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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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母と過ごす夜

まるで6歳の子供に戻ったかのように一生懸命母さんに話し続ける俺を、母さんも周りのみんなも温かく見守ってくれていた。


ハッと我に買った瞬間、なんだか恥ずかしい。

リンとサナユナの前で俺としたことが……。


「ちょうど母さんに会いに、レーヴェンス領へ行こうとしてたところなんだ。レーヴェンス領ってどんなところ?」

気恥ずかしさをごまかすように聞いてみる。


「そうね、私はレーヴェンス領しか知らないから。今回初めて王都に来て、あまりの大きさにびっくりしているのよ。レーヴェンス領の領都セルゲッカでも私には大都市だと思っていたんだもの」

母さんの言葉に、サナとユナも首をぶんぶん振って同意している。


「分かります!私たちもフィリオーネ領の領都パララクルがものすごく都会だと思ってましたから!」

「しばらくこちらにいられるんですか?私たち、王都を案内させていただきます」


そんなに長くはいられないわ。でもカイトの楽しそうな顔が見られてもう十分なの。

そう言って笑う母さんは本当に幸せそうだった。


「カイト、一度セルゲッカに遊びにいらっしゃい。妹たちも会いたがっているわ。サナさんとユナさんも、リンちゃんも」


サナとユナは顔を見合わせ、眉を下げた。

「リン様と旦那様だけなら、リン様の背に乗って旦那様はセルゲッカまで1日で行くことができるんだそうです。でも私たちと一緒だと馬車で一週間かかってしまうので……」


困り顔のサナを母さんは明るく笑い飛ばす。

「あら、私もここまで馬車で一週間かけてきたのよ。おんなじね!」


「そうですよね。リン様と旦那様が特別すぎるんですよね」

いや、俺はリンの背中に乗ってるだけだから。特別なのはリンだけだぞ。


「もしよかったら、私が帰るとき一緒にセルゲッカに行きましょうよ。旅は道連れがいたほうが楽しいわ」

え!?

思わぬ母の誘いにサナとユナの顔が期待に輝き、俺の顔色を窺うようにこっちを見た。


確かにセルゲッカに行こうとはしていたよ。

でも、それはリンの背に乗ってであり、馬車に揺られて一週間はちょっと……。


「サナとユナは馬車の旅も問題ないけど、リンがね……」

ちなみに俺もちょっと、いやかなりパスなんだけどな。


「どうしたのー?」

ここまでの会話を全然聞いていなかったリンが顔をあげた。


「母さんの住んでいるセルゲッカにみんなで行こうって話をしてたんだ。でもリンは一週間馬車に乗るのはいやだろ?」


「えー、いっしゅうかん……」

リンがめったに見たことのない渋い顔になる。

「ばしゃは、ちょっとだけでいい」

だよなー。


「じゃあ、サナとユナだけで母さんに同行してくれるかな?」

俺の提案に、母さんだけでなくサナとユナも胡乱な目で俺を見る。

「カイトはどうするの?」

「「旦那様はどうなさるんですか?」」


「リンと狩りに行って、セルゲッカに到着する頃に合流しよう、か、なー、なんて……」

最後は声が小さくなってしまった。

女性陣3人ににらまれるとこぇぇ。


「ようやく会えたのに、お母様とご一緒なさらなくていいんですか?」

ユナが珍しく厳しめだ。


「ありがとう、ユナさん。でもいいのよ。感動の再会なんて所詮は最初の一瞬だけなのよね」

ユナを味方につけ、大げさにため息をつく母さん。

いやいや、もうたっぷり1時間以上、俺はべたべたしたよな!


「かりにいくー!」

ほらな、ほらな!

リンもそう言ってることだし。


「あ、アーノルドのとこ、製紙工場の機械の試作品ができてるかもしれないから、様子を見に……。それにそろそろキマイラのブーツが仕上がっているころだし……」


「お母様、旦那様はレーヴェンス領の反対方向に行くつもりですよ」

サナも母さんの味方か!


