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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第三章 フィリオーネ編
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ハイランド商会のお嬢様

午後のフィリオーネ領パララクル。

街にある数少ないおしゃれカフェは、この時間、閑散としている。


カフェとはいえ、客の目的はランチかディナー。

3時を過ぎたこの時間にカフェに来る客は少ないようだ。


王都だとお茶とスイーツを楽しむ女性客でにぎわう時間帯なんだけどな。

まあ、ここではケーキを扱っておらず、焼き菓子くらいだから仕方がない。


ほとんど客もいないので、リンを含めた俺たち4人は通りを見渡せる一番いい席に陣取り、さっき見てきたばかりの製紙工場に関する会議をしている。


「フィリオーネでもボア肉が一番安いから、やっぱり生姜焼きははずせないわよね」

「生姜は体にもいいから、賛成!でもごはんがないのは残念だわ」

「パンにも合うよ。ブラッドがコメの生産に成功するまではまだパンで我慢だよな」

「しょうがやき!おいしいね!」


なんと、この会議にはリンも参加している。

食べ物が絡んだ時だけは首を突っ込むのだ。


「領主様と旦那様のおかげで食費の予算は十分にあるそうだから、鶏や鴨の照り焼きもいいわね」

「冬になったら鍋物。大人数の分を作るからスープみたいになっちゃうけど。臭みのあるお肉でも味噌と生姜で煮たらおいしくなるわ」

「ハンバーグ!」

「ええ、照り焼きハンバーグもいいですわね、リン様」


いっちょ前に意見を出すリン。くぅぅ、かわいい。


製紙工場の建設はまだようやく半分ほどだ。

3棟建つ予定の工場は1棟だけが完成しており、完成したその場所でビルケッシュから招いた技師によるトレーニングが始まっている。

一部完成した従業員寮に、すでに30名ほどが入居して、紙の試作を始めているのだ。


従業員向けの食堂は最初に完成し、従業員だけでなく先輩技師や建設作業員への食事の提供を始めていた。

今日はサナとユナを連れて出向き、醤油や味噌を使った料理を伝授してきたのである。

フィリオーネに滞在中は何度か足を運び、いくつかのレシピを伝える予定である。


「やっぱりフィリオーネはジャガイモやニンジンなどの根菜類がよく取れるからそれを使って……」


「あら?うちに見習いに来ていたサナとユナ、だったかしら。なぜここにいるの?」

サンドイッチを片手に白熱した議論を繰り広げる俺たちの背後から、突然声がかかった。


振り返るとそこにいたのは、まだあどけなさが残る中学生くらいの少女。

栗色の髪はくるんとカールし、大きなリボンをつけている。

ぱっちりとした大きな目とぷっくりと膨らんだ唇。

ピンクのワンピースが全く嫌味ではなく、人形のようだ。

後ろにはお付きのものとみられる二人の女性が控えていた。


「「お嬢様!お久しぶりでございます!」」

サナとユナが驚いて立ち上がる。

えーっと、サナとユナが見習いに出ていた商家のお嬢様ってことかな?


「ここは一番いい席よ。代わりなさい」

サナとユナに挨拶も返さず、いきなり要求を突き付けてくるお嬢様。

天使のような見た目で、悪役令嬢のようなセリフだ。

見た目とのギャップが激しい。


「す、すみません。今は旦那様と一緒ですので、その……」

「旦那様?あら、結婚したの?それとも新しい勤め先かしら。でも私はこの席が好きなの」

サナの言葉を全然聞く気がないな、この子。


さて、どうしたものか。

「サナ、ユナ、いいから座って」

小声で二人に声をかける。

「でも……」ためらう二人の肩に手をかけ、とりあえず座らせた。


「初めまして。以前サナとユナがお世話になったようで、ありがとうございます。俺はカイトと申します。以後お見知りおきを」

座ったままで、でも言葉遣いだけは丁寧に、お嬢様に大人な挨拶をする俺。


「あら、どうも。で、席を代わってくれるのかしら?」

ぴっきーん!

おい、こら!どういう育て方をされたんだよ!


「その前に、こちらが名乗っているのだからあなたも名乗るべきでしょう。あなたの両親はそんなことも教えていないんですか?」

大人気ないと思いつつも、嫌味な言葉を返してしまったよ。


しかしお嬢様はコテンっと首をかしげて不思議そうに俺を見た。

「あなた、私のことを知らないの?まあいいわ」

いいんかい!

言い負かしてやろうと思っていた俺も思わずコケそうになる。


何だろう、この感覚。

わがまま性悪娘とも違う。

小説に出てくる悪役令嬢とも違う。


天然?

ああ、そうだ。天然にお嬢様なんだな、この子は。


「ハイランド商会のお嬢様、リリー様です」

ユナがそっと俺にささやく。


「すみません、旦那様。リリーお嬢様に悪気はないんです。ただ、ハイランド商会と言えばフィリオーネで一番の商家でして。貴族ではありませんがハイランド商会が頭を下げる方は領主様しかいないくらいなんです。だから、その……」

サナが詳しい説明を加えてくれた。


悪気はない、それは事実だろう。しかし世界が自分中心に回っている。

それはこの子のせいではなく、育った環境のせいではないだろうか。

おーい!責任者でてこーい!


「リリーっていったかな?この店は君のものじゃないだろう?この席も君のものじゃあない。自分が好きだからって、先に座っている人に席を代われというのは横暴だよ」

丁寧な言葉遣いは終了!

俺はリリーに「様」なんてつけないぞ!


「横暴?」

俺の説教に、リリーは心から分からないという顔をしている。

それが無駄にかわいいから、つい許してしまいそうになるではないか。

この子が自己中に育った理由を一瞬で理解してしまったよ。

しかし、それじゃだめだ。

このまま育ったら、損をするのはリリー自身なのだから。


「悪い!遅くなった!」

そこへフィリオーネ領主であるブラッドが駆け込んできた。

対峙する俺とリリーを見て、不思議そうな顔を向ける。

「何かあったのか?」

ハイランド商会が唯一頭を下げる相手、領主様の登場である。


「あら、領主様のお友達でしたの。そうとは知らず失礼しましたわ」

お嬢様はブラッドを見てあっさり引き下がろうとしたが、ちょっと待て。


「リリー、それは違うよ」

呼び止められ、リリーは足を止めて振り返った。


「領主の友人だから譲らなくていいとか、そういうことじゃないんだ。それ以外の人はみんな君に席を譲るべき?その考え方は間違っているよ」

今のリリーには理解できないかもしれないが、俺は言葉を続ける。


「ハイランド商会はすごいかもしれないけど、それは君のおかげじゃないだろう?ご両親が頑張って商売をしているんだ。君はまだ何も成し遂げていないし何も稼いでもいないんだよ」


うん、やっぱり理解できなかったね。不思議そうな目で俺を見てる。

「だってみんな、我が家にお仕事をもらいにくるのよ。お仕事をいただけてありがとうございますって。私はみんなにお仕事をあげているのよ」

それも君じゃないね。君の両親だ。


「あー、ブラッド。今度リリーの両親に会えるかな?ちょっとこの子をこのままにしておくのはダメな気がするんだ」

俺の言葉にリリーが瞬時に青ざめた。

「わたくし、両親を呼び出さなければいけないような悪いことはしていませんわ!」


だね。たぶんだけど、悪いのは君じゃなくて君の両親。

かわいがりすぎだろ、かわいいけどさ。

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