・エピローグ
(…思えば、あの日を境にしてなんかお姉ちゃんとオレの関係がちょっと変わったような気がするんだよな…)
そう、その和也が一人で妖魔を退治したあの日から、それまでの美由と和也の役割が変わったような気がしたのだ。
和也自身はそうとは感じなかったのだが、美由はおそらく和也が一人で妖魔を退治した、という事で安心したのであろうか、それまではどちらかというと和也が美由のサポートをするような立場だったのだが、しばらくしてまた二人でPBを始めた時にはどちらかというと美由が和也のサポート役に回ることが多くなってきたのだ。
そして和也が高校に上がったころには完全に美由がやることと言えば、妖魔退治に関する際の周りのことと、最後に妖魔を自分の持っている神鏡に封じ込めるくらいであとはすべてを和也に任せるようになったのだった。そして昨年の秋に和也に自分が結婚を決めたことと同時に妖魔退治に関するすべてのことを和也に任せる、と言い美由は現場を離れたのだった。
「…今にして思えばあっという間の5年間だったな…」
そう、自分が姉と組んでPBをやって5年半という月日が流れたのだった。それが長かったのか短かったのかはわからないが…
と、その時、和也の机の上の携帯電話が着メロを鳴らした。
「…? 誰だ、こんな時間に」
そう言いながら和也は電話を取る。
「もしもし」
「あ、和也?」
電話の向こうから少女の声が聞こえてきた。
「…なんだ、おまえか。一体どうしたんだ?」
「ああ、実は妖魔退治頼まれて、駅の前におるんやけれど、それがどうもあたしひとりだけではかなわん相手のようなんや。…それでな、和也に助っ人頼もうか思っているんやけど」
電話の向こうから関西弁が聞こえてくる。
実は和也が大学に入って間もなく、生まれが大阪という一人の少女と知り合ったのだが、その彼女に自分と同じような「感覚」を感じたので和也がいろいろと話をしてみたところ、実は彼女も自分と同じ年齢のころに「覚醒」したPBだったという事がわかった。
そして彼女は高校を出るまで大阪でPBをやり、この春に上京し、大学に通う傍ら、こうやってPBをして生活費を稼いでいる、というのだった。
そんなある日、和也はその少女に頼まれて、助っ人という形で二人でPBをやったのだが、その日から彼女は時々こうやって和也に助っ人を頼むようになったのだ。
さすがに和也も相手が女の子、ということで放っておけずに手伝っているのだが、その彼女、知り合ったころは和也のことを「瀬川くん」としおらしく呼んでいたのにいつの間にか「和也」と呼び捨てにしていたのだった。
もっとも和也も最初のころは「きみ」と呼んでいたのに、いつのころからか彼女のバイタリティに引き込まれたか「おまえ」と呼ぶようになっていたが。
「…おい、オレの姉ちゃんが明日結婚式だっていうのはおまえも知ってるだろ? それに出なきゃいけないから、この間からPB休んでいたのに…」
「それはわかっとるわ。だからあたしだってここん所和也には助っ人頼まんかったんやけど、今回はちょっと一人じゃ厳しいんや。なあ、和也、お願い。こういうこと頼めるの和也しかおらへんのや。な? いつも通りギャラは半分こにするから」
そう、さすがに彼女も一方的に和也を呼び出して悪い、と思っていたのか、もらったギャラは等分にして、半分を渡していたのだ。和也は一度それで大丈夫なのか、と聞いたが彼女は「和也は他人のことは心配せんでええんや」と言っていたが。
「…わかったよ。じゃ今からそっちへ行くから動くなよ!」
「ありがと。じゃ、待ってるからな」
そして電話が切れる。
「…ふうっ。まったく手間がかかるんだから…。オレは便利屋じゃねえっての」
和也はそう呟きながら、部屋に置いてある神剣を取ると鞘から少し刀身を抜く。
祖父から父、父から姉、そして自分へと受け継がれた神剣の輝きはちっとも失われていない。
そして納得するかのように和也は刀身を収めると部屋を出て行った。
(終わり)
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