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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第三章 フィリオーネ編
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養鶏場の始まり

乗合馬車はフィリオーネ領パララクルが終点だ。

そこからサナユナの実家へは徒歩で2時間。

その道のりを俺たちは貴族専用の貸し切り馬車で移動している。


「ずっと毎日歩いていたんです。歩けます!」

「貸し切り馬車なんて贅沢です!」

サナとユナの反対を押し切って馬車を借りたのには悲しい事情がある。


貧しい北の大地とはいえ、領都であるパララクル。

貴族専用の馬車を用意しておく必要がある。


しかし数少ない貴族や裕福な商家は自前の馬車を持っており、それ以外に貸し切り馬車を借りるような貴族や富裕層はここにはほとんどこないのだ。

年中開店休業状態。

悲しすぎる。ここは俺らが借りるしかないじゃん?


俺一人ならリンに乗って移動しちゃうけど、サナとユナの移動にはできる限り貸し切り馬車を使って、金を還元し、経済を回そうと誓ったのである。


「馬車に乗るのも領のためだよ」

「えーっと、なんだか言いくるめられている気がしますが承知しました」


貸し切り馬車は乗合馬車よりゆったりした造りで、座席も布張り、クッションがきいている。これなら、俺もリンも乗ってもいいかな、たまになら。


そうして、貴族専用馬車で実家に乗りつけたサナとユナ。

馬車の音を聞き、お義母さんと赤子を抱いたヨヒトの妻イリスが飛び出してきた。


「ただいま、母さん、義姉さん!」

「ただいま!よかったぁ、母さん元気そうで」


「サナ!ユナ!お帰りなさい!まさか馬車で帰ってくるなんて!」

サナとユナが馬車から降りてくるのを視界にとらえ、お義母さんがウルウルしている。


借金奴隷に出たら5年間、家には帰れないことが多い。

大人びて見えてもサナもユナもまだ十代の女の子なのだ。

母としては心配で心配で仕方がなかったのだろう。

サナとユナに駆け寄り、二人をそっと抱きしめた


「サナちゃん、ユナちゃん、お帰りなさい!あら、素敵な洋服ね。カイト様に大切にしてもらっているのねー」

イリスも、嬉しそうに、まぶしそうにサナとユナを見ている。


「義姉さん、久しぶり!まあ、かわいい赤ちゃん!」

「ウィルっていうのよ、かわいがってあげてね!」

「ウィル!素敵な名前ね!ここにいる間、がんばって面倒見るね!」


「カイト様!サナ!ユナ!」

女性陣が再会を喜んでいるところに、ヨヒトが走ってきた。

その向こうにはピカピカの大きな鶏舎が建っている。


おお!あれが鶏舎か!

なかなか立派な造りだな。


「鶏舎、完成したんだ。よさそうじゃん!」

「はい、ありがとうございます!鶏も200羽飼い始めているんです。今月中には残りの800羽も届きます。頑張ります!」

腹をくくったヨヒトは前回よりさらにいい顔になっている。

いいね、俺も協力するよ!


様変わりした実家の様子をサナとユナは感慨深げに見ている。

鶏舎だけではない。

家は補強され、風呂が作られ、俺たちのための離れが完成している。


「なんだかうちじゃないみたい」

ユナが嬉しさ半分寂しさ半分でぽつりとつぶやく。


「変わることはいいことだよ。母屋もまだ増築するからね。手伝いに来てくれる人たちがゆっくり休める場所も必要だろ?」

「はい、私たちもお手伝いします!」


「サナ、ユナ、お帰り!えーっと、こちらがカイト様、ですね?」

ヨヒトから少し遅れて、ガタイのいい若者が近づいてきた。

「「アルバス兄さん!」」

サナとユナの声が重なる。


おお!この人がアルバスか。

「初めまして、カイトです」

「初めまして、カイト様。ヨヒトの幼馴染でアルバスと言います。サナとユナがお世話になっています」

丁寧な物腰でしっかりした挨拶だ。だけど何だろう?胸がチリっとする。


なんで他人のコイツがサナとユナのお礼を俺に言うんだ?

サナとユナが世話になったらお礼を言うのは俺の役目だぞ。


と、またもやサナが俺の顔を覗き込んで笑った。

「旦那様?やきもちですか?」

笑うなよー!やきもちくらい焼くさ。夫だからな!


そんな俺たちの様子をアルバスは笑ってみている。

「サナとユナのことを大切にしてくださっているようでホッとしました」

なんか、大人の余裕みたいで面白くないぞ!


「サナ、ユナ。お茶にしよう。みんなに王都のお菓子をふるまおうよ」

一緒に過ごした日々の長さでアルバスに敵わないのなら、俺は財力で押し切ろう。

高級茶器に高価な茶葉で、贅沢ケーキを出してやろうじゃないか。うわっはっは。


すると、今度はユナが俺の顔を覗き込んだ。

「旦那様?腹黒い顔してますよ?」

へいへい、大人気ないですよー。わかっていますよーだ。

というか、そもそもアルバスは幼馴染枠でありライバルですらないんだけどな!


