第20話 VS黒スライム
宙を舞う黒スライムは、ウネウネと体から触手を複数本出し、俺に向かって触手を伸ばす。
俺はその攻撃を壁蹴りでなんとかかわしてみせる。
避けたスライムの触手攻撃は、地面や壁に突き刺さり、複数の大穴が出来上がる。
あんなんくらったらヤバすぎるだろ!
なら何でさっきは大丈夫だったんだ?
いや、大丈夫ってほどでもなかったか、スゲー痛かったし。
でもあれをくらってたら俺の体にも穴が……怖い怖い、考えるな。今はあいつをどうするかを考えないと。
自分が穴だらけになる姿を想像してしまったが、すぐにその想像を振り払う。
最初にくらった攻撃で腹に穴が開いてなかった事を考えれば、あの攻撃はかなり痛くても、体は耐えられるという事実だけは確かなことだったのだ。
攻撃力やら防御力やら、ステータスプレートにはいろいろ数値が書いてあるが、ウレールのステータスなんてテキトーに決まってる。
あんな壁に穴の開くような攻撃くらったら防御力8の俺なんか即死のはず。
ゲーム脳で考え過ぎるな。俺は勇者なんだ、そんな簡単にくたばってたまるか!
「スライムだろうが容赦しないぞ!くらえ、アシッド!」
手のひらから大量の酸を放出。
黒スライム目掛けて放出される酸は見事にスライムを捕らえた。
よし、これであいつは溶けるだろ!
酸を浴びたスライムがどうなっているか。
「おいおい、嘘だろ」
俺の渾身のアシッドはスライムの体まで届いていなかった。
黒スライムは体から出した一本の触手を回転させ、盾のようにして酸を防ぐ。
そして酸を防ぎ終わると、酸によって溶け始めている触手を体から分離させるのだった。
「そんなのありかぁ、グゥッ!?」
黒スライムがどうなったかに気を取られて、周りを見ていなかった。
スライムから伸びた他の触手に気づかず、側面から触手の攻撃をモロにくらってしまう。
攻撃で穴が開くわけでは無かったものの、触手攻撃を受けた左腕と左足は動かすことが出来ないと思うほどの激痛が走っていた。
クソ痛い……やばい飛びそう。
体は何故か頑丈だが、痛みだけはどうにもならず、スライムの攻撃は身体的にというよりも精神的に俺の意識を削っているのだった。
さっきからこんなに攻撃喰らってるのに、なんで立ってられるんだ?
壁にめり込んだりして、額を切ったりはしてるがほとんど目に見えた致命傷にはなってない。
俺は本当に平気なのか?
それとも、もう死んで夢でも見てるのか?
現実で起こっていることは夢のようなことばかり。
運良く水死体にならなくて済んだと思えば、あの強力なスライムと戦うハメに。
運が良いのか悪いのかも分からない。
そもそもこの洞窟にはクリスタルスライムしかいないって話だったじゃないか!
話が違うじゃないか……うっ。
触手の猛攻をダッシュで逃げながら脳だけグルグル回していた。
スライムの攻撃は手を休めることなく狙い続ける。
避けて触手が地面に突き刺さる度、パーンと風船が弾けたかのような破裂音が響き渡る。
「おい、お前。話出来るんだろ? 今すぐ攻撃やめろー!」
俺は触手から逃げながら大声でスライムに頼み込んでみる。
でもスライムは攻撃を辞める気配が全くない。
なら戦うしかないけど、酸は効かない。
鍬はさっきの水で流された。本当にどうするか。
仕方ない、あいつらに頼るしか。
「ヨヨ様ー、おいヨヨ様ー!そうだアリス、アリース!あっ、レームって女神でも良いですよ。レームさーん、見てませんか、ってどぅあ!」
ついさっき神を信じないと心に誓っていたにも関わらず、窮地だからしゃーなしと、知ってる神たちの名前を連呼する。
しかし誰からの返事も無く、俺は触手に足を掴まれてしまった。
「クソ、アシッド!」
自分の足を溶かさないように体から離れた位置に酸を放つ。
直撃したスライムの触手はまたも体から切り離され、俺は解放されるのだった。
「………」
「クソ、効いてんのか、俺の酸は?」
「……キカナイ……トメル」
「効かない?効いてないのか?……止める?……なんだ?」
黒いスライムはまた変なカタコトを話し出し、急に触手を引っ込める。
俺の攻撃は効いてないのか。
それとも俺に攻撃が効かないとか思ってくれたのだろうか。
もしかしたらチャンスかも知れない。
触手が出て無い今のうちに一気に距離を詰めてアシッドを喰らわせるか。
逃げ出してくれるならそれでも良いが……どう出る?
