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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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フィリオーネ改革

翌朝、製紙工場予定地に俺とリンは来ていた。


領都パララクルから徒歩で30分ほどの比較的良い立地だ。

石がごろごろとむき出しているその土地を、工場建設のために整地する作業がすでに始まっている。


「いい場所だね」

「立地だけはな。でもここは作物も育たず、使い途のなかった土地だ」

そう答えるのはここまで案内してくれたブラッド。


「ここに木材を運べばいいんだね」

「ああ、無理のない範囲で頼む」


俺たちは明日レーヴェンス領へ行くから、今日しかないんだよな。

よーし、リン、やろうか!


「リン、全然狩りに行かずに、木こり仕事ばっかりでごめん。今日は昨日よりたくさん木を切り倒すよ!」

「いいよー!いっぱいたおす~」

リンにとっては魔獣も木も、同等なのだろうか?


俺も冒険者になったはずなのになんだろうなー?

しかし、この作業で建設費が大幅に安くなるのなら、やらねばならない!


リンの背に乗り、人がほぼ足を踏み入れない山奥へと分け入ると、そこには太くて立派な木がうっそうと生い茂っていた。

樹齢数百年を超す立派な木々だ。乱伐はご法度だな。


「リン、全部倒したらダメだよ。2、3本おきに倒していこう!」

「うぅぅ~、むずかしい~」


そう言いつつも絶妙に風魔法を操り、木々を縫うように一瞬で倒していくリン。

さすがだな!

俺は倒れた木を回収していく。枝葉を取り払っている余裕はない。


俺の収納のサイズは結局どのくらいなのか、俺もよくわかっていない。

過去、イーストダッグが三千羽近く入っていたこともあるし、魔獣を何百頭も入れていたこともある。

今、収納にはほとんど魔獣は入っていないが、木材はいったいどれだけ入るのか。


リンがどんどん木を倒し、俺がどんどん収納していく。

場所を移動しながらひたすらそれを繰り返す。

大きな木を切り倒していくのに、やってることは地味だな……。


「おなかすいたー」

500本を超えたところでリンのおなかがくうっと鳴った。


あの規模の工場や住居を建てるなら千本欲しいところだが、一度に建設できるわけじゃないから今日は500本でいいか。

まだ昼だが、今日の作業はここまで!


「リン!ゼットンさんのてりやきバーガーにする?」

「する!」


リンと二人でピクニックランチ。

ピクニック?いや、木こりランチか。


「おいしーねー」

てりやきバーガーはやっぱりうまいな!

醤油は正義だ。

この国でも醤油は広まると断言しよう!


食後は七輪を出してお茶を沸かす。

王都ではここ最近ずっとアイスティーだったが、北のこの地は夏でも温かいお茶がおいしい。

切り株に腰を下ろし、ビルケッシュとも王都とも違う山の景色を眺める。

リンと一緒に過ごすこんな時間も、やっぱりどうしようもなく好きだな。


お茶を飲みながらぼーっと考え事。

ヨヒトの家もこのままじゃだめだよな。

サナとユナが奴隷となって手に入れた金も、日々の生活費に消えていくだろう。

何か手を打たないと。


フィリオーネ領の問題も製紙工場を作れば解決するというレベルではない。


これまでの俺にとっては自分とリンとが毎日おいしいものが食べられ、自由に暮らすこと、それがすべてだった。


今は気に掛けることが増えたな。

でもそれは、大切な人が増えたということ。

なんかそれも悪くないかな。


休憩を終えて工場予定地まで戻ってくると、広い空き地に木を並べていく。

枝葉を取り払っていないため大きく場所を取り、一面に木が並んだ状態だ。

木を並べる俺の後ろから、リンが乾かす。


整地作業をしていた作業員たちはその様子を口をあんぐりとあけてみていた。

「おい!ぼーっと見てんじゃねぇ、枝葉を打ち落としていくぞ!」

最初に我に返った指揮官らしき男性がげきを飛ばし、作業員たちが斧を持って枝打ちに取り掛かった。

そういう指揮官も、さっきまで口をあんぐりあけていたけどな。


広い敷地一面に木を出し終わったところで、俺とリンも枝打ちに取り掛かる。

スパンスパンっと太い枝を一振りで切り落とす俺の横で、スパパパンっと一瞬ですべての枝を打ち払うリン。リンよ……、すごすぎだろう。


またしてもその様子を、口をあんぐりとあけて見つめる作業員たち。

「俺たちがやる意味あるのか?」


作業員たちの反応に気をよくしたリンは、調子に乗ってスパパパンっと風を巻き起こし続ける。何気にドヤ顔だぞ、リン!


