少年と花屋_精霊の森にて。
今日は花屋の定休日、1日目。私の服装は休みとは言いづらい大きなリュックと動きやすい服を装備していた。
「戸締まりよし、忘れ物なし!」
花屋の看板をcloseにして、早朝の王都を離れる馬車に乗るために急いで馬車乗り場へ移動する。
馬車乗り場には既に馬車が着いており、中には数人が乗りこんでいた。
私は御者さんにお金と行き先を告げ、馬車に乗りこむ。
私が馬車の中に乗りこんだ後、時間になったのか馬車が動き出した。時間はギリギリだったよう、危なかった。
私は馬車が目的地まで着く間にまだ食べていなかった朝食を食べることにする。今日はパンの中にラフレシアの果肉と蔓を炒めた惣菜パン。先程つくったのでとても美味しそうだ。
私が美味しくパンを頬張っていると、目の前に座っていた少年が話しかけてきた。
「ねぇ、お姉さん。すごく美味しそうなパンだね」
目を輝かせながら褒めてくれる。目の前でパンを頬張っている場面を見せられたら、まだまだ育ち盛りの少年には厳しいところだろう。
「いる?」
せっかく褒めてくれたので残り1個のパンを少年に渡す。
「え、いいの?ありがとうお姉さん!」
少年は私の手のパンを受け取って小さい手で頬張っている。これから少しばかり危険な場所に行くのでこんなかわいい子供の笑顔を見れたら幸せだ。
「お姉さんの名前は?僕はシューだよ!シュー・ターナード」
「私はフェリシアよ、王都で花屋を営んでいるの。今日はその花を仕入れに行くために馬車に乗っているわ」
「そうなんだ!僕は友達に会いに行こうって思ったからなの!」
馬車の中もその言葉で微笑ましい空気になった。うさぎのようでシュー君はとてもかわいい。
でも、家名があるのは裕福な家庭か、貴族だけなので1人で馬車に乗って友達の家にいくのは少し不自然なところがあるというか、なんというか。
親は心配しないのだろうか、それとも複雑な事情があるのかもしれない。あまり野暮に突っ込むのも良くないので、私はあまりそれ以上考えないようにした。
2時間がたった頃、数人が乗っていた馬車はもうシュー君と私しかいなくなっていた。ここから先ずっと森を進んでいくので、シュー君の友達は山暮らしなのだろうか?幼い子の交友関係は私が思ってたよりも、実は広いのかもしれない。
まぁ私の交友関係が狭かっただけなのかもしれないが。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、馬車は森の前で止まった。
「あ、もう着いたのかな?」
私が今日行くお目当ての場所は精霊の森である。
精霊の森は名前の通り精霊が住んでおり、精霊の姿形は見えないが精霊から出る精霊力によって、森が精霊化しているという珍しい森だ。
そしてそこは精霊の恵みにより、様々な花が取れるので仕入れには持ってこいの穴場である。
「じゃあ私はここで降りるよ。シュー君また会えると良いね!」
馬車に残っているシュー君に手を振り、馬車から出ようとしたところ……
「え?僕もここだよ!一緒だね、お姉さん!」
「…え?シュー君の友達って精霊の森に住んでるの?」
「そうだよ!この山の頂上に住んでるんだ!」
……初めて聞いたわ、精霊の森に人が住めるなんて。
だってここ、魔獣の巣窟なのに。
「僕1人じゃやっぱり不安だからお姉さんについて行っても良い?お礼に頂上のお花見せてあげる!」
「一緒にいこっか!」
「…うわぁ、潔い大人って僕好きだよ」
ん?今子供らしかぬ言葉が出たけど気のせいだよね?もう一度シュー君の顔を見ると、先程の遠くを見た顔から天使の笑顔に戻っていた。見た違いかな、きっとそう。
「でも私がいなかったらシュー君どうしたの?」
幼い子供が精霊の森に入って無事で済むわけもないので、対策はあったのか聞いてみた。
「僕、動物と仲良くなるのは得意なんだー!」
屈託のない笑顔で言われた言葉はそれだけ聞いたら違和感はないが、違う。
この子の中では動物=魔獣になっている。本人は得意げな顔をしているので指摘はしないが、この調子では頭からパクリである。
私がついてきて良かったー、私は心からそう思った。
そんな物騒な会話を明るい雰囲気でしながら山道を歩いていると、早速茂みから魔獣が出てくる。
「シュー君!下がっておいて!私が__」
倒すから!という言葉は喉から出ずその光景に目が奪われた。
「お手!!」
シュー君は自分の身長が何倍もある熊型の魔獣に向かって命令をしていた。
「シュー君!手ぇ引っ込めて!」
私は魔獣の前に移動しようと走る。
間に合わない!と思ったそのとき、
ポン、という音と共に魔獣がシュー君の小さい手にお手をした。
もう何が起きてるか分からない。
「何が……??」
私が困惑している中、シュー君はこっちを向いて
「ね?動物と仲良くなるのは得意っていったでしょ?」と微笑んできた。
私が恐る恐るシュー君の前にいる魔獣を警戒しながら近づくとなんとシュー君は魔獣の背中に乗り出した。
「シュー君!?危ない!」
私は止めるがなんとシュー君はそんな私に手を差し伸べる。
「ほら、お姉さんも一緒に乗って頂上まで行こうよ!」
その時私はふと思った。
あれ、私がいなくても全然いけるのでは?
また此処で新しい出会いですね!
かなり不思議なシュー君はいったい何なのか
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