25.筆頭の馬鹿
「つまり、ユーキスタス様は私に何をされても耐えろと仰るのですか?」
まぁ、端的に言うとそうなる。学院内は平等という事になっているので、自身の身分を振り翳すのは絶対に駄目だ。これをすると、相手に反撃の隙を与えてしまう。
貴族世界は面子の世界なので、相手に舐めた態度を取られるのが一番困るのである。但し学院内では、そう簡単に潰す事は出来ない。
悪知恵が働く者は、“学院内では”という事は外から潰せばいいじゃないと思うだろうが、この世界は“乙女ゲーム”だ。そんな事をしてしまえば、将来的にどうなってしまうのか分からない。いや、十中八九断罪とやらをされるだろう。
そんな訳で、相手から舐めた態度を取られても、毅然とした態度を取らなければならない。学院内では、家の力を使う事は許されない。自身の人間性で勝負しなければならないのだ。
つまりは、正論パンチで決めろという事だ。常々正しい事をするよう心掛けていれば、舐めた態度を取るような輩は手出しし辛いだろう。
「つまり、私の貴族としての矜持が試される訳ですわね」
「ローズには申し訳ないが、そうなる。学院内では各家の影響が少ない事で、私に言い寄って来る者は確実に居るだろう。勿論、大多数の者は良識ある人物だと信じているけどね」
各地から様々な人間が集められる故に、そんな馬鹿は居ないとは言い切れない。というか、確実に居る。再三の事だが、ここは“乙女ゲーム”である。つまり、主人公が、その筆頭の馬鹿なのだ。
「皆も気を付けてくれ。君達は高位貴族の子だ。私だけではなく、君達にも言い寄って来る愚か者が出てくるかもしれない。………しかし、愚か者に対して愚かな行為をしてはならないと、君達の友人にもよく聞かせておくように。それと、当たり前の事だが婚約者は大事にするようにね」
ここまで顔が良い面子が揃うと、誰が攻略対象だか分からない。流石に攻略対象の側近全てがそうとは思わないが、何人かは当てはまるかもしれない。
私には、ここが“乙女ゲーム”だという先入観があるが、言い寄って来るのが女だけとは限らない。
ここが“乙女ゲー”ではなく、所謂“ギャルゲー”であった場合、その攻略対象は女だ。つまり、何処の馬の骨とも分からない男が、アンティローゼ嬢に近付く可能性もある。まぁ、勿論その場合は全力で阻止するつもりだ。王家の力を使うまでもない。やるなら徹底的に、完膚無きまで潰す。
「ユーキスタス様、腹黒な部分が顔に出てますわよ」
アンティローゼ嬢の事を考えていたら、当人に注意されてしまった。
長い付き合いで、皆には私が笑顔の裏で色々と画策する人間であるという事はバレてしまっている。品行方正である事を心掛けているが、清い心では為政者なんてやっていられないのでね。
だが、学院内には王子に夢見るお年頃の若者も多いだろう。そんな者達の夢を潰さないように気を付けなければならないな。
「でも、実際にそんな他人の婚約者とかに粉掛ける奴居るのかよ」
疑問の声を挙げたのはエリスティンだ。双子は割と素直な性質なので、貴族が通うような学院に恥知らずが居るとは思えないのだろう。
「私は訳ありなのでそういった経験はございませんが、噂程度ですがチラホラとあるようですね」
実際に学院に通っているジュリエッタ嬢の見解は、“在る”という事だ。まだ噂程度に収まっているようだが、今後どうなるかは分からない。
ジュリエッタ嬢の“訳あり”とは、彼女の両足の事と、同じく学院に通う1歳年上の兄が睨みを利かせている事だ。
彼女の体質の事もあり、グランデスブルグ家の者達は彼女に対して過保護だ。特に歳の近い二番目の兄は、彼女の周辺で障害になり得る事に目を光らせていると言われている。
あの兄達が居て、レイレアムスはよくジュリエッタ嬢と婚約出来たな………。
ついでにジュリエッタ嬢は、在校生から“王子様”と呼ばれ、主に女生徒から慕われているらしい。結晶化した両足を隠すために履いた長ズボンと中性的な美貌、王家に近しい公爵家という身分故の事だ。
そのため、ジュリエッタ嬢を慕う者達は、彼女に無体な事をやらかす者には容赦をしない。女生徒の間で密やかに囁かれ、静かに潰される。
ジュリエッタ嬢は、私を参考にしたとか言っているが、私はそこまで悪辣じゃないぞ。
第一章終了。次からは学園編です。