救出
それから数日をレーヴェンス領都セルゲッカで過ごした俺たち。
二日目からは街中に宿を取った俺に、母さんは「残念ね」と言いながら目が笑っていた。いろいろバレてるな、こりゃ。
そして俺たちが帰る前の日。
マルクスさんのリハビリを兼ね、みんなでピクニックに来ている。
領都から徒歩で1時間ほどにある大きな湖。
そのほとりに敷物を広げ、朝からみんなで作った弁当を並べた。
「このおにぎりはクイナが握ったの!」
「この卵焼きはキイナが焼いたの。でもちょっと崩れちゃった」
パパが元気になり、みんなでお出かけするとあって、キイナとクイナは朝から大はしゃぎでママのお手伝いをしていた。
クイナが握ったおにぎりは、三角でも俵でもないいびつな形だ。
それに俺が海苔を巻いて、何とか型崩れを防いでいる。
キイナが焼いた卵焼きは、専用の焼き器がないため丸い普通のフライパンで作成。
卵焼きというよりオムレツのような形だが、甘くふわふわに出来上がった。
マルクスさんはキイナの卵焼きもクイナのおにぎりもおいしそうに食べ、
「二人とも、すっごく上手だよ」
と頭をなでている。
マルクスさんも来月には仕事復帰するらしい。
もうこの家族は大丈夫だな。
サナに膝枕をしてもらい、横になって俺は風が揺らす草の音を聞いていた。
親の前でいちゃつくのは少し抵抗はあるが、膝枕は許容範囲内ということで。
ここ数日、少しずつ秋の気配を感じる。
吹き抜ける風が気持ちいい。
平和で幸せな時間だなぁ。
ウトウトとまどろむ俺の横で、たくさん弁当を食べて満足げなリンも寝そべっている。
その時、不意にリンが立ち上がった。
「カイト!のって!」
「どうした?リン!」
俺の質問には答えず、リンは鼻先で俺をつつく。
「はやく!いくよー」
名残惜しい気持ちを残しながら俺はサナの膝から起き上がり、サナやユナと目を合わせた。
「どうしたんだろう?」
「よくわかりませんが、リン様にお乗りになったほうが」
そうだな。リンの直感には無条件に従うに限る。
「行ってくる!」
「はい、お気をつけて!」
「リンちゃん、カイト、気を付けてね!」
俺がまたがるとリンは久々のトップギアで走り始めた。
うわぁ、これ、またもやばいヤツが来たのか?
今度はなんだ?何がいるんだ?
湖から一山超えただけの場所でリンが立ち止まる。
そこにいたのは……。
ん?
普通にマッドブル?
確かに狂暴だけどさ。
しかも10頭以上いるし、まあまあ危険だけど。
でも腕に覚えのある冒険者なら狩ることができる魔獣だ。
俺たちも今まで普通に狩ってたよな。
「いっくよー」
おう!普通にマッドブルでも、せっかく来たなら狩るのみだ!
俺は剣を抜いて飛び掛かり、リンは風魔法を繰り出す。
シュパッ!ズサッ!バシュッン!
空間を切り裂くようにリンの風がマッドブルを切りつけ、別の一頭を首の後ろから俺が一太刀で倒していく。
数分と立たず、そこには14頭のマッドブルが横たわっていた。
「あぶなかったねぇー」
マッドブルを見下ろし、リンがつぶやく。
「何が危なかったんだ?ただのマッドブルだろ?」
ズサササッ!ドッシーン!
木の上から何かが落ち、地面に打ち付けられる音がする。
うぉぉぉ、なにごと?なにごと?
