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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第三章 フィリオーネ編
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リリーとロッドの一か月

リリーとロッドの職業体験は順調に進む。

もちろん楽しいばかりではない。

早起きがつらくて機嫌の悪い日もあれば、雨の日だってある。

それでもリリーとロッドは生き生きと働き、とても楽しそうだ。


今日は朝の仕事の後、アルバスに栗拾いに連れて行ってもらうことになっている。

「アルバス兄さんがリリーとロッドのために栗を残しておいてくれるなんて、どういう風の吹きまわしかしら?」


「いやー、悪かったって。あの頃はいつも腹をすかせてて、俺も必死だったんだよ」

サナにツッコまれ、ばつが悪そうなアルバス。

「今はヨヒトのおかげであの頃みたいにひもじい思いをすることはなくなったからな。ホント、感謝してるんだよ。この養鶏場がうまくいくよう、俺もサポートするよ。なんせ俺んちの生活もかかってるからな!」


アルバスとその妻は交代で毎日どちらかが養鶏場を手伝っている。

一日5時間働いて、10ギル。

たった千円だが、それだけで家族全員を満たすだけの小麦やパンが買える。

それに加えて売り物にならない卵ももらえるから、痩せた北の土地で農家を営むアルバス一家がどれだけ救われているか。


「鶏糞のおかげで野菜の育ちもいいしさー。多く収穫出来たらヨヒトが買ってくれるし。そりゃ、栗くらいは残しておくって」

ヨヒトが踏み出した一歩は、周りの家にまで影響を与えているようだ。


そんな大人の話にリリーとロッドは黙って耳を傾けている。

養鶏場に手伝いに来ている近所の農家の人たちと毎日一緒に働きながら、この二人はフィリオーネ領の厳しい現実を理解し始めている。


難しい顔で話を聞きながら、栗の木のある山を目指す二人。

その手はしっかり繋がれている。

いや、いいんだけどね。むしろ、微笑ましいけどな!


深い山を分け入り、「これ、知らなきゃ絶対たどりつけないよな!」という場所に3本の栗の木が立っていた。

秋も深まったこの時期、栗はイガと共に地面いっぱいに落ちている。


「うわぁー!すごい!」

ロッドが走り出し、イガの中の栗に手を突っ込む。

「いてっ!」

そりゃそうだろ!


