第29話 女神と語ろう
「ひどい。ひどいよー、ぐすん。何でこんなことしゅるのーーー、うぅぅぅ」
「泣くなよ。ほれ、まだ残ってるまんじゅうあるからよ。これ食って泣き止んでくれよ」
「食えるかー!」
飛散したまんじゅうの前で泣きじゃくるアリス。
顔は液体まみれ、涙なのか鼻水なのかわからないぐらいに酷い有様であった。
女に泣かれるのは初めてで少し動揺してしまった俺はテンパって、ハンカチでも差し出すように、落ちていた酸まみれのまんじゅうをアリスに差し出す。
アリスは俺の差し出したまんじゅうをベチンと音が鳴るほどの勢いで、容赦なくはたき落とす。
「何? 私サタンとかを転生させた?」
「誰が悪魔だよ! ……いや、やり過ぎたとは思うよ、すまん」
ここまで泣かれるとは思っていなかった俺は、アリスへの怒りは落ち着き、少し哀れみを感じていた。
元はと言えばアリスが俺を放置して旅行に行くのが悪い。
でも女にこんな仕打ちをする俺も被人道的な気がする。大人にならないといけない。
15歳のシエロ・ギュンターくんはLvはそのままに、精神力がいくつか上がったのであった。
「ぐすん。で、シエロは何しに来たのよ」
アリスはだいぶ落ち着きを取り戻し、俺に問いかける。
本当に俺の行動を見てなかったんだなと思い、再び怒りが込み上げてくるが、大人になると決めたので、落ち着いてこの4日間で起きたこと、知ったことを丁寧に説明する。
「そうなんだ。色々あったわね」
「……?」
「ん?」
「ん? じゃなくて」
「……え?」
俺はこの4日間で起きた出来事の中で特に聞きたいことを3つに絞ってアリスに質問した。
・雨の守護神
・文化人フミヤ・マチーノと女神レーム
・黒スライムと黒塗りスキル
アリスに聞くのが良いと思って事細かに話をしたのに、アリスから返ってきたのは「ん?」と「え?」の二文字。
おいおい、ありえないだろ!
何でこいつ最後まで俺の話聞いた?
時間返せよ、おい!
使えないと思っていたアリスに頼ろうとしたのがバカだったのかもしれないと、俺は自分の考えの甘さにひどく落胆した。
それがどうかしたの? という顔をするアリスには顔面ストレートを入れたくなる気分。
しかし、俺は諦めずにアリスに問いかける。
「えっと、話は聞いてたよな?」
「うん、ちゃんと聞いてたわよ」
「そっかそっか。ちなみにその3つで知ってることとかあったりしないかな?」
「雨の守護者とか黒スライムの話は良くわからないわね。ウレールのことって担当したばっかりでそこまで詳しくないから」
そうか、担当女神ってのは全部知ってるわけではないのか。
知らないことを聞いてもしょうがないか。
「文化人マチーノってのも私はわからないわ。聞きたいならレームに聞いたらいいじゃない」
そうだね、知らない人に聞くより知ってる人に聞いた方がいいよね。
ん?知ってる人に聞く?
「え? レームって女神知ってるの?」
仏の顔でアリスの話を聞いていたが、まさかレーム本人を知ってると言い出したぞ、こいつ。
よかった、折れずに聞いてみて。よく頑張ったな、俺!
