俺たちの進む道
「よく見つけたな。これはすごい。これならカイトにとって一生モノの剣ができるぞ」
やった!コーゲイさんのお墨付きをもらえた!
あの後、リンと俺はそのままメイダロンにやってきた。
もちろん、サナとユナへは伝言を頼んである。
「魔石がこれほど光るのを私も初めて見たよ」
なぜかコリンバースから合流して一緒にやってきたアーノルドも、驚きを隠せない。
「私が見つけると約束していたのに、結局カイト自身に探させてしまったな」
いや、それはいいんだけど、何故ここにアーノルド?
領主ってヒマなの?
「まあ、そういうな。これでもカイトのことは気にかけているんだ。カイトの魔力に合った魔石が見つかったと聞いて、半分は好奇心だけどな」
100%好奇心だよな!
「これを剣にするには誰に頼めばいいんですか?」
うーん、さすがにこのレベルの魔石を剣にできるのはあいつしかいないかなー。
考え込むコーゲイさんを期待の目で見る俺。
心当たりがあるんですね!
「紹介してもらえますか?俺が突然行って作ってもらえるものですか?」
「ムリだな」
即答ですか!
「あいつは偏屈だからな。いくらカイトとリンでも、まあ無理だろうなー」
コーゲイさんに偏屈と呼ばれる人ってどんな人?やばすぎて逆に会ってみたいよ。
「じゃあどうすればいいんですかねー?」
「まあ、俺が行くしかないだろう」
おお!コーゲイさんが動く!
「コーゲイさんがその人のところに行ってくれるんですか?それはとっても助かります!ここから近い?」
「ここから馬車で4日ほどだ。さほど遠くない」
馬車で4日って、200kmくらいだよな?十分遠いと思うけど。
「その間、奥さんはお留守番ですか?大丈夫ですか?」
心配になってそう言うと、コーゲイさんは呆れたように俺を見て笑った。
「かみさんを置いていくわけがないだろう。一緒に行くさ、もちろん」
あいつの住む町には温泉があるからな、かみさんにもちょうどいい。
コーゲイさんのつぶやきを、俺は聞き逃さなかった。
温泉ですか!
「俺も行きたいです!温泉!」
「くるなよ、かみさんと二人の時間を邪魔するな」
コーゲイさんに速攻断られた。
ちぇぇっ、じゃあ俺はリンとサナとユナと一緒に行こう。
「剣を作ってもらう代金っていくらくらいですか?この魔石で足ります?」
俺は残り二つの魔石を差し出した。
「カイトは何を考えているんだ」
え?足りない?
「宝石をちりばめた剣でも作るつもりか?この魔石なら一つでも釣りがくるぞ」
足りるのならよかった。
「じゃあこれでコーゲイさんと奥さんの旅費も賄えますよね。だったらこのまま持って行ってください」
賄えるも何も釣りがくると言ってるだろうが。
呆れるコーゲイさんに魔石をすべて押し付ける。
「奥さんとゆっくり温泉につかっておいしいものでも食べてきてくださいね!」
まあ確かに、あいつは納得する剣を作るまで何日でも何十日でもかけるからな。
これでかみさんと温泉につかりながらのんびり待つことにするわ。
そう言ってコーゲイさんは魔石を受け取ってくれた。
「剣の出来上がりを楽しみにしてます」
そして俺にも温泉情報をプリーズ!
「カイトは今夜どうするんだ?良ければビルケッシュ城に泊っていってくれ」
アーノルドが声をかけてくれるが、すまん!
