10.エリエリ
私の威圧感に押されたのか、双子は少したじろぐ。しかし、私に気圧され下がってしまったのが許せなかったのか、エリスティンが飛び掛かってくる。
言い忘れたが、私は前世の時分は柔道の有段者であった。そのため、無手のド素人相手なら易々と制する事が出来る。
問題はコイツ等がお子様である事と、投げられた時の受け身を習っていなさそうな事だ。そのため、気を使って無力化しなければならない。襲って来た相手に気を使うのは武術を習う者にとってはあるある話らしい。まぁ、本当にそんな事が起こった時、私にそこまで気を回す余裕があるのかは微妙だが。
エリスティンを適当に地面に転がすと、次いでにエリオットも近い位置に投げ飛ばす。どちらも優しくしたので怪我はしていない筈だ。ただ、地面に叩き付けたのは事実なのでそれなりに痛みはあるだろうが。
「君は来ないのかい?」
「え?」
残ったドナテロに声を掛ける。多分、無いとは思うが、ドナテロが双子をけしかけたという可能性もある。彼が双子の子分というのならば、双子を見捨てる事もあるかもしれない。果たして、彼はどういう選択肢を取るだろうか。
「えーと、い、行きます!!」
わー、と声を上げながらこちらに突っ込んで来るドナテロ。彼は双子の後に続く事にしたようだ。それが、子分的な気質であるのか、双子と友達だからなのかは私には判断出来ないが、とりあえず双子と同じように投げておいた。
「痛てて………。おい! 卑怯だろ! ズルしてんじゃねぇぞ!!」
痛みに悶えていた双子が開口一番、そんな事を言う。口数が多いのがエリオット、暴力に訴えるのが早い方がエリスティン。覚えた。
「卑怯? ズル? 2人がかりで襲って来る君達の方が卑怯じゃないか?」
「それは!………そうだけど。でも、何ださっきの!! ズルいぞ!! 俺達にも教えろ!!」
えぇ………? そういえば、この時代は極東の武術なんて伝わっていないか。現代では柔道は全世界で人気の“スポーツ”となってしまったが、この時代ではただのマイナー武術だ。
ここに転生してから、私も柔術を誰かに習った訳ではなく、さっきのは前世の知識で再現したモノだ。双子が技を知らなくて当然だろう。ただ、それをズルとは言われたくはない。
「あの、すみません。エリエリ達はユーキスタス様と遊びたかっただけなんです。2人共、素直じゃないから。不敬な事言ってしまって申し訳ありません」
「バッ………いや、そうだよ。俺達が悪かったよ。でも、お前が謝る事じゃねぇだろ。お 前、俺達の母上かよ………」
私知ってる。こういうのをツンデレって言うんだったな? しかし、エリエリ? エリオットとエリスティンで“エリエリ”か。愛称呼びを許してるって事は、単なる“子分”という訳でもなさそうだな。
しかし、ドナテロ君の言葉遣いが5歳児とは思えない程しっかりしていて、私もビックリだ。もしかして、前世の記憶とか持ってる?
「ふむ。分かった。私も君達と遊びたかったんだ。実は同年代の子と会ったのは今日が初めてでね。どう接すればいいのか、掴みかねていた私にも落ち度があったのだろう。それで………改めてお互い自己紹介しようか。私はユーキスタス・フォン・エンドロフィア。継承権が何位かはよく分からないが、王子だ。今後とも宜しく」
私は双子に手を差し伸べ、無理矢理立たせる。ついでに服に付いた草を払ってやった。
「お前の話し方、難しくてよく分からん。もっと分かりやすく言え。まぁ、いい。俺はエリオット・フォン・エスピナー。未来の騎士団長様だ。覚えとけ」
「エリスティンだ。お前も俺達の事を“エリエリ”って呼んでもいいぜ。友達だからな」
「ドナテロ・フォン・ハーバリアスです。ジョナサン叔父様から、ユーキスタス様のお話をよく聞いております。それで、僕、今日、お会いするのが楽しみでして………」
双子の友達認定が早いな。まぁ、双子に友達と認められて私も嬉しい。
そして、ドナテロ君の顔が赤い。ハーバリアス講師から私の話を聞いている? 神童が何たらとかいう話だろうか。ドナテロ君の期待を裏切るようで申し訳ないが、私はただの人である。余り期待し過ぎると落差が酷い事を、今の内に教えておいた方がいいのかな。
とりあえず、これで相互不理解による衝突は無くなった。私にガンを飛ばしていたお子様達は懐柔出来たし、この3人と一緒に他の子供に接触しに行こうかな。