17.婚約辞退
「ミルキナ候爵から辞退の申し出があった。この婚約話は王命という訳ではなく、両家に打診した形である事から、私はこれを了承した。という訳で、クルシュタット公爵家から辞退の申し出が無い限りは婚約者候補はアンティローゼ嬢となる。ユーキスタスは彼女でも問題ないか?」
お茶会から数日経った後、父からそんな事を告げられた。
ミルキナ家、クラリス嬢の家は婚約の話を無かった事にして欲しいそうだ。何が理由かは教えては貰えなかった。
2人居た婚約者候補が1人になってしまった事で、私の方に特に問題が無ければ婚約者はアンティローゼ嬢に決まるらしい。
まぁ、アンティローゼ嬢が気に入らなかったら、突っぱねても良いらしいが、その場合クルシュタット家にいい顔はされない。政略結婚ではないとしても、やはり政治が絡むようだ。しかも、相手はこの国が誇る穀倉である公爵家。
つまり、私が取れる選択肢は一つな訳で。………まぁ、アンティローゼ嬢が駄目という訳でも無い。非常に可愛らしい女の子だと思うし、顔も良い、良過ぎる。かと言って性格が悪い訳でもなさそうだ。
という訳で、私の婚約者はアンティローゼ・フォン・クルシュタットに決定した。この事を大々的に発信したのかは定かではないが、有力な貴族家達は知る事になったのだった。
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「ユーキスタス様、ご婚約おめでとうございます。クルシュタット家といえば、国内最有力の家。つまり、王家は国内の安定を図ったという事でしょうか」
側近見習い達が私にお祝いの言葉を述べてくる。当たり前のように側近見習い達はこの事を知っているんだな。いや、側近見習い達はこれでも有力貴族の子弟だ。知っていても不思議ではないか。
「ありがとう。もしかして、皆はアンティローゼ嬢と顔見知りだったりするのかな?」
側近見習い達は首を左右に振る。まぁ、相手は公爵令嬢だからな。おいそれと会う事は無いのだろう。
「私は有ります。何度かお茶会でお話した事もあります。そういえば、何度かユーキスタス様について尋ねられた事もありました」
レイレムスに付いて来たジュリエッタ嬢が手を挙げる。ジュリエッタ嬢はこうして時々王宮に遊びに来ている。
件の病はあれから更に進行してしまったが、最近開発された車椅子を手に入れてからは、彼女自身の活動範囲が広がったようで、見聞を広げるかのようにあちこちに行っているらしい。
この車椅子は、私が前世の老後でお世話になった物を記憶から掘り起こし、アイディアとして提案した結果の代物だ。グランデスブルグ家はその財力を活かし、各地から一流の技術者を結集させ、ジュリエッタ嬢に合う唯一無二の車椅子を開発したそうだ。一番難儀したのは、ジュリエッタ嬢本人が座る座椅子部分であったようだ。如何に座り心地を良くするか日夜研究を重ね、素材を厳選し、至高のクッション性を備えたワンオフ車椅子が出来上がった。
私の感覚では、車輪部分に難儀するのだと思っていたのだが、魔法(のような技術)でちょちょいだったようだ。凄い。
この中で、アンティローゼ嬢やクラリス嬢と面識があるのは、ジュリエッタ嬢だけか。………そういえば、ジュリエッタ嬢も公爵家だった。アンティローゼ嬢は時々お茶会を開いていると言っていたから、高位貴族の令嬢としてお互いに交流をしていたのかもしれない。
「そういえば、皆も婚約者って居るのかな? あぁ、レイとジュリエッタは別として」
「カストル様以外はいらっしゃいますよ。それと、先日エリエリ達の婚約者が決まったとか」
割と貴族の婚約って早い段階で決まるものらしい。ラーグ家だけ居ないのは、“賢者塔”という特殊機関のせいかな。いや、カストル………というかラーグ家の性格のせいでも有り得そうだが。