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第27話 ありがとう、ラック村

 冒険に出て4日目。今日はアスティーナ城に戻ることになっている。

 俺はラック村最後の昼食をジルと共にとる。


「シエロ…今日帰っちゃうんだよな」

「ん、そうだな。もうそろそろコロネって人が迎えにくるはずだけど」

「そうか」


 別れの前ぐらい明るくしたかったが、ジルの寂しそうな表情をみると俺も悲しくなる。


「俺一応勇者だから…な。行かねーと」

「でもお前…」

「なんだよ」

「まだ弱くねーか?」

「おい!」


 ジルが心配そうにしてたのは確かだったが、俺の思ってた方向とは全然違った。

 別れるのが寂しいというよりか、弱いのに戦場行くの?って方の心配だったよ。


「寂しくなるとかじゃねーのかよ」

「ごめんごめん。寂しいのは寂しいさ。でも生きてればまた会えるからさ。でも戦場に行ったら……ね」


 言葉を濁すが、ジルは俺が戦場に行けば死ぬと思っているのだろう。それは俺も思う。

 Lvは上がったとはいえ、まだ執事のコロネにも届かない。

 フミヤ・マチーノなんて目が合った瞬間に消し炭にされるだろう。

 そもそもフミヤを見ることなく倒される可能性の方が高いとも思う。


「まぁ、なんとかするよ。心配してくれてありがとよ」

「心配といえば、ヨヨ様は?」

「あぁ、うん」

「謝ってないのか?」

「……」


 ジルの質問に言葉を濁す。

 謝った方がいいというジルの言葉を率直に受け入れるのは、俺には難しかったのだ。

 ヨヨのやったことが善意とはいえ、殺されかけたことを易々と許すことはできなかった。


 俺はヨヨのアーツによって四方八方を塞がれた時、黒スライムのことがふと思い浮かんだ。

 黒スライムと初めて遭遇した時も水に囲まれた時だったと。

 そしてそこから脱出したのは、黒スライムが地面に穴を開けてくれたからだと思い出した。

 そこから着想を得た俺は、地面にアシッドを放ち、人が入れるぐらいの穴を作って身を隠し、氷塊の直撃を避けたのだ。

 ただ、直撃はしなかったというだけで、氷の破片なんかはもろにくらっていたのだ。

 俺はヨヨが立ち去るのを氷の中で息を潜めて待ち、ヨヨがいなくなるやすぐ魔鉱の温泉で傷を癒して、それからヨヨを襲撃したのだった。


 俺もヨヨを殺すぐらいのつもりで追いかけ回したけど、元はと言えばあいつが悪いよな。

 俺のためだったのは後でわかったけどさ。

 それでももっといいやり方あっただろ。

 120歳であんなやり方しか人を立ち直らせれないなんて、どうなってるんだよ。


 俺は自分でおかしなことを言ってるのには気がついていた。

 自分が勇者として戦える自信をつけさせるためにヨヨが悪役になってくれたことはわかっているのだ。

 それでもやりすぎなことを思うと、素直にありがとうもごめんも言えなくなっていた。

 だが、このままラック村を離れるのもしこりが残る気がする。

 嫌だけど…世話になったしな。


「ジル」

「なんだシエロ」

「その…魔族との別れ方ってなんかあるか?」

「なんだそれ?…いいぜ、教えてやる」


 素直になれない俺を察してくれたジルは、喧嘩したリトルピクシーとの正しいお別れの仕方をレクチャーしてくれるのであった。



◇◇◇◇◇



「シエロか……どうした?」

「……よお」


 俺はジルの『目指すは親友!絶対仲直り大作戦』というなんとも気恥ずかしい講義を受けて、ヨヨのいるキャベツ畑に足を運んだ。

 ヨヨは小さな雨雲を作り、キャベツ一つ一つ丁寧に水をやっていた。


「おっきい雲でやらないんだな」

「ん?ああ。キャベツは痛みやすいから一気に水をやれないんだよ。だからこうやって一つずつやらないとなんだ」

「そうなんだ」

「……なんか用か?用ないなら水やり続けるぞ」


 何気ない日常会話から入って徐々に謝る方向に持っていく計画だったが、ヨヨはそんな会話をするなら仕事に戻ると冷たく突き放した。

 こいつは、空気読めないのか!

 こっちは謝ってやろうと思ってたのに。

 ……ん?なんだ?なんか言うのか?

 ヨヨは俺の方をじっと見つめる。


「なぁ、シエロ」

「なんだよ」

「俺もアスティーナまでついてっていいか?まだ次行くとこも決めてねーし。……なんか心配だしよ」

「……うん」


 ヨヨは不器用なやつだな。俺と同じで謝れないでいたのは、今の会話で全て伝わった。

 それから俺もヨヨも謝ることはせず、俺はただ黙々とヨヨの仕事を見守っていた。



◇◇◇◇◇



 アスティーナ城を出てからちょうど100時間が経つ。

 俺とヨヨ、そしてラック村の人々は、俺が最初に転送された場所であるスラ高原に集まっていた。


「そろそろコロネって人が来てくれるはず……おっ、来たか」


 迎えを待つ俺たちの前に青白い渦巻くゲートが出現。

 そのゲートから王の執事、コロネが顔をのぞかせる。


「お迎えに上がりました、シエロ様」


 コロネはアスティーナ城への帰還を望むと言うが、少しだけ待ってもらうことにする。

 世話になったラック村の人たちに最後の挨拶をしたかったのだ。


「みんなのおかげで十分な修行ができたよ。みんな、本当にありがとう」

「本当に十分か?まだ足りないんじゃない?」

「俺の方が強いぞ!」

「まだ残った方がいいんじゃない?」

「薪割りしてる方が向いてるぞ!ガハハハハ」


 挨拶だけして行くつもりだったが、ラック村の人たちは、最後まで場を賑やかしてくれた。

 好き放題言ってくれる。でも、これはこの人たちなりのエールだと思う。

 後ろで「もしかしてまだ弱いんですか?」とか言ってくるコロネには少しイラッとするけど。

 いい人たちと出会えてよかった。

 またな、ラック村。


「いくか、ヨヨ!」

「おう、シエロ!」

「え?魔族を連れて行くつもりですか?待っててください、許可を取りますんで」


 俺とヨヨがラック村に別れを告げたというのに、コロネは王に確認を取るからと言い、一度ゲートを閉じるのであった。


「「「…………」」」


 もう喋ることねーよ!

 空気読めや、コロネーーー!!


 最後の挨拶のつもりが、あと小一時間待たされることになる勇者、ラック村一同であった。

はじめましてゴシといいます。

読んでいただきありがとうございます!

この話を読んで面白そうって少しでも思ってくださる方がいてくれると嬉しいです。

まだまだ話は続いて行きます。これからも更新して行きますのでブックマークの方もよろしくお願いします!


下の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

応援されてると思うとやる気めちゃ出てスラスラ書いちゃいます。

これからも愛読と応援のほどよろしくお願いします。

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