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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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ひと月遅れの誕生日

ひと月遅れの俺の誕生日祝いに加え、マルクスさんの全快祝いが加わり、小さなこの家はちょっとしたお祭りモードだ。


肉や魚介、新鮮な野菜などを次々と俺が出し、母さんとサナとユナ、そしてマルクスさんがそれを調理する。

マルクスさんも倒れる前は家事をこなしていたようで、包丁さばきもなかなかだ。


「キイナとクイナにもね、収納の魔力があるの。兄妹ね」

そっか、この魔力は母さんからの遺伝なのかな。母さんにはないのにな。


「カイトと同じで、荷馬車一台分くらいの収納力があるのよ。時間経過も半分以下で。この力は将来、この子たちの大きな支えになると思うと、嬉しいのよ」


ちょっと待て。

荷馬車一台分?時間経過半分?あれ?


「母さん、俺の収納力って荷馬車1台分?」

「そうよ、5歳の時に調べてもらったの。時間経過も半分以下……、あら?このエビ、新鮮ね。野菜も採れたてみたい」


うーん、身内どころか町中の人にバレてるし、まあいいか。

「俺の収納力、リンにも分からないくらい大きいよ。この前も大木500本あっさり収納できちゃったし。時間経過も全くないんだ」


そんなすごい収納、聞いたことないわ。

首をかしげる母さん。

「封印されていた魔力をリンに解放してもらった時からそうなんだけど。もしかしてリンの力でグレードアップしたのかな?」


机の上で丸まって寝ているリンをちらりと見る。

そうかもしれないな。

それとも転生ボーナス的な?


張り切ってお手伝いをしているキイナとクイナは、ハンバーグ用のひき肉をこねこねしているところだ。


「お兄さんの収納はキイナよりずっとずっと大きいのね!すごい!」

「キイナとクイナも収納の魔力があるんだな、すごいな」

そう言うとクイナが複雑な顔をした。

「クイナ、すごい?でもすごいでしょっていうとママに叱られるの」


もじもじするクイナに母さんが説明してくれる。

「魔力がある人の方が圧倒的に少ないでしょ?私、魔力があるの、すごいでしょ、って天狗になっちゃったら、この子たちの将来、幸せが逃げちゃうもの」


そうかー、そうだよな。

俺だって魔力を封印された底辺の時代を知らなかったら、「どや!俺すごいやろ!」っていうヤバい人間になっていた可能性は高い。


努力で勝ち得るものではなく、生まれついて持っている不公平な能力は、生まれた家の違いによる不公平な身分と同じくらいダメ人間を造成しかねない。

どんな世界も真の意味での公平なんてないから、難しいよね。


リンを除く全員で作ったディナーが、狭い食卓いっぱいに並ぶ。

スライスしたパンにサーモンやエビ、ハム、トマト、ブロッコリーなどを彩り豊かに乗せた様々なオープンサンド。チーズインハンバーグは人参のグラッセを添えて。スープはクラムチャウダーにした。


「きれいね!」

「すっごいごちそう!」

キイナとクイナが目をキラキラさせて食卓を見つめている。


「カイト、ひと月遅れちゃったけど誕生日おめでとう。13年ぶりにカイトの誕生日を祝えて、とっても幸せよ」

「旦那様、おめでとうございます」

「誕生日おめでとうございます!旦那様!」

あー、あいつらに攫われてから、誕生日を祝ってもらうのも初めてだ。


「みんな、ありがとう。マルクスさんも全快おめでとうございます」

「カイトくん、本当に感謝するよ。そしておかえりなさい」


「みんなおめでとう?なにがおめでとう?おいしそーだねー」

リンは待ちきれないようにお皿を覗き込んでいるが、ちゃんと待てができるいい子だ。


それぞれワインやジュースが入ったグラスを掲げ、乾杯をする。

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「おかえりなさい!」


おかえりなさいの場所がまた一つ増えた。


一週間ぶりの母さんとサナユナ、そして新しい家族と一緒に食べる食事は、また特別なおいしさだ。

「キイナ、エビ食べるの初めて!」

「この白いスープに入ってるのは貝なんだって、おねえちゃん」


「いつかみんなでザイオンへ遊びにおいで。ザイオンでは肉より魚介の方が安いんだ。リンがおいしい屋台を教えてくれるよ」

「やたい~、おいしいよ!」


「私はビルケッシュ領へ行ってみたいわ。カイトが暮らしたメイダロンへ」

母さん……。


「メイダロンかぁ。うん、メイダロンにも優しい人がたくさんいるよ。でもあそこはちょっと、母さんにはつらいかな」

母さんは少し痛ましそうな顔をして、すぐに笑顔に切り替えた。

「それでもいいの。行きたいの」


うん、そうだね。

「サナとユナもいつか連れていこうと思っていたんだ。母さんも連れていくね」


「カイトママはまほうつかいにあいたいの?」

リンがこてんと首をかしげて母さんに尋ねる。

「ん?魔法使い?」


ふふっ。

リンが会いたいんだろ?