「ロッドってば、もう!気を付けて!」

今回はリリーがお姉さんだ。


「こうやって靴でイガを踏んで、棒でポンっと外に出すんだ」

アルバスに教えてもらい、リリーとロッドが栗拾いに挑戦する。


「取れた!これなら痛くない!」

「私も取れた!いっぱいあるわね!」


二人が思う存分栗をひろえるよう、サナとユナ、アルバスと俺は邪魔をしない程度に、草むらに隠れた栗を拾っていく。リンはポケットの中から応援だ。

「みんな、いっぱいひろってねー」


初めての栗拾い。

かごいっぱいに拾えたリリーとロッドはホクホクである。

そこには二人にたくさん拾わせてあげようとする大人たちの配慮が陰にあることを二人は……、気付いているかもな。俺らが思うより何倍も周りを見ている二人だ。


「くっりごっはん~」

「くりごはん!」

栗ごはんを知らないリリーとロッドだが、リンに感化され、鼻歌を歌いながら山道を戻る。


「お帰りなさい!まあ、たくさん拾えたのね!」

イリスに迎えられ、リリーとロッドは得意げにかごいっぱいの栗を見せる。


「今夜は、そうねぇ」

「くりごはんだよー!」

リンの言葉に笑うイリス。

「そうね。今夜は栗ごはんにして、明日は栗入り蒸しパンにしましょう!」


「蒸しパン!」

「栗入り蒸しパン!」

リリーとロッドが嬉しそうに顔を見合わす。

食べたいものがなんでも食べられる環境で育った二人だが、自分の手で収穫したものを、自分たちで料理して食べる喜びを知ったようだ。


「栗の皮をむくのって大変なのよねー。手伝ってくれるかしら?」

イリスも二人をのせるのがうまい。

「手伝うわ!」

「やる!やる!」


だけど栗の皮をむく二人の手つきは危なっかしい。

サナとユナと俺は「あ、危ない!」「気を付けて!」「私たちがやるわよ」とはらはらし通しだったが、イリスは肝が据わっている。

「一度も怪我をせずにナイフを上手に扱えるようになる人はいないわ」

それでも何とか指を切らずに栗の皮をむき切ったリリーとロッドだった。


「うわぁ!ごはんに栗が入っているのね!」

「おいしそー!」

ここにきて何度か白米を経験済みの二人だが、栗入りのごはんにはテンションが上がるようだ。


「おいしーよ」

栗ごはんに関しては先輩のリンがドヤる。


「「いっただっきまーす!」」

挨拶もそこそこに食らいつく二人とリン。

「うーん、おいしい!」

「お米、大好き!父上がお米の生産を始めるんだよね?僕、父上を手伝うよ!」


あー、うん。生産を始めると言っても、領主であるブラッドが田植えをしたり稲刈りをするわけではないけど。ロッドの「手伝い」のイメージは田んぼ仕事なんだろうな。

「私も手伝うわ!その時は絶対声かけてね!」


あれ?

今回の職業体験は次期領主とフィリオーネで一番の商家の娘として、領民の暮らしを理解してもらう目的だったはずだが、なんだか二人で農家を始めてしまいそうな雰囲気だ。

ま、まあ、あとは二人とその家族に任せよう。



リリーとロッドの養鶏場生活、一か月はあっという間に過ぎた。

最終日、過保護なリリーの両親だけでなく、ブラッドも領都パララクルから馬車で迎えにきた。この一か月間、会いに来ることを禁止されていたのだ。


「ロッド!しばらく見ないうちにたくましくなったんじゃないか?」

「父上!お久しぶりです!今回はこのような経験をさせていただきありがとうございました!」

ブラッドに駆け寄ったロッドは、父に抱き着くことなく背筋を伸ばして挨拶する。

「お!おおう。ちゃんと挨拶できてえらいぞ」


「リリー、元気だったかい?寂しかっただろう」

「リリー、ちゃんと食べてた?日に焼けて、元気そうだけど……」

両親のもとにリリーも駆け寄っていく。

「すっごく楽しかったわ!また来たい!」

「おや、そうか」「あら……」


予想と違う再会に、親たちは微妙な表情だ。

親離れを加速させてしまったようで、なんかごめん。


「父上、僕、またここに来たいです!」

そうくるか……、ブラッドのつぶやきが聞こえる。

「それはヨヒトとイリスに聞いてみないと」

いったん逃げるブラッド。


「あら、うちはいつでも歓迎ですよ。でもね、ロッド。次に来るときはカイト様もリン様も、サナとユナもいないわよ」

「え?リンちゃん、いないの?」

「ええ、リン様たちは王都に戻られますから」


うーんと考え込むロッド。

「リリーは?リリーもいないの?」

「私はいるわよ!ロッドが来るなら私も来る!」

「じゃあ来る!リリーがいるなら僕も来る!」


おお、そうかー。そうだよなー。

世界一強くて世界一かわいいリンも、リリーとロッドの物語の中ではわき役に過ぎないんだな。ましてや俺なんてモブだな。

まあいいさ。リリーとロッドの物語、主役はこの二人だ。


幼い二人の恋心に気づいたブラッドと、リリーの両親は、お互いに顔を見合わせる。

「なんだか、そういうことなのか?」

「何といいますか……」

「申し訳ありません?」

リリーの母親、なぜクエスチョンマークなんだ?


とはいえ、久しぶりの再会である。親も子も嬉しくないはずはない。

「さあ、お世話になった皆さんにお礼を言ってパララクルに帰ろう!」

「はい!」

「今夜はリリーの好きなものをたくさん用意するって料理長が張り切ってたわよ」

「楽しみ!」


と、その時。

俺のポケットで小さくなっていたリンが、突然飛び出して大きくなった。

「カイト!」


「リン!どうした?!」

「イエティのおじちゃんがたいへん!」


リンの言葉に最初に反応したのはブラッドだ。

「イエティ?本当にいるのか?この山脈に」

「いるよー」

「以前俺も会ったことがあるんだ。あの子はこの山脈の守り神なの?」


「あの山の奥にイエティが住むと言い伝えられてはいるが、今生きている人で本物に会ったことがあるものはいない。カイトが初めてじゃないか?」

「本で読んだことがある!本当にいるんだね。僕も会ってみたい!」

少年の好奇心丸出しでロッドも食いついてくる。


「いつか会えるといいな。でもごめん、今は急がなきゃ!」

「カイト!はやく!」

リンにせかされ、俺はリンの背中に飛び乗る。


「ちょっと行ってきます!」

「気を付けて!」

「山の守護神を頼んだ!」

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