アリスにレーム本人と会えるかを聞いてみると、アリスはちょっと待っててと言いながら、胸元から携帯電話を取り出し、レームに電話をかけるのであった。
女神同士はテレパシーとかじゃなくて携帯で話すんだな。
……おっ、繋がったぞ。
アリスは電話をスピーカーにして俺、アリス、そしてレームの3人で話せるようにする。
「もしもしアリス?どうしたの?なんか忘れ物した?」
「おっつー、レーム。いや、そういうのじゃないくてね。私が今担当してる星に送った転生者がね、レームと話したいことがあるらしいのよ。今いいかしら?」
「んー、面白い人なら」
「うん、めっちゃ変な人。電話代わるねー」
「え?変な人はちょっと……」
「あっ、もしもし。俺、シエロっていいます!」
アリスに任せてたが、俺のことを急に変な人とか言うから、レームがそれなら嫌かなと電話を切りそうになる。
俺は急いでアリスと電話を代わり、レームと無理やり話をする。
最初は怯えた様子で俺の話を聞いていたレームだが、時間が経つに連れて、俺が変ではないと分かってくれたらしく、しっかり会話のキャッチボールができるようになった。
女神レーム。
姿形は電話越しでわからなかったが、おとなし気で、人と話すのが苦手な、幼なげ少女という印象を受けた。
話し方はたどたどしくあるものの、アリスなんかより全然理解力もあり、俺の質問にちゃんと答えてくれたのだ。
レームにフミヤ・マチーノの話をすると、懐かしいと言いながらウキウキで文化人フミヤの話をしてくれた。
ヨヨからは、フミヤは「レームシバく」と連呼していたと聞いていたので、ウキウキした口調で話すレームには少し驚いた。
「レームさんとフミヤは仲良かったんですか?」
「そうね、仲良かったとまでは言わないけど、悪くはなかったんじゃなかな。私が監視してたフミヤはプラモデル開発に力を入れてて、時たま天界に来てはプラモデルの出来上がりを楽しそうに話してたわ」
文化人フミヤと魔王フミヤが同じ人物だというのはレームとヨヨの話からすると間違いないと思う。
でもフミヤの性格がヨヨから聞いたものとレームから聞いたもので印象でまるで違う。
ヨヨの言う殺意に満ちたフミヤとレームが言うただのプラモ好きのフミヤ。
どちらが本当のフミヤで、今の魔王フミヤなのだろうか。
「その……フミヤが文化人から魔王になったきっかけって何かわかりませんか?」
「それはわからないの。私が誓約させたのは文化人フミヤだったから」
レームは俺に、フミヤと交わした誓約書の内容を教えてくれる。
『フミヤ・マチーノの転生条件』
汝は文化人である以上、ウレールに貢献し、ウレールの繁栄が著しいと判断されるまで女神の監視の元行動しなくてはならない。
「私がフミヤを監視できたのは役職が文化人だった時まで。多分フミヤが40歳になる頃までかしら。そこから先は魔王になったフミヤが何をしていたか、私にも見れなかったのよ」
「そうですか、うーん」
なんだろう。言ってることは辻褄が合うし、嘘を言ってる雰囲気でもないのだが。
何故かレームが話すフミヤという人物には違和感を覚える。
かと言ってフミヤとラック村であっただけのヨヨの言う人物像だけを鵜呑みにするのも違うと思うし。
「わかりました、ありがとうございました」
「あ、シエロくん、あのね……ううん。ごめんね、なんでもないわ。魔王討伐頑張ってね」
「……はい、頑張ります」
レームは何か言いかけたが、言うのをやめて俺にエールを送る。
なんとなくだが言いたかったことはわかる。
10年近くも監視していた知人の変貌を聞かされて、色々と思うところがあるのだろう。
フミヤ・マチーノ。話が分かる人間であれば話し合いで終わらせたいが。
レームには悪いが多分そんな都合のいいことにはならないだろう。
俺はレームとの通話を切り、アスティーナ城の大浴場に戻ることにした。でもその前に
「そうだアリス。俺の監視ができるようにモニターは直しとけよ。あとできれば神様にでも頼んで録画機能つけてもらえ。旅行行っても後で見返すぐらいはできるように」
「は?何様よ、あんた!」
「俺?ウレールの勇者様だよ」
俺はアリスに監視は怠るなよと伝え、「私は女神様なんですけどー!」と言い返してくるのを聞き流して、意識を大浴場に戻すのであった。
はじめましてゴシといいます。
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