フォン・グランデスブルグ子爵令息。
うむ。どの家もグランデスブルグ公爵家との結束が強い家だ。セドレアに至っては、ジュリエッタ嬢の従兄弟だ。確か、私と同じく新入生だった筈だが、いつ生徒会に入ったんだ?
これらの面子は、前生徒会長であるエドガー・フォン・グランデスブルグ公爵令息が妹のためだけに揃えた優秀な人材である。彼等にとっては、ジュリエッタ嬢は寄親の一人娘………つまりはお姫様だ。そんな所へ、のこのことやってきた王子。これは、真面目に仕事しないとグランデスブルグ家一派に見捨てられる可能性も出て来たな………。
しかし、前世の生徒会だと各委員会長とか、もっと役職がズラズラと続くところだが、“乙女ゲーム”の世界では至ってシンプルなようだ。
それに、副会長が一人というのも解せない。副会長の役割は会長の補佐である筈だ。ならば、前世に倣って最低でも2人は欲しいところだろう。
ジュリエッタ嬢が説明していたように、仕事がそんなに無いから役員の数も少ないのか? うぅむ。その線が強そうな気がする。生徒会が激務ならば、エドガーがこんな少人数しか入れない筈が無いからね。
私が生徒会に入ったという布告は後日行うので、来週の初仕事までは学業に専念するように言われ、この日は解散となった。
しかし、あのグランデスブルグ派でガチガチに固めた生徒会………。ジュリエッタ嬢が生徒会長である間は良いが、私が生徒会長になった時は今居る面子は彼女と一緒に生徒会を辞めていそうな気がする………。まぁ、その時はその時で、私が新たに人を集めるしかないか。