「よ、よ、よーし!俺らは丸太を積み上げていくぞ!」

今度も最初に我に返った指揮官の元、作業員たちは木を取り直して丸太を積み上げていく。枝も太いものは木材として利用、細いものは薪となる。無駄にはしない。


作業員たちの称賛のまなざしを受けて、リンは絶好調だ。

一気に丸太が出来上がっていく。


城から戻ってきたブラッドも、積みあがった丸太を見て口をあんぐりあけている。

「す、すごいな……」

無双するとこ、なんか違う気がするけどなー。



俺たちは自分の役目が終わったところで、ブラッドと一緒にフィリオーネ城へ向かった。

俺はこの城でやりたいことがあるのだ。


厨房を借りると、料理人に手伝ってもらいながら料理開始。

以前臭みが気になってしまった熊肉。味噌鍋にしたい!とあの時から思っていた。

今は夏だが、フィリオーネの厳しい冬にこの鍋は救世主となるだろう。


味噌鍋の他には夏野菜の天ぷら。ナスやかぼちゃ、シシトウなどの天ぷらを、天つゆで提供する。ナスは素揚げにして肉味噌を乗せたものも作った。


そう、味噌と醤油の普及作戦である。


「うまいな!熊肉は癖があるが、これなら臭みは全く気にならない!」

ブラッドだけでなく、城の料理人も側近の人たちも大絶賛してくれた。


「野菜を揚げただけのものがとても贅沢な味に仕上がっていますね」

天ぷらもナスの肉味噌も高評価だ。


「確かにこれらの調味料はフィリオーネの寒い冬を乗り切る助けとなるだろう。製紙工場が軌道に乗り、安定した収入が入るようになったら、これらの食材を仕入れろということか?」


「ブラッド、そうじゃないんだ」

「違うのか?」

「俺からの提案は、製紙工場から収入がある程度入ったらその金でこれらの製造方法と製造権を買い取ることなんだ」


製造権の買い取り……。

ブラッドが考え込む。


「陛下とローガンス商会が全国展開をはかったとしても、さすがに500kmは遠い。はるばる運んでいたらどうしても贅沢品になってしまうよね。だから権利を買い取ってフィリオーネで製造し、北部地域へはフィリオーネから供給したらどうだろう」


「メリットは醤油や味噌の製造販売だけじゃない。農家の収入にもつながる話だよ。原料の大豆は鍋に入っている豆腐や油揚げにもなるんだ。これまでは枝豆や豆のスープくらいにしか利用されていなかったと思うけど、本当は無限の可能性を秘めた豆なんだよね。栄養価も高いし、育てやすくて保存食にもなるから、この地域で栽培するのをお勧めしたい」


ブラッドが目を閉じ、大きく息を吐いた。

「私は今、製紙工場を成功させることで頭がいっぱいだった。それだけでも多くの雇用を生み出し、この領に利益をもたらすと、満足してたんだ。カイトは次の一手をどんどん考えているんだな」


えーっと、この国の北と南の両方で味噌と醤油を作れば、供給が安定していつでも手に入るなー、という個人の欲望が混じっていますけど?


「先ほどの大量の木材を見て覚悟を決めた。一気に製紙工場を建て、稼働させる。同時に王都へも行き、製造権の買い取りの話も進めることにするよ」


「俺からもローガンス商会や陛下には話を通しておくね」

あっさり言うなぁ、相手は国王陛下だというのに。ブラッドが驚いているが、使えるコネは何でも使わないとね。領民の生活レベル向上のためだ。

そしてこの国に味噌と醤油を広めるためだ!

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