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第38話 ふざけんなよ、リュード

 俺は戦闘国家フィーネに向かう準備をしてるシャルたちと合流する前に、王の間にいるリュードに会いに行く。


「なんだ、シエロ。まだおったんか」

「いちゃ悪いのかよ」


 顔を合わせて第一声が、まだいたのかって。

 それが今から魔王倒しに行くって勇者にかける言葉か?

 大丈夫か? とか、頼んだぞ! ぐらい言えよ。

 そういえばこいつもステータスを見せて以来、俺のことを舐めてるよな。

 リュードの態度には腹が立ったが、ピットちゃんの教えを守ることにし、リュードに回転丸のやり方を、架空の技と教えずにレクチャーする。


「ほう、そんなことができるのか、ふむ」

「まぁ、そうですね。出来る人はですがね。そんな簡単には……!」

「回転……回転か。いや、確かに難しいな」

「難しいって……そりゃそうだよ」


 回転丸は地球の有名漫画、トラコンボーイの主人公が使う必殺技。

 気を手のひらに集中させて、相手に回転した気の圧縮弾を放つというもの。

 難しいとか以前に、架空の話なのだから出来ないのが当たり前なのである。

 なのにリュードは、俺の話を聞いただけで、回転丸もどきを手のひらに出現させる。


 いや、いやいやいや、なんで出来るんだよ!

 リュードもユウリみたいに真似するとは思っていたが、嘘……出来ちゃったよ!?


 漫画で見た回転丸と比べると、大きさも回転もまだまだではある。

 でも、気を練って手のひらに回転させて留めるという行程は全てやれている。


「リュード、それ、投げてみてくれないか?」

「おい、今呼び捨てにしたな! ……投げればいいんじゃな? ほれ」

 俺は驚きのあまり、敬語も忘れてリュードに回転丸もどきを投げるように指示。

 リュードは言われた通りに、手のひらに作った回転丸もどきを、近くに飾られてる花瓶に向かって投げる。


 手から離れた回転丸もどきはゆったりと放物線を描いて花瓶に飛んでいく。

 漫画で見た本物の回転丸のようなスピードも迫力も無い。

 花瓶めがけて投げていたが、あれじゃ、花瓶まで届かないだろう。

 静かーに回転丸もどきが花瓶ではなく、ギリギリ花瓶を飾っている台座に当たるのを目にする。


 パァァーーーーン!


 俺とリュードしかいないこの静かな広い空間に、耳鳴りがするほどの破裂音が響き渡る。

 回転丸もどきは台座に触れた瞬間、大きな音を立て、台座を半円状に消し飛ばしたのだ。


 いや、だからおかしいって!

 何それ、めちゃくちゃ怖いんだけど。

 あのちっちゃな気の球で台座1/3ぐらい無くなっちゃったよ。

 おいおい、冗談だろ。威力どうなってんだよ。

 そんなこと出来るなら、魔王倒しに行くの俺じゃなくてもいいだろ!


 リュードの回転丸もどきの馬鹿げた威力に、俺は驚きを通り越して、怒りに変わっていた。

 そんな力があるなら、勇者召喚とかに頼らず、リュード本人が魔王討伐やればいいと思ったのだ。


「何やらしとるんじゃ! 貴様ー!」


 回転丸もどきの威力に驚いたのは、シエロだけではなかった。

 投げたリュード本人も、その威力には驚く。

 言われるがままに投げてみたはいいが、まさか台座を破壊することになるとは、投げた本人も思っていなかったのだ。

 そもそもリュードはシエロから回転丸ってのがあるよぐらいにしか聞いておらず、それがどういうものなのか理解せずに、聞いたことをやっただけなのだ。

 リュードは自分でやったことではあるが、台座が壊れたことに対する怒りを、シエロに対して向ける。


「王様であるわしを舐めたその愚行ぐこう。許さんぞシエロ! 表に出ろ。わしが直々に調教してやる!」

「はっ、いいぜ。俺もあんたには舐めた態度取られて腹がたってたんだ。ユウリの親だからって容赦しねーからな!」


 怒りの頂点に達した二人は、魔王フミヤ討伐を忘れ、1対1の決闘を行うことにする。


 アスティーナ王国を離れ、戦闘国家フィーネへと旅立つ、その直前の最終イベント。

 転生勇者シエロ・ギュンターとアスティーナ王国国王リュード・ヴェイン・アスティーナの戦いが、今、始まろうとしているのだった。

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