今回はコリンバースだけにしか立ち寄れなかったもんな。

「リンもまた会いに行こうなー」

「うん!」


そうして俺たちは、テーブルいっぱいの料理を心ゆくまで堪能した。


「カイト、ここからは大人の話をしましょうか」

娘二人が寝に行ったのを見計らい、母さんが話を切り出す。


「国から7万2千ギルと1万ギルが支払われたのだけど、この7万2千ギルはカイト、あなたが受け取るべきものでしょう?私はカイトに会えただけで十分幸せだし、その上主人の病気も治してもらえて、もう十分すぎるほどもらったから、このお金は受け取れないわ」


まあ、母さんならそう言うだろうなと思ってたよ。

「じゃあ、そのお金、母さん預かっててよ。俺に何かあった時、キイナやクイナ、マルクスさんに何かあった時のためにさ」


そう言われても……。

母さんは戸惑っているようだが、その金は今俺には必要ない。

「金には困ってないんだ、サナとユナにも贅沢させてやれるくらいには持ってる」


「カイトが今活躍していることは私も聞いてるけど……、あなた、どうする?」

マルクスさんに意見を求める母さん。


「これは私が口を出すことじゃないよ。ミアとカイトくんが決めることだ。ミアがちゃんと預かって、ここぞって時に使うのなら、カイトくんも嬉しいんじゃないかな?」

「そうそう、さすがマルクスさん!」


そうねぇ、じゃあ私が預かっておきましょうか。

ということで慰謝料の話は決着した。

だが俺はもう一つ話しておかなきゃいけないことがある。


「サナ、ユナ。金には困っていないって話をした直後でなんなんだけど……」

俺はフィリオーネ領に建設する製紙工場に出資を決めたこと、それによりしばらくはリンと俺たち4人で暮らせる家はお預けになったことを二人に話す。

「相談もなく勝手に決めてごめん」


「ふふふっ。旦那様らしいですね。むしろフィリオーネのために、ありがとうございますって言わせてください」

「私たち4人で暮らす家を考えてくださっていたんですね!それも嬉しいですが、今はフィリオーネの人たちに働く場所を提供していただける方がうれしいです!」


予想通りだが、サナとユナも喜んでくれてホッとする。

「でもいつか、リン様が思いっきり走り回れるような広い庭のある家、素敵ですね」

「そうしたらねえさんと私で、毎日張り切ってお掃除しましょ」


俺の夢が4人の夢になった瞬間。ま、リンがそれを望んでいるかどうかは謎だが。


小さなこの家は、ダイニングの奥が母さんとマルクスさんの寝室。

2階の一部屋がキイナとクイナの部屋。

そしてもう一部屋は空き部屋だった。


「ここはカイトの部屋よ」

え?俺の部屋?


「ミアはずっと、カイトくんの部屋をいつも用意してたんだよ。ようやくカイトくんを迎えられて本当にうれしいよ」

いやいやいやいや。


「その気持ちは嬉しいけどさ、そろそろキイナとクイナも自分の部屋が欲しくなる頃だろ?俺の部屋はいいから。その気持ちだけで十分だから」


とはいえ、今夜はこの部屋にリンとサナとユナで布団を並べて寝ることにする。

狭い部屋で3人と一匹、肩を寄せ合うように布団にもぐる。


1週間ぶりのサナとユナの体温をすぐ隣に感じ……、しかし!薄い壁一つ隔ててキイナとクイナが寝ている。そして階下には母さんたち。

ここでは変な声も上げられないし、ましてや、ぎしぎしと建物を揺らすわけにもいかない

ぐっと我慢である。

ああ、サナとユナの柔らかい肌がぁぁぁ。くぅぅぅ。


「サナ、ユナ。明日は宿に泊まろうか」

くすくすと二人も笑い、「そうですね、そうしましょう」と賛成してくれた。

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