マイドリーム、遠のく?
「母親と会えたのか。よかったな」
俺は今、ビルケッシュ城に来ている。
母さんのザイオン行きをサポートしてくれたアーノルドにお礼を言っていたところだ。
「うん、いろいろと世話をしてくれてありがとう。母さんと会えて……、ホントに良かった」
あの後、母さんは2日間ザイオンに滞在した。
その間、とても慌ただしかったよ、母さんとサナとユナが。
ヨヒトに会いに行くという俺に持たせるための、新生児用の新しい布を購入。
「そんな、私たちの性奴隷としての対価も支払っていただいているのに、旦那様にそこまでしていただいては……」
恐縮するサナユナに、母さんが「新生児の不衛生は命にかかわるのよ。ここは遠慮しているところじゃないわ」と後押ししてくれた。
そして、母さんの今の家族のための洋服など。
それは逆にサナユナが張り切って選ぶ。
俺からの希望は、レーヴェンス領への道中、母さんとサナユナが困らないだけの着替えなど。それは母さんとサナユナが、うきうきとお互いに見立てあっていた。
サナとユナには旅費として5千ギル(50万円)ずつ持たせた。
「こんな大金を……」
5枚ずつの金貨にビビるサナとユナだったが
「母さんの旅が楽しくなるよう、居心地のいい宿とおいしいご飯を探して用意するのが二人の仕事だよ」
というと、途端に神妙な面持ちで受け取った。
まじめだな。
そうして支度を整えると、母さんとサナユナはレーヴェンス領へと旅立っていき、俺とリンはコリンバースまで一気に走ってきたのだった。
「しかし、性奴隷を嫁に迎えたのか。まあ、カイトらしいが、ミミリアが成人するまで待ってほしかった」
いやいや、10年待てっていじめだろ?
「まあ、10年後。まだチャンスはあるな」
ないから!
5年後も10年後も、サナとユナに逃げられないよう、俺は頑張る!
また、キマイラのブーツも完成。
足首まである厚手の革で、黒く染められている。
足元だけかっこいいな、俺!
「毒や炎に強いんだっけ?」
「ああ、狩りに行くときは履いていくといいぞ。足を守ってくれる」
稼ぐようになっても洋服は相変わらず庶民服だし、収納があるから高級バッグも持たない。剣はアーノルドとコーゲイさんが探し出してくれるのを待っている状態だ。
考えてみれば初めての装備のグレードアップだな。
話題は、先ほど視察を終えたばかりの製紙工場に移る。
粉砕機と紙漉き機は試作品1号と、改良を加えた試作品2号が稼働していた。
どれも従業員の作業負荷を減らし、作業効率アップとなっている。
「間もなく試作品3号も完成する。それに合わせて工場を拡張しようと思うんだ。今の人員で倍以上の紙を生産し始めている。最終的には4倍が目標だな」
試作品製作のスピードが早い。早すぎる。
職人が優秀なのか、アーノルドが優秀なのか。
「カイトの設計図が完ぺきだったんだよ。職人も感心していたぞ」
「自信なかったけど、なんとか稼働していてホッとしたよ」
工場の従業員たちも生き生きと働いていた。
機械に自分の仕事を奪われるのではなく、生産性が上がれば自分たちの待遇も改善されると聞かされていたからだ。
目標である生産性4倍となった暁には、現在の月2回の休みに加え、一年に一度20日のまとまった休みを出すという約束がされたらしい。
20日あれば実家が遠くても、帰ってゆっくりとした休みを過ごすことができるだろう。
従業員たちががぜん張り切るのもうなずける。
従来の純利益から増加した分は、アーノルドと俺とで半分ずつ配当されることになった。いやいや、工場の拡張とかはアーノルドが出資するんだよな?
そう遠慮したが、本来なら増加した分はすべて俺のアイデア。アーノルドが半分の配当を受ける代わりに増設分の出資も行うのだそう。
俺ばっかりいいとこどりではないだろうか?
