21.15歳になりました
あの決意から5年という歳月が流れ、私は15歳となった。
このエンドロフィア国では、15歳となった貴族子弟は王立貴族学院という教育機関に3年間通う義務がある。
この学院に通う者は基本的には貴族だけなのだが、平民も僅かに居る。才能溢れる若者を身分問わず学ばせるという建前があるからだ。
しかし、誰でも通える訳ではない。この学院に入学するためには、貴族の後見人や高額な授業料を払う必要があるからだ。入学時のテストで高得点を取れば、授業料等が免除になるらしいが、それでも後見人は必要である。頭が超絶的に良くても、責任を取ってくれる大人が居ないと信用度が皆無だからね。
そのため、大体は富豪の子弟等が入ってくるそうだ。但し、この世界が乙女ゲームの世界だとすると、主人公は富豪の娘でもない平民の娘なんだろうとも思う。
そんな彼等は15〜18歳という期間、それぞれの家を離れ学院寮に住む事になる。
王宮では当たり前のように居たお世話係も学院へ連れて行く事は出来ない。起床から着替えまで自分で行わなければならないらしい。まぁ、私は前世の事もあるし大抵の事は自分で出来るのだが、普通の貴族子弟は苦労しそうだな。
この学院生活は前世的に考えると寮生活有りの高等学校だな。………うーん。如何にも“乙女ゲーム”っぽい設定。
学院では、専用の制服を着用する義務があるようだ。そして、学年ごとに着用するネクタイがあり、その色を見る事で学年を判別するのだとか。これも前世の学校っぽい要素だ。………やはり、この世界は乙女ゲームなのだろうか。
この学院生活は、王族である私も逃れる事は出来ない。寧ろ、王族だからと率先して学院に通う姿勢を見せなければならないらしい。王族が模範的な姿勢を見せないと、その他の貴族達は着いて来てくれないからね。
流石に警備上の問題から、王族が住まう寮は他の貴族とは別室である。まぁ、王族以外の貴族達も、親の爵位に応じてグレードの高い部屋を選べるらしい。
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この5年間は色々な事があった。今までの流れだと、さっさと流す事だが軽く振り返っておこう。
まず、アンティローゼ嬢との仲はとても良好だ。この5年間欠かさずコミュニケーションを取ってきた甲斐があるというものだ。勿論、疚しい関係ではなく、健全なお付き合いを続けている。
具体的に言うと、毎週アンティローゼ嬢に恋文を送っていた。私達は立場上、気軽に会う事が出来ない。………いや、やろうと思えば出来るのだが、関係各所に迷惑が掛かるのでやらないだけだ。
そんな時は、文通だ。文通友達というのは、物理的に距離が離れていても心を通わせる事が出来るとは古来からの常識だ。古事記にも書いてある。
勿論、この5年間で彼女と一度も会わなかった訳ではない。
毎週出す手紙には特別な事は書いていない。いつも変わらぬ習慣についてだったり、日常に起きたちょっとした事を書いてみたり等、他愛も無い日々を綴っていただけだ。偶に会う時に、手紙の内容を元に会話が弾んだため、文通は中々良い試みだったと自負している。
当初は毎日出そうと思っていたのだが、私が幼い頃から就けられている出来る侍女によって止められた。
彼女が言うには、毎日手紙を貰うのは結構キツいとの事だった。婚約者といえども、王子からの手紙だ。受け取ったアンティローゼ嬢が早々に返事を書かなければならないと焦るだろうし、毎日恋文が届くのは婚約関係であっても重いと思われてしまう可能性があるという事だ。
私は前世で亡き妻に宛てて、毎日直筆の手紙を書いていた。これはボケ防止という意味合いもあったが、早くに妻を亡くしたため、行き場のない想いを埋めるためでもあったのだ。
その当時の事を思い出し、今世でも同じように手紙を出そうと思っていたのだが、実際に生きている人に毎日手紙を出すのは大分手間が掛かるようだ。
前世では郵便の技術やサービスが高かったため割と気軽に出せていたが、今世ではそこまで文化が発達していない。折角、魔法があるのだから、その方面の魔法も使いやすく研究されないかなぁと思った次第だ。
日常の出来事として、側近見習い達の事を書いた事もあった。何せ、私の日常は全く代わり映えのしない日の連続だというのに、彼等関係では色々あり過ぎた。その中での一部の事柄についてをネタに手紙を書いた事もあった。勿論、関係各所に配慮し、ボカした表現になってしまったが。
その手紙を送った数日後に急遽、レイレアムス&ジュリエッタ嬢とアンティローゼ嬢とのお茶会が開かれる事となった。その手紙でレイレアムスとジュリエッタ嬢についての事を書いたため、アンティローゼ嬢が彼等の事を心配して顔見せに来させたらしい。“らしい”というのは、後日ジュリエッタ嬢に聞いたからだ。流石にアンティローゼ嬢から聞く訳にはいかないし、レイレアムスに聞いても分からないだろう。
『ユーキスタス様は、私に対して何とも思っていないという事は分かりました』
ジュリエッタ嬢に、例のお茶会の事について聞いて、笑顔と共に返ってきた応えがこれである。何とも思っていない訳ではないが、少なくとも恋愛感情は皆無だ。そもそも、私にも婚約者が居るし、ジュリエッタ嬢にはレイレアムスが居るのに横恋慕とか無いから。