38.何の事だか分かりませんね
用が終わったジュリエッタ嬢は、幾人かの女生徒を引き連れて食堂を出て行った。レイレアムスに聞いたが、あの取巻き達はグランデスブルグ公爵家の取巻きでもなく、生徒会の者でもなく、単なるジュリエッタ嬢のファンであるらしい。
魔力過剰症で表に出る事が殆ど無く、いつも家に引き籠もっていた時分とは随分と変わった。勿論、これは良い変化なのだろう。ただ、余りにも人気があり過ぎて、本人含めて困惑しているらしいが。
「ユーキスタス様、生徒会に入るおつもりですか? 王宮からの呼び出し命令があるかもしれない事から、クラス長は辞退したのにですか?」
アンティローゼ嬢の疑問は尤もだ。生徒会長は、クラス長以上に忙しい事もあるだろう。………まぁ、私は他の生徒に押し付ける気満々だが。
本来ならば、クラス長を断る時に使った言い訳をここでも使うべきだったのだろう。王子は、王宮での用事を優先するという事を印象付けたのだから、その方が自然だ。
「そうだね。確かに断るべきだったかもしれない。しかし、生徒会長という全生徒を纏めるような立場に、私以上の適任が居るかな? 私が断っても良いが、次はローズになってしまう。あぁ、勿論、ローズの力を疑っている訳ではないよ? ただ、キミに責任を押し付けるのならば、自分でやった方が良いと思っただけなんだ」
婚約者に自らが背負うべき責任を押し付けるのは、外道のする事であると私は思っている。“生徒会長”という肩書はそれ程重いものではないが、王子として取るべきポーズというものがあるのでね。
「私も断るつもりでしたが」
王子が断り、公爵令嬢も断るとなると、次の候補はエスピナー候爵令息になる。候爵令息は他にも数人居るが、王子の側近見習いである彼等が第一候補になるだろう。………やはり、私が引き受けておいて正解だったかもしれない。あの2人に任せるのは危険過ぎる。
「………そうですわね。ユーキスタス様が引き受けるのが穏当な………」
アンティローゼ嬢も、エリエリ達が生徒会長になる可能性に思い至ったのだろう。若干言葉を濁しているが、つまりはそういう事だ。
いや、彼等は基本的には仲間思いの良い奴なんだ。ただ、“生徒会長”という役職のためには性格的に問題があるだけで。
その後は特に何も無く、アンティローゼ嬢は黙々と食事を摂る事に終始していた。私とカストル達の視線を受け、若干食べ辛そうにしていたが、幼い頃より周囲の視線を集めていた彼女にとっては、この程度は誤差のようなもの………という事にしておこう。
放課後、私はジュリエッタ嬢に言われた通り、エリオットを連れて生徒会室へと向かった。
王子が一人で誰かと会うのは色々と都合が悪いからね。ジュリエッタ嬢も私も婚約者が居る身ではあるが、学院で男女2人きりで会っていた等という噂を流されたら、お互いにたまったものではない。それと、友人から呼び出しを受けたからと言って、一人で軽率に向かう事も出来ない。それが罠である可能性が皆無ではないからだ。………入学式前の一人行動?何の事だか分かりませんね。