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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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大工仕事

「技術の導入はアーノルドを通じて了承しているよ。出資の方は、具体的な金額を聞いてからかな」

金額も分からずにOK出せないって!


「それに関しては私からご説明させていただきます」

側近の一人が書類を取り出した。


「工場の予定地はブラッド様の私有地を利用します。工場や従業員寮の建設費と設備投資が350万ギル、従業員及び借金奴隷200名の1年分の契約金120万ギル、稼働から半年分の従業員の生活費及び諸経費100万ギル、同じく材料費50万ギル、その他経費30万ギル、計650万ギルです。カイト殿には可能なら半額の325万ギルの出資をお願いしたいと考えています。もちろん利益額の半分をカイト殿にお支払いします」


おぉぉ!出資金、3億円超えたぞ!

マジでキマイラとワイバーンの討伐報酬が全部飛んでいくな!


しかしちょっと待て。以前アーノルドの工場を視察させてもらった時に、ざっと年間1千万ギル(10億円)の売り上げがある計算だった。今はその4倍の生産性を狙っている。

フィリオーネの工場も同じ規模なんだよな。


大量生産により紙が値下がりするとしても、利益率、やばくねぇか?

やっぱり経営者に金が集まる世界なんだな。


「払えない金額じゃないが、リンと嫁であるサナとユナと相談してから返答したい」

俺の言葉にブラッドが首をかしげる。

「嫁というのは借金奴隷だと聞いているが」


そうだよな。経営に関して奴隷の意見を聞く雇用主なんていないよな。

実際、俺の決定にサナユナが異論を唱えることはあり得ないだろう。

でもさ、リンとサナユナと一緒に暮らす家の資金にするつもりだったんだ。

一言お断りを入れるのが筋ってもんだろう。彼女たちには伝えてなかったけど。


「あのー、ちょっとよろしいでしょうか」

それまで空気と化していたお義母さんが、話に入ってきた。


「サナとユナの意見を聞いてくださるというカイト様のお気持ちは大変うれしいのですが、それには及びません。サナとユナはカイト様の決定に従うだけです」


そりゃそうだけどさ。

「だとしても、自分の意見を聞いてもらえた、その事実がうれしいものではないですか?」


「ふふふっ。カイト様は女心をよく分かっていらっしゃるんですね」

いや、全然分かってないけど?この先、失敗する予感しかないけど?


「もちろんそれは女性にとってうれしいことではありますが、今回のことはカイト様にそうおっしゃっていただいたというだけで十分なことです。ましてやフィリオーネ領のためにカイト様が一肌脱いでくださる。サナとユナには幸せな要素しかありません」

そうかなー。そうだといいけどなー。


「分かりました。じゃあサナとユナは賛成してくれるものとして、リンの意見を聞きましょう」

俺はお菓子を食べ終わってお昼寝中のリンに声をかけた。


「リン、起きて。リンが稼いだお金をさ、この土地に工場を建てることに使いたいんだけどいいかな?」


むっくりと起き上がったリンはキョトンとした後、ちょっと悲しそうな顔になった。

「ごはん、かえなくなる?おかし、かえなくなる?」

いやいや、それはない!大丈夫だから!


「リンがおいしいものを食べるお金はちゃんと残ってるから大丈夫だよ」

「カイトも?サナとユナも?みんなも?みんなおいしいものたべられる?」

ええ子や!リンは本当にええ子や!


「みんなもだよ。これからも皆で毎日おいしいものが食べられるよ」

それを聞いてリンがぱぁぁっと笑顔になった。

「ほんと?じゃあいいよ!」


「か、かわいい……」

その場の空気はすでにビジネスに関する打ち合わせではなくなっている。

全員がほんわかした空気に包まれ、側近たちの目じりも下がっているではないか。


「リンの了承は得られたけど、俺からいくつか条件がある」

俺がそう投げかけると「可能な限り応えよう」というブラッド。


「まずは工場や従業員寮を建てる際の木材調達。街の近くの山から切り出すと生態系に影響を及ぼすが、どうするつもり?」


「生態系という意味は分からないが、街の近くの山から切り出すと、魔獣がいなくなって食料調達に影響がでたり、土砂崩れが起こったりすることは理解している。今回は領地の奥地から木材を切り出して運ぶ予定だ。その分の経費も計上してある」


よく分かってるな。さすがだ。

「じゃあ、その木材調達は俺とリンでやるよ」

俺とリンなら山奥まで行き、木材を調達してくることは朝めし前だ。


「おお!それはありがたいですね。ブラッド様、そうしますと設備投資代が数十万ギル、浮きますよ!」

先ほど説明してくれた側近が、さっそく頭の中でそろばんをはじいている。


「二つ目は従業員の労働環境や工場の効率化に関して。これは俺も定期的にチェックして、口を出させてもらうけどいいかな?ブラッドを信用していないわけじゃないが、人の目は多い方がいい」


これに答えたのはブラッド。

「もちろんだ。カイトは共同経営者なのだから遠慮なく経営に携わり、気になったことはどんどん発言してほしい」


「そして最後の条件。ここにいる全員、今からこの家の修復作業を手伝ってほしい」


俺は明後日にはレーヴェンス領へ行かなければいけない。

母さんたちがレーヴェンス領に帰るのに俺が間に合わなかったら、後で何を言われるか分かったもんじゃない。

この家の修復にかける時間はあまりないのだ。


「な!なんと!ブラッド様に大工仕事をしろと?」

側近の中でも年配の人が声を荒げた。


「よいではないか。もちろん手伝わせてもらうよ。お安い御用だ」

大人の表情で余裕をかますブラッドに、その年配の側近が冷たい目を向けた。


「ブラッド様は何も分かっていらっしゃらない。金槌を持ったこともないブラッド様がお役に立てるものですか」

おぉぉぉー、そっちかー。


「な!なにを!そんなの、やってみないと分からないではないか!」

「いや、やってみる前から分かりますけどねー」


きっとこの年配の側近はブラッドにとって親のように頭のあがらない存在なのだろう。

こんなやり取りからも、ブラッドが臣下に恵まれていることが分かるな。


トンテンカンテン、トンテンカンテン、トンテンカンテン。

「カイト殿―、屋根の板は二重にしますかー?」

「おーい、そこのくぎ取ってくれー」


さっきまでヨヒトと俺の二人でやっていたものが、男手5名が加わり、一気に作業が進む。


「ブラッド様、くぎが曲がっておりますぞ」

「お、そうか?今度こそうまくいったと思ったのに」

「くぎの無駄遣いです。ブラッド様は板を抑える役でお願いします」

「えぇぇ?くぎ打ちの方が楽しいのにー」

ブラッドよ、子供か!


調子に乗って、薪小屋まで作ってしまった。

俺はと言えば、大工仕事を他のみんなに任せ、余った木材を薪にしてできたばかりの薪小屋にどんどんと積み上げていった。


「こんなにお手伝いいただいて。薪小屋まで。皆様のおかげで今年の冬は暖かく過ごせそうです」

ブラッドはあんまり手伝えてなかったけどなー。


しかし予定より早く家の修復が終了し、満足な俺だった。

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