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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第三章 フィリオーネ編
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自由でおいしい毎日

「俺、やりたいことがあるんだ」

そう言って俺は、この1か月で書き上げたデザイン画をサナとユナに見せる。


1枚の絵は自転車。

人間の力だけでペダルをこぎ、時速15kmほどで進む。

基本一人乗りで、荷物もあまり多くは乗らない。


もう一枚は魔動アシスト三輪車。

魔石を動力とし、一人がペダルをこぎ、後ろに二人、または多めの荷物を載せることができる。未知数だけど時速20kmほどになると期待している。


「これはなんですか?」

サナとユナはキョトンとしている。


「こうやって足で漕いで進むんだ。馬車より早く進むし、馬の世話も必要ない。うまくいけば王都からフィリオーネまで2、3日で移動できるようになると思う」

「馬車でも10日かかるのに!」

「2、3日ですか!」

俺の説明に驚きの声を上げるサナとユナ。


とはいえ、さすがにこれは俺一人では製作できない。

チェーンなどの細かな部品を試作するには鍛冶屋の協力がいるし、ゴムチューブのタイヤも作りたい。

「王都の近くに拠点を構えて開発チームを作ろうと思ってる。完成したらそこに生産工場も建てるつもり」


そう、俺なりにこの世界で役に立てることを考えていた。

やはり不便なのはロジスティックス。人の移動と物流が原始的すぎるのだ。

遠く離れた故郷まで馬車で10日、徒歩なら2週間以上かかるのは非効率すぎる。


俺がリンの背に乗って自由に移動できるように、この国の人たちが少しでも気軽に田舎の親の元に顔を出せたら、そんなことを考えていた。


とはいえ、いきなり蒸気機関車や自動車というのはハードルが高い。

自転車や電動アシストもとい魔動アシスト三輪車なら、理論上はそれほど難しくないから、俺でもできるんじゃないだろうか。


「これは私でも乗れますか?」

ユナが目をキラキラさせて聞いてくる。

「もちろん!もし一緒に王都に戻ってくれるのなら、試作品の運転も協力してもらうよ!」


俺の言葉にサナの頬が少し膨らんだ。

「ご一緒しますって言ってますよね、私たち。置いていかないでくださいね」


その言葉に俺の頬が緩むのが分かる。

「三人乗りの魔動アシスト三輪車が完成したら、リンと4人で一緒にフィリオーネを気軽に行き来できるな」

「うわぁ!楽しみです!」

「ぜひお手伝いさせてください」


「ただ、この開発が軌道に乗るまでは、製紙工場から入る収入をほとんどこの開発に使っちゃうかもしれない。いいかな?」


どうやら俺はこういう性質なのだろう。

大金を手にして「うわっはっは」と過ごすより、その金をもとにまた新しいことをはじめてしまい、気付けばいつも忙しい。

これからもそんな生活を送ってしまいそうな気がする。


「でもこれからもずっと、楽しいとおいしいがいっぱいの毎日なんですよね?」

サナの言葉はいつかの俺のセリフ。

「約束するよ。俺たちの毎日はこれからも楽しいとおいしいであふれてる」


「旦那様とリン様に出会ってから、私はずっと楽しくておいしいですよ」

ユナが笑う。


俺も。

リンに出会い、サナとユナに出会い、レーヴェンス領の母さんと再会し、たくさんの人と出会って、今は毎日が楽しくておいしい。

ああ、それがすべてだ。




5年後。


王都から5km離れた場所に広がるリンカイタウン。

3千人が暮らすこの町には、自転車と魔動アシスト三輪車の工場が建ち、従業員の住居が並ぶ。


開発に成功した自転車は1台3千ギル(30万円)、魔動アシスト三輪車は1台4万ギル(400万円)もするにもかかわらず、アルダラム国で一気に広がった。

馬や御者が要らないため、気軽に移動できるのがうけたようだ。


ビクターさんはローガンス商会の荷馬車をすぐに魔動アシスト三輪車に切り替えた。

フィリオーネから王都への氷の輸送に、荷物用三輪車3台と三人乗り三輪車1台の4台構成で動き、交代で運転しながら走って2日で氷を王都まで運ぶ。

このチームを複数組んでローテーションすることで王室や貴族だけでなく、一般のレストランやカフェでもかき氷やアイスクリーム、氷の入ったアイスティーやジュースが出されるようになった。

フィリオーネなどの北国では氷による収入も増えている。


ローガンス商会だけではない。どの商会もこぞって自転車や魔導アシスト三輪車を導入し、アルダラム国の流通は一気に改善した。


自転車と三輪車を製造するリンカイ社は大忙しだ。

作っても作っても注文に追い付かず、今では従業員2千人を抱える。

人口が増えるにあわせ、リンカイタウンには市場や商店、飲食店もできた。


俺たちが暮らす家は、リンカイタウンの一番奥、森に面した場所に建つ。

こぢんまりとした木造の二階建ての家と広い庭。

裏庭には果樹なども植えられており、その奥はそのまま森が広がっている。


「旦那様、リン様、行ってきます!」

「行ってきます!」

自転車にまたがり、マジックバッグを肩にかけて颯爽と漕ぎ出すサナとユナ。

「行ってらっしゃい!」


明日からフィリオーネに帰省するため、王都へお土産を買いに行く二人。

王都まで片道5km、自転車なら20分だ。


「俺は研究所に行くけど、リンはどうする?」

「かりにいくー!」


この5年でリンは少しだけ成長した。

いや、体のサイズは相変わらず、大きくなったり小さくなったりなのだけど。

リン専用の特大マジックバッグを首にかけ、一人で狩りに行くようになったのだ。


特大マジックバッグとはいえ、マッドブルがギリギリ一頭入る大きさ。

びゅんっ!と走って出かけたと思ったらあっという間に戻ってきて、獲物をドサドサと出していく。俺がいなくても勝手に市場の解体場へ持っていくのだから、リンも大人になったものだ。