「ほ、ほら。少し足を延ばせばフィリオーネ領だろ?ヨヒトのところ、赤ちゃんが無事生まれたか見てくることもできるし」

とっさの言い訳だったが、これはこれでいいアイデアだと思えてきた。


ヨヒトの子供と聞いてサナとユナの心も動いたようだ。

「それは、とてもありがたいのですが……」

「義姉さん、臨月でしたもんね。そろそろですよね……」


まったく、しょうがない子ね。

母さんは深ーく息を吐いた後、俺をまっすぐ見てにやっと笑った。


「ホントはカイトがうちに来てくれるってだけで、十分嬉しいのよ。それに加えてこんなにかわいい義娘二人と旅ができるなんて。ここに来るときは一人で、本当にカイトに会えるのか不安で、旅を楽しむ余裕もなかったもの」


サナとユナもつられて笑う。

「旦那様とリン様には馬車での一週間の旅は無理ですよね~」

「ですね~」


なんだよー、もう。冷や汗かいたじゃねぇか。

なんだかんだ言って、みーんなリンに甘いんだよな。まあ、俺もだけど。


「また、ザイオンを留守にされるんですね。レンタルショップの件、ご相談したかったんですが」

ビクターさんが残念そうだ。レンタルショップ!ホントに開くんだ。


「レンタルショップはどうぞ好きに始めちゃってください」

いやいや、カイトさんの発案を勝手にビジネスにはできませんよ、とビクターさんに言われるが、俺の発案じゃないし。


「お任せいただけるのでしたら、陛下にも話を通して私の方で進めさせていただきますよ。今回も共同出資者とさせていただきますね」

おお、またビジネスが広がるのかー。


俺は冒険者なのかビジネスマンなのか分かんなくなってきてるな。

ま、経営には全くタッチしていないんだが。



夕食を終え、俺たちはポラリスに戻ってきた。

母さんのために用意された部屋に、今夜はサナとユナが寝るという。

「旦那様は、お母様とご一緒なさってください」


……、それはそれでなんだか微妙なんだが。


「リン様、今日は私たちと一緒にお風呂に入りましょうか」

ちょっと待てー!!

俺だってまだサナユナと一緒にお風呂に入ってないぞ!

「でもこの宿のお風呂はそんなに大勢で入れる広さじゃありませんわ」


よし!俺にもう一つ夢ができた。リンが走り回れるほど広い庭に加え、サナとユナとリンの4人で一緒に入れるほど大きな風呂のある家。いつか絶対手に入れる!


別の部屋で寝るサナとユナを見送ると、取り残された俺と母さんは何を話していいか分からなくなった。

結局俺のところに残ったリンは、すでに熟睡モードだ。


「サナさんもユナさんも、いい子たちね」

うんうん、自慢の嫁だよ。


「でも、俺たちは普通に結ばれたわけじゃないから。ほとんど成り行きと勢いだったし。5年後の年季明けに彼女たちが俺のそばにいてくれるかどうか……」

思わず情けない言葉が漏れる。


「あら、普通って何かしら?好き同士結ばれた結婚だって、よぼよぼに歳を取るまで一緒に過ごせるとは限らないわ。大事なのはカイトが彼女たちのことを大切にすること。そうすればきっと5年後には幸せな結果になっているわよ」


そうだよな。

母さんは俺の父さんと若くして死別している。

今、この瞬間、好きな人と一緒にいられる時間を大事にしよう。


「ねえ、カイト。お願いがあるの」

「何?」


「いい歳をした息子に頼むことじゃないけど、一度だけ抱きしめさせてくれない?」

一度と言わず何度でも。


少しだけ手を広げると、母さんは俺の胸に顔をうずめ、背中に手をまわして、ぎゅううっと俺を抱きしめた。


「ごめんなさい。守ってあげられなくてごめんなさい。そばにいてあげられなくてごめんなさい」

ここまで我慢していた母さんが、堰を切ったように泣き始めた。


「怖かった?寂しかった?つらかった?おなかすかせてなかった?痛い思いをしていなかった?」

6歳の息子に話しかけるような言葉で、泣きながら母さんは俺を抱きしめ続けた。


わんわんとなく彼女を今度は俺が抱きしめる番だ。

「母さん、母さん。大丈夫だよ。俺はここにいるよ。俺は元気だよ」


あいつらとの過去は忘れると決めた。

だから母さんも、今の幸せだけを見てよ。


それから母さんは、からっぽになるまで泣き続けた。

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