近い将来受け取れる配当金に思わず顔が緩みそうになっていた時。
「カイトに一つ相談があるんだが」
少し声を抑え、アーノルドが真剣な面持ちで話しかけてきた。
「難しい顔して何?」
「カイトはこの後、フィリオーネ領に行くんだよな?」
「うん。サナユナの実家があるんだ。兄の子供がそろそろ生まれているころだから様子を見てくる」
「じゃあ、フィリオーネ領がどれほど貧しい地域かは多少は知ってるよな」
寒い地域はだいたいどこも貧しい。
砂糖の元となる甜菜の栽培に適した地域ならまだましだが、フィリオーネ領は甜菜の育成には不向きで、じゃがいもくらいしか育たず、これといった産業もない。
だからこそ皆、借金奴隷や使用人として王都や別の領を目指し、そこから得た契約金や給金を家族に仕送りすることで何とか生きているのが現状だ。
「フィリオーネの領主、ブラッドとは友人なんだ。比較的近いし、歳も同じだからさ。親同士も交流があったから、子供のころはお互いの城を行き来して一緒に勉強したり訓練したりした仲なんだ」
「ブラッドも頑張ってはいるが、領地運営はなかなか厳しいようで。やっぱりあの領には産業が必要なんだよ。うちがサポートして製紙工場を作る話が出ているんだが、フィリオーネにもこの最新技術を提供してもいいだろうか?」
特許登録みたいなものはアーノルドが俺の名前でしてくれている。
俺の許可なしに進めることはできないのだろう。
「もちろん。フィリオーネはサナとユナの実家があるところだ。俺にとっても特別な土地だよ」
フィリオーネが少しでも豊かになればサナユナも喜ぶだろう。
「それで、なんだが……」
あれ?まだ何かあるの?
「できれば新しく建てる製紙工場に出資してやってほしい。私が出資できればいいが、他領の領主は出資が認められていない。ブラッドには融資もしているが、すでに個人として融資できる金額は最大に達してしまっているんだ」
え?工場への出資?
それってスペインバルの規模じゃないよね?俺に払えるの?
「それって具体的にいくらくらい……」
ビルケッシュ領の工場を建てた時の設計者をすでにフィリオーネ領に送っており、打ち合わせが始まっているのだとか。そこで資金が全く足りないことが判明したそうだ。
「ブラッドも資産や融資をかき集めているがようやく半分。できればカイトに残りの半分を出資してもらえたら。私の製紙工場ですでに実証済みだから、出資金が2,3年で回収できることは保証する。その後は黙っていても金が入ってくるぞ」
いや、だから、いくら?
「ま、まあ、だいたい、キマイラとワイバーンの報奨金全部くらい……」
おぉう!
そういうことか。
おい、アーノルドって詐欺師じゃないよな?信じていいんだよな?
俺の資産が4百万ギル(4億円)を超えたところで、自分の家を持つ夢が現実的となっていた。
リンが走り回れる大きな庭、みんなで入れる大きな風呂。大きな窓のある寝室。
ビクターさんに相談しようと思っていた矢先だったが……。
どうする?どうする、俺。
「少し考えさせて。リンや嫁とも相談したいし」
奴隷とも相談するのか。まったくカイトというやつは……。
アーノルドが苦笑いしている。
「金が動くことだ、無理強いはしない。ただ前向きに検討してくれると嬉しいな」
アーノルドの工場と同じ規模なら、従業員だけでも200人ほど。運送やその他派生する雇用もたくさんあるだろう。
それだけの人が故郷から遠く離れた王都まで行かなくとも職を得ることができる。
毎日腹いっぱい食べることができる。
俺が広い家をあきらめれば……。
大きな家を持つ。それは人生における一つのゴールだ。
まだ、それには早いということか?
リンのための広い庭は、狩りに連れ出せば大丈夫だろう。
リンとサナとユナと4人で一緒に入れる広い風呂は……。
くぅぅぅ!
しばしお預けか?マイドリーム!