スライムの行動を様子見するか、又は自分から仕掛けるかの二択に悩んでいた。
すると先に動き出したのはスライムの方であった。
地面を思いっきり跳ね、俺に向かって一直線に飛んでくるのだった。
突然のことに驚きはしたが、真っ直ぐ向かってくるなら、こっちも全力で酸を出してやれば良い。
「くらえ、アシッ……!?」
スライム目掛けて酸を放とうとするが、スライムの突進スピードは想像以上に早かった。
俺はスライムに取り憑かれてしまったのだ。
「しまっ……うっ……あがが」
顔に飛びついたスライムは、俺の口を塞ぎにくる。
やばい……これはやばい。
スライムは完全に俺の呼吸を止めに来てる。
剥がそうとしてもツルツル滑って上手く引き剥がさない。
酸を出そうにも、今攻撃すれば自分の顔も溶解してしまい、もし倒せても自分が助かる見込みが全くない。
限られた時間は長くても数分。
その数分でなんとかしなくては窒息死させられる。
どうするどうするどうするどうする。
俺にできることは酸を出して胃と肩を治すぐらいしか……くそ、やばいやり方を思いついたが、そんなことやれるか?
いや、時間がない。どうせ死ぬのを待つだけならやるしかないよな。
「ナニ……イキ……!?」
覚悟を決め、俺は最後の賭けに出る。
スライムは俺の行動に驚く。
俺の決断。引き剥がすでも攻撃するでも無い。
それはスライムを食べてしまうことだった。
口にくっつくスライムを一気に飲み込む。
そしてステータスパネルですぐさまアーツを発動させる。
体に取り込んだスライムは、体の中から逃げようと試みていた。
内臓を直接攻撃される。
触手からくらった攻撃も激痛だったが、今受ける激痛は想像を絶する痛みだった。
だがスライムは内臓を突き破ることは出来ない。
それはスライムが今強固な壁に阻まれたアシッドの海の中に閉じ込められた状態だったからである。
俺はステータスパネルで発動し続けているアーツは2つ。1つは酸攻撃のアシッド。そしてもう一つは使い道など全く無いと思われてたアーツ、胃を元に戻すであった。
胃の中にスライムを閉じ込めて、アシッドを胃の中で大量に放出。
その後、胃を元に戻すで胃が破られる前に回復。それを交互にステータスパネルで実行していたのだ。
胃の中で暴れ回るスライムと胃の中を駆け回るアシッドに何度白眼を向かされたか分からない。
涙を大量に流し、かなりの吐血をしながらも、俺は自分の決めた作戦を実行し続けるのであった。
アシッド……胃を元に戻す……アシッド……胃を元に戻す……アシッド……胃を……。
痛みに耐え、MPが切れる前に頼むから倒れてくれと、俺は願い続けた……。
「……コイツデイイカ……マタイツカヒツヨウナラバワタシハ……カンシャシロヨ……◼️◼️◼️◼️◼️◼️…………ヨシ」
「……」
胃の中で消えてゆくスライム。
だがそんなことは知らず、完全に失神していたのだった。
手元に表示されたままのステータスプレートは、シエロの知らないところで大きな変化を見せるのであった。
『スキル:◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』
はじめましてゴシといいます。
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