新しい鶏舎も気になるが「お菓子」のキーワードを口に出してしまった以上、リンが期待に満ちた目で俺を見ている。先にティータイムだな。


サナとユナにジト目で見られて、さすがに高級食器はやめ、普段使いの素朴な方のカップアンドソーサーを出す。これはこれでお気に入りだ。

さらにはケーキは贅沢すぎです、とサナとユナがこの旅の途中で買った焼き菓子をマジックバッグから取り出し、皿に並べる。


「サナ、ユナ。そ、それ……。なんでそんな小さなバッグからお菓子の袋が出てくるんだ?魔道具か?」

ヨヒトとアルバスが口をあんぐりあけてみている。


「そうなの。すごいわよねー。この中に背負子4つ分の荷物が入るし、重さも感じないのよ。私たちの着替えだけじゃなくて、旅の途中はお水もたくさん入れられたから助かったわ」

「旦那様に買っていただいたの。というか、あまりにも高すぎるのでお借りしているだけって考えるようにしてるんだけどね。怖い怖い」


馬車で来るのに、マジックバッグを持つ意味が分からない……。

ヨヒトのつぶやきはスルーだ。意味とか関係ないし。

やはり俺のロマンを理解してくれる人はここにもいないのか。


「ヨヒトから聞いてはいたけど、話以上の方だな、カイト様は」

アルバスがぼそりとつぶやいた。

それって俺はアルバスに勝ったのか?負けたのか?

って、勝ち負けじゃねぇか。そもそも俺が勝手にライバル視してるだけだし。


ティータイムを終えた俺たちは、出来たばかりの鶏舎の視察に来ている。

「なかなかしっかりした造りだね」

「はい、思い切って購入した鶏たちを魔獣に襲われでもしたら、悔やんでも悔やみきれませんから」


うん、俺もヨヒトの養鶏場がうまくいくことを心から祈ってる。

「あ、これ、ビジネス開始のお祝い、魔獣除けの魔石。屋根裏に入れておいて」


魔獣除けの石?ヨヒトの首がこてんと倒れ、ユナがヨヒトに何か耳打ちした。

「うわぁ!!」

耳打ちをされたヨヒトが飛び上がった。

これはあれだな。ユナが魔獣除けの魔石の値段を言いやがったな。


「そんな高価なもの、いただけません!」

「魔獣に襲われたら、悔やんでも悔やみきれないんだろ?」

「そ、そうですけど……」

で、では、ありがたく使わせていただきます……。

そういって震えながら小さな石を受け取るヨヒト。


鶏舎では近所の女性が一人、清掃の手伝いをしていた。

「今はまだ200羽、一日100個の卵ですが、今月中には1000羽、毎日500個の卵が取れる予定です。手伝いをしたいと言ってくれる人もすでに何人かいます」


ヨヒトが説明を続ける。

「アルバスも来てくれてるんですよ。街に売りに行くのは主に俺かアルバスです」


「でもアルバス兄さんも畑仕事があるでしょう?」

「うん、だから一日5時間っていうのは助かるらしい。現金収入も必要だしな」

「そうよね、この辺りでは10ギルでも助かるわよね」


「ああ、それに働きに来てくれた人にはひびが入って売り物にならない卵を分けてるし、今後は卵が産めなくなった鶏も、販売もするけど分け与えるつもり。健康第一だよな」

まだまだ平均寿命が短いこの地域。

せめてこの家とその周りの人だけでも、卵や鶏の栄養で元気に暮らしてくれたらいい。

俺とヨヒトの想いはおなじようだ。


「私たちも手伝うわ!今回は2、3か月滞在していいって旦那様に言われているの!」

「卵を収集したり、鶏舎を掃除したりするのよね」

腕を捲し上げてサナとユナが張り切る。


「それは助かる!でも一番大変なのは交代に外に放し飼いに出した鶏たちを鶏舎に戻す時なんだ。教えてもらった農家では、主人が追い立てたらみんな自分から鶏舎に戻っていたのに、こいつらまだ俺の言うことは聞いてくれなくて、必死に追い立てて鶏舎に戻すんだよ」

養鶏場経営初心者ヨヒト。頑張れー。


「サナ、ユナ。張り切ってるとこ申し訳ないけど、明日は製紙工場の視察に行くよ。もう従業員が住み始めているらしくてさ、サナとユナには食堂の調理人に味噌や醤油の使い方を教えてあげて欲しいんだ」

私たちで教えられるかしら?不安そうな二人だが、デニス直伝である。大丈夫だろう。頼りにしてるよ。


その前に、今夜はサナとユナとゆっくり過ごそう。

メイダロンでは別々の部屋だったから、二人と過ごす夜は久しぶりだ。

そのための離れである。

やべぇ、楽しみだ。

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