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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第三章 フィリオーネ編
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リリーとロッド

突貫工事でヨヒトの家の母屋を増築し、ギリギリ間に合った。


ダイニングを広げ、リリーやロッドだけでなく、手伝いに来てくれる人たちも一緒に座れる大きなダイニングテーブルを用意した。

それにリリーとロッド、護衛の騎士が寝泊まりできる部屋が3部屋。

この部屋は今後、泊まり込みの従業員ができた時にも利用できる。

シンプルな木造建築だから何とか間に合った感じだよ。


そうして今、俺たちはリリーとロッドの到着を待っている。

二人の職業体験はすでに始まっていた。

パララクルから片道10km徒歩2時間の道を、馬車を使わず歩いてくるのだ。


「大丈夫かなー、歩けるかなー」

そわそわしながら待つ俺たち。


お嬢様ではなくリリー、ロッド様ではなくロッド……、ヨヒトがぶつぶつ言っている。

その隣で妻のイリスは「楽しくなりそうね!」と目を輝かせている。

やはりいつの時代も女性の方が肝が据わっているようだ。


やがて大きなリュックを背負った少年と少女の姿が遠くに見えてきた。

護衛の騎士を従えてはいるが自分の荷物は自分で持っている。


でも、あれ?

背の低い少年がリリーの手を引っ張っている。

「頑張って、リリー!もう少しだよ!」


訓練はさせているとブラッドが言ったことは本当で、きちんと鍛えられているロッドの方が体力はあるようだ。

「私がお姉さんなんだから、面倒見るわ!」

そう張り切っていたのはリリーの方ではなかったか。


「ロッド、ちょっと休憩……」

弱音を吐くリリーをロッドが励ましている声がこちらにも聞こえてくる。

「ほら!あそこに見えてきたよ!あとちょっと!」


二人は初対面のはずだが、この道中ですでに仲良くなったようだ。

微笑ましい。頑張れー!もうすぐ到着だよー!


ようやく到着した二人(と護衛)。

「ようこそ、リリー、ロッド!」

ヨヒトが何度も練習したであろうセリフで二人を出迎える。


「よく頑張ったね、二人とも。ちゃんと歩いてきてえらいぞ」

俺もまずはほめる。子供はほめたほうが伸びるのだ、たぶん。


「初めまして。フィリオーネ領主ブラッドの嫡男、ロッドです。お世話になります!」

さすがは次期領主。9歳のロッドがしっかりとした挨拶をする。


「は、はじめまして。ハイ、ランド、商会のリリーです。お世話に、な、り、ます」

完全に息が上がっているリリー。うん、よく頑張った!


「挨拶と自己紹介はあと!リリー、ロッド、中に入って座りましょ。すぐにお昼ご飯よ」

おう!ヨヒトの妻イリス、なかなかいい仕切りだな!


「本当ならお昼ご飯もお手伝いしなきゃいけないんだけど、今日は特別よ」

「すぐに用意するから座ってていいわよ。でもちゃんと手は洗おうね」

サナとユナも、お姉さんぶりを発揮している。

単なる思いつきだったが、この環境、この子たちにはいいかもしれない。


サナとユナが手伝って作った昼食は、かぼちゃを練りこんだパンケーキとキャベツのサラダ、牛乳。


素朴な木の食器で出されたそれを見て、リリーが固まっている。

「どうしたの?こんな田舎料理は食べられない?」

イリスの言葉に大きく首を振るリリー。


「ここに来る前に農家出身の使用人たちにお話を聞いてきたの。農家ではパンが食べられる日の方が少なくて、ふかしたジャガイモと野菜スープだって。まさかパンケーキが出てくるなんて思わなかったの」

「ふふふっ、ちゃんと調べてきたのね、リリーはえらいわね」


「私たちも数か月前まではじゃがいもと野菜スープだけの日々だったのよ。じゃがいもすらない日もあったわ。だけどそのごはんじゃ、リン様が王都に帰ってしまうでしょ?」

楽しそうに答えるイリス。


その言葉にリリーが途端に悲しそうになった。

「リンちゃんがいなくなるの?それはいやだわ!」

ぱっちりとした目でリリーが訴える。

リリーがリンに会ったのはまだ2,3度のはずだが、いつの間にかリリーの心をも鷲掴みにしているリン。俺のかわいいリン、さすがだ。


リンはその会話を聞いて怪訝な顔をした。

「だいじょうぶだよ?カイトがおいしいものいっぱいもってるから」

うん、まあそれは事実だが。

俺がリンにひもじい思いなんてさせないけどな。


「養鶏場を始めてから、ひびが入って売り物にならない卵を食べられるようになったの。だから、パンケーキなんて贅沢なものも作れるようになったのよ。でもね、これ、お砂糖はほんのちょっとしか入っていないの。ほとんどがかぼちゃの甘さなのよ」


お砂糖じゃないの?かぼちゃなの?