「ここに来たらリンと俺が泊まる場所はゼットンさんの宿って決まってるから」
そうか。じゃあ帰る前には城に顔を出せよ。
そう言ってアーノルドはコリンバースに帰っていった。
ゼットンさんの宿は相変わらず俺にとって実家のような場所だ。
「ただいま」と帰れば「おかえり」と声が返ってくる。
クリストフたちがいる時はなおさらだ。
居心地がよくて、ずっとそこにいたくなる。
だけどバタバタ出てきちゃったままだからなー。
伝言を頼んだとは言え、サナとユナも心配していることだろう。
メイダロンに数日滞在してリフレッシュしたリンと俺は、サナとユナが待つ場所へと帰った。
「サナ!ユナ!ただいま!」
「ただいま~」
「お帰りなさいませ、旦那様、リン様」
「旦那様、リン様、お帰りなさい。お疲れさまでした」
うん、ただいま。
ここもリンと俺にとって帰る場所の一つだな。
「ねえ、サナ、ユナ」
その夜、サナとユナを隣に座らせ、俺は最近ずっと考えていたことを二人に切り出した。
「はい、何でしょう」
「どうかしましたか?」
リンは俺の膝の上でうつらうつらしている。いや、爆睡か?
「冬になったら俺とリンだけ王都に戻るから、サナとユナはここに残らない?」
ここに来てからサナとユナは本当に生き生きとしている。
今日はたくさん卵がとれたとか、ウィルが初めて寝がえりをしたとか。
忙しく働きながらも、毎日がとても楽しそうだ。
きっとここが二人のいるべき場所なんだ、そう思えるほどに。
俺の提案に、二人は不安そうに顔を見合わせた。
「もしかして旦那様は、ねえさんや私が一緒にいるより、リン様と二人だけの方が楽しいのでしょうか?」
ユナの声が少し震えてる。
「違うよ!そんなことない。二人のこともリンのことも同じくらい大事だし、一緒にいるのは楽しいよ」
俺の気持ちが正しく伝わるよう、言葉を選ぶ。
「もしサナとユナがこれからも俺と一緒にいたいと思ってくれるのなら、それはすっごくうれしい。だけどそれと同じくらい、この場所で忙しそうに働きながら笑っているサナとユナが好きなんだ」
だからさ、と俺は続けた。
「やっぱり二人はここにいるのが一番幸せなんじゃないかなって」
「私たちは旦那様の嫁ではいられなくなるんですか?」
サナがうつ向きながら尋ねる。
出来れば俺は……、今後もサナとユナの夫でいたい。勝手な話だけど。
「もし二人が受け入れてくれるなら、これからも時々ここへ帰ってきたい。その時は夫として迎えてくれたら嬉しいな」
「つまり旦那様は、私とユナが嫌いになったわけではなくて、私たちのためにここに残ることを勧めてくれている、ということでしょうか」
うつ向きかけたサナが、ぐっと顔を揚げて俺を見つめる。
おう、目力がすごい。
「う、うん。この1か月のサナとユナは、本当に輝いてたから」
「そりゃあ、久しぶりの実家が楽しくないはずがありません。しかも私とユナは、初めて実家を離れ、そして初めて帰ってきたのですから」
「でも、たまに帰ってきて楽しいのと、ずっといることとは違います。私とユナはもうこの家を出た身。ずっとここにいられたら兄さんも義姉さんも、やがて大きくなるウィルも、きっと私たちのことをうっとうしく思いますよ」
サナがいたずらっぽく笑った。
「そうよね、私たちは小姑ですもんね」
ユナもサナに同調する。
「それに私たちがいない間、旦那様のお洗濯は誰がするんですか?それが例えお手伝いさんだとしても、旦那様の服を他の女性が洗濯するって考えたら、なんかちょっと、もやもやします」
口を尖らすユナ。かわいい……。
「私は旦那様のおそばにいたいです」
「私もです」
サナとユナの気持ちをちゃんと言葉で聞くのは初めてかもしれない。
それちょっと、いや、かなり嬉しいかも。
サナはまっすぐ俺を見る。
「旦那様は?旦那様はずっと王都で暮らすおつもりですか?メイダロンやお義母様がいらっしゃるレーヴェンス領じゃなくて?」
そうなんだよな。
今の俺には嬉しい悩みがある。
俺には帰る場所がたくさんできた。
長くなってしまいましたが、あと一話、明日完結予定です。




