第3話 シエロ、異世界に行く
真っ暗な闇の中を下に下にと落ちて行く。
なんだか意識が朦朧としてきた。
転生というのはすんなりいかないものだ。
当たり前のことだが、初めての体験をする。
いつまで落ち続けるのか。どれぐらい時間が経過したのかもわからない。
朦朧とした意識が切れかったその時、俺は微かな光を目にした。
複数の人が囲む、その紫色の淡い光の中に、俺は飛び込んで行く。
「石……床……人?」
朦朧とした意識の中で状況を確認する。
無事アスティーナ城に着いたのだろうか?
石で敷き詰められた床を触り、俺を囲む紫色に淡く輝く、魔法陣のような物を目にする。
そして魔法陣の周りで大騒ぎしてる声が聞こえてくる。
俺を召喚した人たちなのだろうか?
「はな……しかけ……ってあれ?」
周りの人と話さなくてはと思い、口を開こうとするが、思ったように声が出ない。
「勇者が倒れたぞ!急いで救護班を呼べ!」
周りの声は聞こえる。勇者が倒れたって言ったか?
あぁ、多分俺のことか。たしかに立つ気力もないな。
床が冷たくて気持ちい……。
シエロは意識が完全に途切れ、まぶたをゆっくりと閉じた。
◇◇◇◇◇
「ん、んんん……ここは?」
「お目覚めになられましたかな」
寝てたのか。目を開けると、知らない部屋のベッドで横になっていた。
そこで知らないおじさんに話しかけられる。
「えっと、あなたは?」
「私は王の側近を務めております、コロネと申します。あなた様に何かあってはいけないということで、看病させていただきました」
看病? そういえば魔法陣のようなところに着いてからの記憶がない。
気を失ってたんだな。
……あれ、待てよ。俺って転生したんだよな?
つまりここは……。
「ここって異世界ですか? 俺、異世界来ちゃいましたか!?」
「え、ええ。ここはウレールにあるアスティーナ王国でございます。勇者様からすれば、異世界となりますかな?」
俺の発言に驚いていたが、コロネはここがウレールにあるアスティーナ王国の城内であると教えてくれる。
コロネは初めて会ったはずの俺を勇者様と呼ぶ。
身分も分からない俺を勇者って断言するのは、ある程度事情を知ってると思い、俺はコロネに現状を聞くことにした。
「……んーと。つまり人類軍と魔王軍は戦争してる最中ってことですか?」
「はい。今アスティーナ王国の西の平原、バルチアナ平原にて魔王軍とアスティーナ兵たちが戦っております」
「そうか、今やってるのか。なるほど、なるほど」
とりあえず今の状況を整理しよう。
今現在、ウレール全土では人類軍と魔王軍の間で戦争をしている最中。
俺が今いるアスティーナ王国も魔王軍と戦っているとコロネは言う。
現状は魔王軍が少し優勢。
何としても魔王軍の進行を防がなければならないという状況下に置かれたアスティーナ王国は、禁忌とされている勇者召喚を行ったと。
なるほど………えっ、もう始まってるの?
「なのでシエロ様の力をお借りしたいと思い、ここに召喚したのです。いきなり召喚されて思うところはあると思いますが、どうか、どうかお力を貸していただけませんか?」
コロネは頭を深々と下げ、勇者として戦いに参加して欲しいと言う。
戦闘が行われている最中と聞いた時点で、こうなることは予想した。
でも俺は言いたい、「だが断る!」って。
今までハサミぐらいしか握ったことがない俺が、いきなり戦場に行くってどうなの?
Lv1ですよ? スキルも分かんないですよ?
今戦いに行ったら確実に死んじゃいますよ、勇者だとしても。
「とりあえず王様と話がしたいですね。コロネさん、悪いけど王様のところに案内してくれないですか?」
俺は弱気発言を恥ずかしくて言い出せるわけもなく、コロネに王と話したいと提案する。
するとコロネは分かったと言い、アスティーナ国王との会談の場を設けるため、急いで部屋を出ていった。
「……えっと……俺、大丈夫?」
コロネが完全に部屋を出ていくのを確認して、俺は思いの内を漏らす。
Lv1の勇者、シエロ・ギュンター。
ステータスは弱くて、スキルはよくわからない。
世界に向けて侵攻してる魔王軍の前に立たされる可能性が大。
あれ……これ、詰みじゃない?
ゲームが好きなヤツなら大体わかる、レベル足りないのにボス行っちゃったを、リアルで体験しそうなのであった。
部屋に戻ってきたコロネは王との謁見ができるようになったと言い、俺を王の間へと連れて行くのであった。
赤い絨毯の敷かれた長い廊下。廊下の先には王の間に繋がる大きな扉。
「コロネさん、ちょっといいですかね?」
俺とコロネは扉の前に着く。扉を開いて王様と会う前に、コロネに聞いておきたい事があったのだ。
「何でしょう、シエロ様?」
「今から王様と会うんですよね?」
「はい、そうですが。何かありましたか?」
「うん。俺のいた世界には王様なんていなかったから、どう話していいかわからなくて。礼儀作法とか、何か必要かなと思いまして」
俺は王と話すということに、かなり緊張していた。
勇者が国の王様に会うというのは、ロールプレイングゲームの定番ではある。
でも現勇者とはいえ、元はただの高校生。礼儀やら敬語やら、ちゃんとできるのか心配になっていた。それに対してコロネは
「心配されなくて大丈夫です。あなたはウレールを救って下さる勇者様なのです。それに王はなかなかフランクな方ですので、ちょっとやそっとのことじゃ怒るような方ではありませんよ」
と俺に言ってくれる。
それなら安心。いや、気を抜くのは早いか。
王様とこれからについて話すのだろう。
俺は言う。言ってやる。いや言わないといけない。絶対言おう。戦えませんって。
心の中で、弱腰であることをどうオブラートに包んで話せばいいかを模索しながら、大きな扉の奥にある王の間に赴くのであった。
はじめましてゴシといいます。
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