「いやぁ、助かった!」
「まさかカイトとリンが助けてくれるなんてな」
派手にしりもちをついて、お尻をはたきながら立ち上がるのはシモンとベレン。
その先の木から、ひょいっと降り立つ二つの影。
「やばかったー」
「このまま一生、木の上にいるのかと思ったよ」
クリストフとヨークである。
「みんな!どうしたの?木の上に逃げてたの?」
「鴨を追ってたんだけどよー。気が付いたらマッドブルに囲まれてて。マッドブルなんて俺らじゃぁ、1頭でも厳しいのに、なんだよこの数!」
「木の上に逃げてやり過ごそうと思ったら、ここでくつろぎ始めるんだもん、こいつら」
「かれこれ2時間、木の上にいたわー」
「あー、ケツがいてぇ」
それから4人はリンを取り囲んだ。
「リン!リンが俺らのこと見つけてくれたのか?」
「ありがとな!命の恩人!」
「リンとカイトが魔獣を倒すとこ、初めて見たぞ」
「正義のヒーロー!」
4人になでられ、リンはテレテレである。
「よかったねー、ボクたちがちかくにいて」
「みんな、大丈夫?少し休む?動けるのなら、この先の湖に母さんやサナユナがいるからそこに戻って休まない?」
おふくろさんと再会したのか!よかったな!
おめでとう!
嫁さんも連れてきてるのかー。
ちっくしょー、うらやましいぞ!
口々に言いながら、よろよろと歩き始める4人。
とりあえず湖まで戻ろう。
おおっと、忘れずにマッドブルを回収。
ちょっとした臨時収入だ。
1時間ほどで戻った俺たちを、サナとユナは立ち上がって出迎えてくれた。
「みなさん!こちらにいらっしゃったんですか?」
「旦那様とリン様に出会われたんですね!」
軽く手を挙げて挨拶だけすると、草の上によろよろと倒れこむ4人。
「わりぃー、ちょっとだけ休ませて」
そのまま大の字になって目を閉じた。
「この方たちは?」
母さんが俺に尋ねた。
「話しただろ?メイダロンで知り合った冒険者仲間。この山の向こうで狩りをしてたみたい。十数頭のマッドブルに囲まれて木の上に逃げてたんだって。リンがそれに気づいてくれてさ、マッドブルを倒してきた」
十数頭のマッドブルを……、母さんが息を飲むのが分かる。
「大丈夫だから。リンと俺なら瞬殺だから」
「そう、それならいいけど、無理はしないのよ」
大丈夫だよ、母さん。俺、結構強いし。リンはめちゃくちゃ強いから。
「クリストフたち、何か食べる?お弁当は食っちゃったんだけど、作り置きはいろいろあるよ」
「食う!」
死んだように横たわったはずの4人が、がばっと起き上がった。
俺が取り出したホットドッグを皿に乗せ、アイスティーをグラスに注いで4人に配って回るサナとユナ。できた嫁だ。
そして俺の前にちょこんと座り、尻尾を振りながら目をらんらんとさせるリン。
リンよ、さっき弁当をたらふく食ったろ?
じぃーっ。じぃーっ。
ああ!もう!そんな目で見つめるな!
「一個だけだぞ」
「わーい!」
結局リンに甘いよな、俺。
「うめぇ」
「ほんっと、うますぎる」
「生き返るわぁ」
「マジで死ぬかと思ったもんな」
「おいしーね」
だからなぜそこに交じるんだ、リンよ。
がっつり食べてようやく一息ついた4人は、改めて母さんに向き直った。
「挨拶が遅くなってすみません。俺ら、カリオテ村出身の冒険者でクリストフ、ヨーク、ベレン、シモンって言います。カイトとリンにはすごく世話になってます」
「カイトがお母さんと会えたこと、俺らも嬉しく思います。本当によかったっす」
クリストフとベレンの挨拶に、母さんは嬉しそうに笑った。
「カイトからお話は聞いてますよ。カイトの母のミアです。こっちが夫のマルクス、そして娘のキイナとクイナです」
母さんの後ろに隠れてしまったキイナとクイナが、顔半分だけ顔を出す。
「おお!カイトに妹!」
「よかったな!俺らにたくさん弟や妹がいてうらやましがってたもんな!」
「キイナちゃんとクイナちゃんかぁ、かわいいなぁ」
「数年後が楽しみだね!」
ちょっと待て。
「キイナとクイナを狙ってるのか?やらんぞ」
思わず眉間にしわが寄ってしまったじゃないか。
「またまたぁ、お義兄様とよばせてぇ~」
「ふざけるなあ!」




