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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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フィリオーネ領主ブラッド

とーんてーん、かーんてーん。

金槌の音が鳴り響く。


フィリオーネ領都パララクルから徒歩で2時間、10kmほど離れた場所にサナとユナの実家はあった。俺は今そこで、絶賛大工仕事中である。


サナユナの実家は予想通り、いや予想以上にボロ屋だった。

雨も風も吹きこむ隙間だらけの家。

数日前に生まれたばかりの新生児をこの家に置いておいていいのか?


それに今は夏真っ盛りだが、間もなく秋、そして冬が来る。

いやいや、乳児は乗り切れないだろ、ここじゃあ。


俺は挨拶もそこそこにパララクルに行き、斧やのこぎり、金槌、くぎを買い込んだ。そしてその足で山の奥までリンの背で走って、どっしりとした木材を数十本切り出した。

いったん収納に入れて戻り、リンの風魔法で木材を乾燥。

斧とのこぎりで木材を切り揃えるのは刀剣の魔法で瞬時に終わらせ、そして現在、ヨヒトとともに家の修復作業中なのである。


木を切り倒すのも、運ぶのも、乾かすのも、すべて俺とリンの魔法でできる。

しかし、金槌でトンテンカンテンするのは自力のみだ。残念。

最後まで魔法でかっこよくサラっと決めたかったよ!


「こんなわずかな時間でこれほど大量の木材ができるなんて、さすがカイト様です」

ヨヒトは感動してくれているが、地味に金槌を振るっていることに変わりはない。


「休憩にしませんか?」

ヨヒトの妻、イリスが顔を出した。


「イリスは休んでろって」

ヨヒトが慌てて梯子を降り、産後すぐの妻をいたわる。

「お茶を淹れるくらいはできるわよ」


普段、彼らは野草を乾燥させたお茶を飲んでいるようだが、その苦みは俺もリンも苦手だ。今日は王都で買ってきた紅茶にしてもらった。リンにはミルクとはちみつ入りで。


焼き菓子を並べてティータイムとする。

お役目終了とばかりに寝ていたリンも、もちろん起きだす。

「おかし、おかし~」

「おお、今日はいっぱい走って、木材の乾燥もしてくれて頑張ったもんな。好きなだけくえよー」


「パンでも贅沢だと思っていたのに、クッキーなんていいのかしら、お義母さん」


サナユナのお母さんは、今日は少し体調がいいようで、俺が持って来た布でおむつを縫っていた。

「私はいいから、サナとユナに持って行ってあげてください」


「サナとユナは毎日もっとおいしいものを食べてますよ」

あそこにしかない米や味噌や醤油とかな!

彼女たちには微妙かもしれないが、俺に言わせればそれは最高の贅沢だぜ。

きっと今頃は、セルゲッカへの道中で旅先のおいしいものを食べているはずだ。


「本当に、カイト様にお仕えできてサナとユナは幸せ者ね」

「いや、二人に出会えてラッキーなのは俺のほうです。毎日幸せです」


サナユナ母の病気は長年の低栄養状態に起因するものだった。

「私はいいから、あなたたち食べなさい」

そう言い続けた十数年だったのだろう。


「お義母さんの今の仕事は、少しでもたくさん食べて元気になることですよ。サナとユナが帰って来た時には元気になっていてもらわないと、許しませんからね」

じゃないと、せっかくのサナとユナの覚悟が水の泡だ。


親は子のため、子は親のため。

その生き方自体は素晴らしいが、この生活レベルはいただけない。

やはりこの領には産業と雇用が必要なんだ。


やっぱり、広い家は当分お預けかな……。


その時、家の外が騒がしくなった。

複数のひづめの音がし、がやがやと人の声がする。


「突然失礼する!神の使徒カイト殿がいらっしゃる家はこちらか?」

おお、来たか?


「フィリオーネ領領主、ブラッド・フィリオーネ様がお越しである」

側近が張り上げる声はちょっと居丈高で感じ悪いなぁ。


ブラッドという人はアーノルドの友人というくらいだから大丈夫だと思うけど、いい機会だ、どんな人か見させてもらおう。


ヨヒトと妻のイリス、お義母さんはぎょっとして顔を見合わせ、肩を竦ませた。

「りょ、領主様?」

「なぜここに?」

「この様なあばら家にお通しするわけには……」


領主と言えど、俺にとっては金を借りに来る人にすぎない。

すでにアーノルドや陛下で免疫もできたしな。


「話を聞きましょう。入ってもらっていいですか?」


俺は建付けの悪いドアをぎしぎしとあけて、領主ご一行と対峙した。

玄関先には5名の男たち。


中心にいる背の高い茶髪の男性がブラッドかな?

貴族スタイルではあるが、フロックコートは刺繍も施されていないし、ちょっと古い。

贅沢をしているわけではないようだ。

第一段階合格、なんてな。


「そなたがカイト殿か。こちらにいらっしゃるのは!」

「よさないか」

側近が声を張り上げたところを、ブラッドが制止した。


「カイト殿に威勢を張っても意味はないよ」

ブラッドが俺に向き直って、腰を折った。


「突然押しかけて申し訳ない。フィリオーネ領領主ブラッドだ。先ほどカイト殿とフェンリル殿がパララクルに現れたと聞き、いてもたってもいられず押し掛けてしまった。少しお話させていただけないだろうか」

うん、さすがはアーノルドの友人。誠実な人であるようだ。


俺がちらりと側近のほうをみると、ブラッドは乾いた笑いを漏らした。

「すまない。貧乏領地と言えど領主である以上、領民に侮られるわけにもいかなくてな。側近たちもできる限り威勢を張るようにしているのだ」


まあそうだよな。領民にへりくだっていては領主なんてつとまらない。


「入ってもらうのはいいけど、狭いよ。また義母は病気だし、義姉は産後間もないから、座ったまま失礼するけどいいかな?」

おっと、初対面で領主相手にため口になってしまった。

でもアーノルドの友人で、かつ支援を求められている相手に敬語ってのもなんか違うよな。


側近たちは一瞬眉を動かしたが何も言わない。

彼らもそれなりにできた人間のようだ。

「我らは立ったままで構わん。非礼なのはこちらだからな」


その言葉を聞き、固まっていたヨヒトがハッとして動き出す。

「こちらの椅子をお使いください」

ヨヒトが急遽運んできたのは椅子というより木の箱?

だが立たれるよりはましだ。


「ヨヒト、お湯を沸かしてもらえる?お茶くらいはお出ししよう」

ヨヒトとイリスに手伝ってもらい、この粗末な家には似合わない高級なティーセットでお茶とケーキを出す。


それを見てブラッドとその一行がため息を漏らした。

「ケーキはコリンバースやその他の大きな街では売っているが、パララクルにはないものだ。はずかしい話だが我が領では高級品を買える人がほとんどいないんだよ」

ブラッドが悔しそうに話す。


「それは一部の貴族が利益を独占していない証拠だよ。貧しいながらもいい領地経営をしてるんじゃないの?」

俺の言葉でブラッドの肩の力が少し抜けたようだ。笑顔がやわらかくなった。


「カイト殿はアーノルドの言う通りのお方だな」

「カイトでいいよ、アーノルドもそう呼んでるし」

「では、私のこともブラッドと」


ブラッドが背筋を伸ばし、改めて俺に向き直った。

「すでにアーノルドから聞いているとは思うが、改めて私の口からお願いさせていただきたい。フィリオーネ領に新たに建設する製紙工場で、カイトの技術を導入させてもらえないだろうか。また、図々しいお願いであることは承知しているが、その工場へ出資していただけないだろうか」

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