18.10歳になりました
私は10歳になった。10歳になったら婚約者を決めると聞かされていたが、10歳になる前にアンティローゼ・フォン・クルシュタットという婚約者が出来た。いや、アンティローゼ嬢に不満は無いんだけれども。
そして、今日は事前に知らされていた“魔力判定”の日だ。魔力とかいうよく分からない数値を測るために、王都にある教会へとやってきた。何でも、魔力というのは神によって賜る物であるから、神の庭たる教会で魔力判定するのが筋とかでほぼ伝統となっているのだ。
因みに、この国で信仰されているのは名も無い神々であり、他国との折衝のため宗教という体裁をとっているが、宗教というよりは日本の神道の扱いに近い。
まぁ、ここらの宗教については私もよく分かっていない。由来不明の祝い事や祭りがあるという事を何となく把握している程度だ。
そんな訳で、国民全体で宗教感が薄いのがエンドロフィア国という国家である。私が思うに、宗教感が薄いというよりかは生活に馴染み過ぎて態々意識する事でもないというか。
それはさておき、私の魔力判定の儀式だ。儀式とは言ったものの、そんな大仰な物ではない。ちょっとした小部屋に通され、バスケットボール程の大きさの水晶玉に触れるだけだ。
部屋には、この教会の神官であるホルスナー氏と、王弟である叔父、私の3人だけだ。神官は進行役、叔父は見届人という事で、無いとは思うが神官が不義な事をしでかさないかの監視役も兼ねている。
「さて、これから魔力の属性判定をするのだけど………。ユーキスタス、君は魔法を信じていないね?」
叔父は私の心中を見透かしたように言う。おいおい。それを神官の前で言うなよ。ホルスナー氏をチラリと見ると、若干苦笑していた。
「今まで“魔法”と呼ばれる現象を見た事がありません。叔父上達は“魔法”は“在る”と仰いますが、私は立場上、見た事も無い物をおいそれと信じる訳にはいきませんので」
「いやぁ、君って思ってた以上に頭でっかちなんだねぇ。“塔”の人達も大分アレだけど、賢すぎるのも一種の弊害なのかな。大抵の子供はみんな、魔法と聞いたら飛び上がって喜ぶのに。まぁ、いいか。そんな頭でっかちな君のために、今ここで実演しよう。………私は水属性に適性が在ってね。こういう事も出来る」
そう言って叔父は掌を上に向けると、水が何処からともなく溢れ出し、空中に水球を作る。
うぅむ。何も無い所から水が出て来た。しかも、空中に浮いている。成程。よく出来たマジックだ。
恐らく水は服に隠した管から出て来たのだろう。浮かせているのは磁力か? まぁ、その磁力は何処から放射しているんだという話だが。
「その顔、まだ信じていないね? まぁ、いいか。このまま判定してしまおう。本人が魔法を信じていようが、信じていまいが適性は変わらないしね」
「分かりました。では、ユーキスタス様。この魔力石を、両の手で左右から触れて下さい。石に浮かび上がる色に応じて、被験者の適性を判断致します」
ホルスナー氏に促され、私は水晶玉に触れる。
水晶玉は無色透明だったが、私が触れると眩く光り始め、1680万色(正確には16777216色)に輝く。
「こ、これは………!」
「まさか、これ程とは………」
叔父とホルスナー氏が何か言ってる。
ところで、これっていつまで持っていればいいんだろうか。結構光が強くて直視出来ないから目を眇めているんだが、そろそろ目が潰れそうだ。
「………そろそろ、手を離しても大丈夫ですよ」
ホルスナー氏から終わりの合図があったので、さっさと手を離した。
それで、私は何の属性に適性があるんだろうか。ゲーミングカラーだったから、何にでも適性があるとか?
「ユーキスタス様の適性は、全属性でございます。しかも、魔力量も素晴らしく多く、恐らく歴代最高クラスの魔術師となる事が出来るでしょう。ダメ元で尋ねますが、神に仕える事に興味があったりしませんか?」
ゲーミングカラーな私は全属性らしい。魔力量とやらも高いとな。これはホルスナー氏も驚く程の能力の高さらしく、叔父の前で勧誘が来た。おいおい。貴方もか。
「ダメだ。ユーキスタスは未来の国王だからね。仮にユーキスタスが了承したとしても、王と先代が許可しないでしょう」
それもそうだし、私は神とやらを信じていない不心得者なので駄目ですね。そもそも、神官になるという人生設計も無かった。
いや、それよりも聞いておきたい事があるんだが。
「ところで、全属性と仰いましたが、全属性とは何の属性が含まれているのでしょうか? というより、属性は何種類あるのですか?」
「あぁ。まず、この世界は五元素で構成されていると言われています。火、水、風、地、空の五属性ですね。それと、相反する属性である光と闇に、未だ分類が進んでいない無属性。その他色々です。ユーキスタス様の全属性というのは、文字通り全ての属性であり、一概に“この属性”と言えるものではない特殊な属性となります」
つまり、この世に存在する全ての属性に適性があるという事だろうか。うーん………一国の王子とはいえ、余りにも出来過ぎてないか?
叔父も驚いていたし、王族にもそう多くはないのだろう。
「因みに、私は水と風の二重属性で、兄上は火風地の三重属性だよ」
自分の属性は兎も角、父の属性を勝手にバラしても良いのだろうか。ここには、私達だけでなく神官も居るんだぞ。
「私も兄上もここで属性判定を受けたからね。それに、教会関係者は属性判定を受けた者の属性を記録しなければならない。だから、私達だけではなく全国民の属性は教会には筒抜けだよ」
成程。記録されているのならば仕方ない。それに、態々適性を隠す事でもないのだろう。
魔法属性を知る事は、精々、自身の選択肢を増やす事くらいしか無いのだろう。
戦争とか物騒な事が起きていれば、適性を参考にされ軍に引き抜かれるみたいな事もあっただろうが、今は平和な世の中だ。案外、前世の性格診断みたいな気軽な判定なのかもしれないな。
魔法属性についての軽い説明を受け、この日はそのままお開きとなった。勧誘してきた神官も、元々強く引き止めるつもりが無かったのか、特に何を言うでもなくそのまま別れた。
ゲーミング属性