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12 聖女として

 エレーナはメイドのルナを呼び、指示を出した。


「かしこまりました」


 指示を受け、ルナはすぐに部屋を出た。

 そしてしばらくの後、ルナが戻ってきた。


「エレーナ様、中庭にございます」


「わかったわ、ありがとうルナ」


 エレーナは父の方を向き言った。


「おっ父、また嫌な思いをさせちまうかもしれねぇだども……」


 父はなにも言わずに頷いた。



 ∮



 中庭の扉を開けると、強い日差しに目がくらんだ。

 帽子を被ってきて正解だったわ。


 視線を中庭中央にやると、シスター・クレアと二人の人物がいた。



「やぁ、エレーナ様、誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。それで、そちらの方がエレーナ様のお父上かな?」


 二人のうちの一人、エレーナの義兄であるスレインがにこやかに言った。

 スレインは去年の誕生日も祝いに来てくれた。

 去年のプレゼントは有名店の菓子だった。

 手渡された袋の重さからして、おそらく今年もお菓子だろう。


「ありがとうございます、スレインお義兄様。ご来訪、心より歓迎いたしますわ。紹介します、こちら、私の父です」


「レ、レナの……エレーナの父です! む、娘がお世話になっています!」


「お会いできて光栄です、父上殿。僕はエレーナ様の養子先、エルリック家の長男、スレイン・エルリックです。エレーナ様にお世話になっているのはむしろ僕の方ですよ。彼女の笑顔にはいつも元気をもらっています。こんなに明るくまっすぐに成長されたのは父上殿や母上殿の温かい愛情があったからこそでしょうね。一人の人間として一人の男として僕はあなたを尊敬します」


「は、ははー! も、もったいないお言葉です、スレイン様!」


 エレーナは胸をなでおろした。

 よかった。

 もしかして、スレインも貴族の地位を振りかざすのではと心配していた。どうやら杞憂だったらしい。

 侯爵家だということを伏せてくれたこともありがたかった。

 おかげで父の緊張が100から80程度に減ったことだろう。

 こんなにできた人物を自分の義兄にしてくれた教皇には感謝しかない。

 同時にチクリと胸が痛む。

 エレーナはいつからか、スレインのことを一人の男性として意識していた。

 気がつくと、スレインの来訪を心待ちにしている自分に気づいてしまった。


 どうあっても叶わぬ恋だった。

 スレインがエレーナの義兄である以上、エレーナの思いが実ることはないのだ。


 エレーナは頭を振って気持ちを切り替えた。

 今考えるべきは別の問題だ。


 眼の前で正座をするグリッセンに目を向ける。


「グリッセン。私はあなたに二度と顔を見せるなと言ったはずですが?」

「お、おい、レナ……」


 慌てる父をエレーナは視線で制した。


「申し訳……ありませんでした」


 グリッセンが地面に頭を擦り付ける。


「何に対しての謝罪かしら?」


「エレーナ様の父上に対する謝罪です……。父上を侮辱したことに対する謝罪です……」


 エレーナはグリッセンをじっと見つめる。

 なにも言わず、ただ見つめ続ける。


「レ、レナ。もういいじゃないか……」


 沈黙に耐えきれなくなったのか、父がおずおずと言った。



「つまり、反省しているから許して欲しい。もう一度護衛として働きたいということかしら?」


「はい」


 はぁ、とエレーナはため息を吐いた。


「……あなたを許すつもりはありませんでした。護衛役を解くと言ったのも本気です。ですが、他ならぬ両親の慈悲により、挽回の機会をあなたに与えます。二人に感謝なさい」


「温情に感謝します。父上殿、先の無礼な物言い、申し訳ありませんでした」


「い、いいんですよ、あれくらい。自分は気にしてませんから」


「いいえ。本当に申し訳ありませんでした」


「今後、私や私の家族に対する無礼な態度は許しません。私への立場をわきまえない馴れ馴れしい言動も禁止します。加えて、平民やアズルの方たちへの目に余る態度も極力控えるように」


「かしこまりました、エレーナ様」


「顔を上げなさい」


 エレーナの言葉で、グリッセンはようやく顔を上げた。

 グリッセンが見たエレーナは、いつの間にか帽子を脱いでいた。

 その黒い髪には赤い蝶の髪留め。


 グリッセンが言葉をなくす。


「今日は下がりなさい。明日一日は謹慎とします。護衛任務は二日後からです。いいですね?」


 エレーナが背を向け歩き出す。


「は、はい。ありがとうございます、エレーナ様!」


 エレーナは返事をせずに背を向けると、スタスタと歩き屋敷の中へ入った。

 ドアが閉まり、エレーナは立ち止まった。


「レナ?」


 父が娘を見た。

 娘の顔は真っ赤だった。


「そうか、そうだよな。よくがんばったな、レナ」


 父が娘の頭をポンポンと叩いた。


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