びっくりするリリーの頭をイリスが優しくなでた。


「今度一緒に作ろうね。卵を泡立てるのが大変なのよ。手伝ってね」

「ええ!手伝うわ!」

「僕も!僕も卵を泡立てるの、手伝うよ!」

凛々しく宣言するロッド。かっこかわいいな!


ゆっくりと昼食を楽しんだ後は、本格的に養鶏場の仕事だ。

あれほどぐったりしていたリリーも、おいしいお昼ご飯を食べて復活している。

若いってすごいな!


汚れてもいい服、そう言って着替えてきたリリーとロッド。

え?それって汚れてもいい服なの?やっぱりレベルが違うな。

新品ではないかもしれないが、きれいで高級そうなシャツとパンツ。足元はブーツ。

う、うん。場違い感半端ない。

まあ二人とも長そで長ズボンなだけ良しとしよう。


「鶏たちが外に出ている間に鶏舎の掃除をしましょう」

サナが手順を説明する。


「汚れた藁をきれいな藁に取り換えるのよ。でも、この鶏糞まみれの藁は畑の肥料になるから、大事なの」

ユナの説明を神妙に聞き、作業に入る二人。


「うわぁ、くっさーい!さわりたくなーい!これってやらなきゃダメなの?」

鶏舎に入り、一瞬にしてお嬢様モードに戻ってしまったリリー。


「あら、リリー。じゃああなたは、くっさいベッドの上で寝たいのかしら?」

サナが珍しく意地悪そうな顔をしてリリーを覗き込む。

いや、珍しくはないか。サナって実はこういうキャラだったよな。


「うーん、それはいやだわ」

そうつぶやくリリー。

ちゃんと自分の身に置き換えて考えられるなんて、えらいぞ!


「じゃあ、鶏たちが今夜も気持ちよく眠れるように藁を取り換えようね!」

ユナのフォローがナイスすぎる件。


そう言われ、納得して鶏舎の掃除を始めるリリーとロッド。

なんだかんだ言って、根はいい子だ。


「う、うまく持ち上がらないわ……、ロッドはすごいわね」

藁をピッチフォークで持ち上げるのに苦労しているリリー。

「ピッチフォークが重すぎるんだよ。僕のと交換する?」


背の低いロッドに小さめピッチフォークを用意していたが、結局それはリリー用になってしまった。ロッドは小さな体で大人用のピッチフォークを使いこなす。

体力も性格も問題なしにいい子だろう、ロッド。

職業体験、必要ないんじゃね?


鶏舎の掃除が終わったら、次は外に放っている鶏たちを鶏舎に戻さなくてはならない。

「リリー、そっちから追い立てて!」

「ロッドはこっち!」

毎度、鶏たちに舐められまくり、この作業はサナとユナだけでなく、ヨヒトも苦労している。


ヨヒトも交じり、みんなで鶏たちを鶏舎に追い立てるが、あざ笑うように俺たちの横をすり抜けていく鶏たち。くっそう!


「ああ、そっちに一羽逃げちゃった!」

必死のリリーにロッドが応える。

「任せてよ!僕が連れ戻すから!」

リリーのフォローをするロッド。年上みたいだ。


鶏達に引っ掻かれながら、ようやくすべての鶏を鶏舎に戻す。

リリーとロッドだけでなく、大人たちもぐったりだ。


「お疲れ様、休みましょうって言いたいけど、もう一仕事。放し飼いにしている間に卵を産む子も多いのよ。暗くなる前に卵拾わないといけないの」

ユナに言われ、かごを手に持ち放し飼いエリアへと向かうリリーとロッド。

広い敷地を二人並んで探している。


「あった!これ、ひびが入っていないわ!売り物になるわよね」

「いいなぁ、リリー、僕も見つけたいよ」

「そっちはどう?」

「あ!あった!」

「やったじゃない、ロッド!」


元は畑だった広い敷地にぽつぽつと産み落とされている卵たち。

かごを片手に、宝探しのように卵を探して回るリリーとロッド、サナとユナ。

大変な仕事のはずなのに楽しそうだ。

確かに、鶏を鶏舎に戻す作業よりは楽しいよな。


ようやく敷地内の卵を拾い終わった時、陽が傾いていた。

「職業体験初日、お疲れさま」

「リリーもロッドも頑張ったわね」

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