37.王子と王子様
私達に話し掛けてきたのは、ジュリエッタ・フォン・グランデスブルグ嬢だった。
確かに、彼女ならばあの黄色い声には納得だ。今期の生徒会長である彼女を知らない者は、この学院内には居ないだろう。何だったら、この学院の王子様は本物の王子よりも知名度が高いかもしれない。
「勿論。現生徒会長からの相談事ですからね。無碍にするわけにはいかないでしょう」
「ありがとう。………同席しても?」
私は鷹揚に頷き、カストルにジュリエッタ嬢の椅子を用意して貰った。
ジュリエッタ嬢の相談とは、私に『生徒会に入らないか?』という要請だった。
なんでも、この学院では2年次生徒の中で実家の爵位が一番高い者が、次期生徒会長として代々指名されてきているらしい。そのため、王子である私に次期生徒会長のお鉢が回ってきたという訳だ。私はまだ1年生だが?
ジュリエッタ嬢はグランデスブルグ公爵令嬢だ。彼女が2年生の頃は公爵家の子弟は彼女以外居らず、前生徒会長であり、一つ年上の実兄でもある、エドガー・フォン・グランデスブルグ公爵令息に指名されたそうだ。
“学院内での身分は区別なく、皆平等である”というのが建前だとよく分かるのが、この生徒会だ。
生徒会役員は殆どが貴族子弟で占められ、その殆どが生徒会長からの直々の指名であるらしい。勿論、自薦や他薦で生徒会入りを果たした者も居るが、そんな人物はほんの僅かだのようだ。
しかし、生徒会長の指名で生徒会の役員が決まるとか………生徒会長がダメ人間だったらどうするんだ。例えば、その生徒会長の権限を濫用して、見目麗しい者だけを集めたハーレムを作るとか有り得そう。そんな問題、今迄にも沢山起きていただろうに………そんなシステムで大丈夫なのか?
「確かに、実際にそんな人は居たよ。4代前の生徒会長は余りにも人物面が酷すぎて、業を煮やした学院長が罷免したらしい。それと、貴族による指名制はおかしいという声が平民の生徒から多く上がって、全生徒による選挙にて選出しようとした事も過去にはあったようだよ。ただ、買収や誹謗中傷や脅迫が酷かったそうで、結局この形に戻ったそうだ」
確かに、貴族社会で選挙なんて出来ないだろうな。基本的に、貴族社会は事前根回しの繰り返しだ。買収しかり脅迫しかりだ。だが、民主的な選挙ではそういった活動はNGになる。………誹謗中傷は、まぁ、前世でもやってたし。あくまでも批判と宣っていたが、どう聞いても誹謗中傷みたいなものもあったからな。
因みに、私がこの話を断った場合、次の生徒会長は公爵令嬢であるアンティローゼ嬢になるようだ。
“乙女ゲーム”的に考えると、王子が生徒会長になるのは予定調和的な感じが強い。ここで安易に頷くのは罠か? それに、ここで私が断り、アンティローゼ嬢が生徒会長になれば、“乙女ゲーム”の悪役令嬢という属性が生徒会長で上書きされ消えるのではないだろうか。
しかし、次の生徒会長には私がなるつもりだ。そして、生徒会長の特権を濫用し、アンティローゼ嬢を副会長に据える。これで、彼女と合法的にイチャコラ出来るというものだ。
生徒会の実質的な運営は、優秀な者達を採用して任せておけば良いだろう。私はこれまで通りお飾りとしての役目を果たせばいい。
「分かりました。引き受けましょう」
「それは良かった。では、放課後に生徒会室まで来てくれるかな? そこで、今後の説明をしよう。勿論、側近見習い達と一緒に来ても構わないよ」
今のジュリエッタ嬢は生徒会長として、一生徒である王子の応対を行っている。普段の印象とは大分違うが、これが王子を参考にした王子様ムーブというやつだろう。
ふと思ったけど、100話じゃ終わらないですね。