まあ、昼メシは俺のところに食べに来るんだけどな。


「さ、自動車の開発進めないと」


レーヴェンス領の母の家では、15歳になったキイナと12歳になったクイナと一緒に、マルクスさんが小さな商会を始めた。

魔動アシスト三輪車で三人一緒に移動し、キイナとクイナの収納魔法を活かして、王都などの港町で買い付けた新鮮な海の幸を100~200km離れた内陸の街へその日のうちに売りに行くのだ。小さな商会で無理のない経営。マルクスさんが一緒なら妹たちも安心だろう。


だけど、それが面白くないのが母さんだ。

薬剤師の仕事もあるから母さんはいつも留守番。

「カイト!どうして三人乗りなの?四人乗りの車を作ってよ。そうしたら時々は私も仕事を休んでみんなと一緒に動けるのに!」


ということで、母さんからのプレシャーを受けつつ、魔力で動く自動車の開発を進めているのだった。まあ、そんなに簡単にはいかないのだが。


「ものすごく貴重で大きい魔石じゃないと動かないんだよなー、今の設計だと」


「社長の理想とする時速50kmはいったんあきらめて、まずは30kmを目指しませんか?」

「すべて魔力で動かすのではなく、やはりペダルにしてみては?そこに流す魔力を多めにして4人乗りにするのも一つの手かと」


リンカイ社の研究所には国内から集まった優秀な研究者が20人以上いる。

それぞれが得意分野を活かして、生き生きと研究を進めているのだから頼もしい。


だから俺は気軽に休みを取って、レーヴェンス領の母さんの所やメイダロン、サナとユナの実家に帰ることができるのだ。


もちろん、王都の宿ポラリスも俺たちにとっては帰る場所の一つである。

俺たちは週末を王都で過ごす。屋台でランチをたべ、月のうさぎで夕食を取り、スペインバルでお酒を飲み、そしてポラリスに泊る。それが俺たちの幸せな週末だ。

時々ひげのおじいちゃんやリズちゃんの襲撃を受けつつ。

国王夫妻、今何歳なんだろう……? 謎である。



「フィリオーネにむけて出発!」

「しゅっぱーつ!」


リンカイ社の最新型魔動アシスト三輪車をこぎ出す俺。後ろにはサナとユナ。

リンはポケットではなくハンドルの真ん中にちょこんと座っている。

三輪車に乗るとき、ここがリンのお気に入りの位置だ。安定しないと思うんだけど。


「あとで運転変わりますね」

「私も運転します!」

「うん、よろしく!」


改良を重ねた最新型の三輪車は、ペダルへの負荷は軽く、時速25kmほど出る。

後部座席には簡易的なドーム型の覆いがあるが、運転席は風を受けて気持ちがいい。


「ねえ、サナ、ユナ」

三輪車をこぎながら俺は後ろにいる二人に声をかける。


「何でしょう?旦那様」

「どうしましたか?旦那様」


「サナとユナが性奴隷として俺のところに来てくれて、今日で5年だよ」

「あら、そうでした?」

「すっかり忘れていました」


はははっ。世の中の借金奴隷は、年季が明けるのを指折り数えて待っているのに。

「改めて二人に聞くけど、これからも俺の嫁でいてくれる?」

三輪車を走らせながら言うことではないが、面と向かって聞くのはなんだか照れる。


「もちろんです。ふつつかものですがこれからも末永くよろしくお願いします」

「はい、自由になった立場で改めて旦那様のそばを選びます、私」


「よっしゃぁ!!」

思わず両手を空に突き上げる俺。

おおっと、ハンドルがぐらつく。


「もぉぉ、カイトってば、あぶなーい」

リン、ごめん!


今から5年後、10年後。

俺たちはまた別の乗り物に乗っているかもしれない。

もしかしたら道路整備にも手を出すかもな、俺。舗装したいんだよなー。

どんな未来でも、楽しみしかない。


どんどん加速する俺に、サナとユナが声をかける。

「旦那様、リン様、もう少し先でお昼にしましょう」

「今日のお昼はホットドッグにしましょうか」


やったー!ホットドッグ!

ハンドルの上でリンが器用に飛び跳ねる。

ホットドッグ!いいね!


たった一つのホットドッグから始まった俺とリンの自由でおいしい毎日。

これからもずっと続きますように。

俺の周りのすべての人にも……。

カイトとリンの物語、いったん終了です。養父母がカイトをさらった理由も、剣の完成も書けませんでしたが、気が向いたら番外編で書きたいと思います。長い間お付き合いいただきありがとうございました。

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