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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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再会

そこにいたのは俺と同じダークブラウンの瞳の女性。

その瞳が俺をとらえ、大きく見開いた。


「カイト……?カイトなの……?」


リンに解放してもらった記憶。

その記憶の向こうにいた彼女より、目の前の女性は少しだけ年齢を重ねている。


だけど俺は。

彼女の記憶にある6歳の俺と今の俺では、全く違う姿のはずだ。


「俺のこと、分かるの?」


俺の言葉を聞き、その人はふわっと笑った。

それはもう、世界中の花が開くんじゃないかという温かさで。


「分かるに決まってるじゃない。カイトがしわしわのおじいちゃんになっても分かるわよ」


彼女はゆっくりと俺に近づき、見上げるようにして俺の頭にその手を置いた。

「大きくなったわね」


もう、何も言えなかった。

母さんに会ったら何を言おうか。

会いに行くと決めてからずっと考えていたはずなのに、何の言葉も出てこない。


会いたかった。

この人のそばで生きていたかった。

あんな奴らに引き裂かれたくなかった。


でも、どの言葉も俺の口から出てこない。

俺より頭一つ分背の低いその人の肩に頭を乗せ、俺はこぼれそうになる涙をごまかす。

「じゃあ母さんは、俺がしわしわのおじいちゃんになるまで長生きしてね」


見上げるほど大きくなった息子の頭を、その人は両手でそっと抱きしめてくれた。

「カイト、生きててくれてありがとう」


無理だ。涙、止められない。

止めたいのに、次から次へと溢れてくる。


12年間の虐待の日々。

この優しい人の記憶さえ奪われた絶望の毎日。


肩の上で声を押し殺して泣き続ける俺を、母さんは黙って抱き続けてくれた。

母さんの服が俺の涙でびしょびしょだ。


それよりなにより、泣きたいのはきっと母さんの方だろう。

それでも笑って俺を抱きしめている。母ってつえぇな。


どれほどそうしていただろう。

俺は顔をあげるタイミングが完全に分からなくなっていた。


「母さん……」

「どうしたの?」

「顔、あげらんねぇ」


もう、しょうがないわねぇ。そう言って母さんがハンカチを渡してくれた。

そのハンカチで涙を拭き、チーン!と勢いよく鼻をかむ。

「……、ごめん、後で洗って返す」


あはは、という笑い声で顔をあげると、そこにはリンやサナユナ、エイミィに加え、モルガン、アイノラ、ヒューゴとスーザンまで揃っていた。


「やれやれ、間に合ってよかったよ」

「すれ違うかと思って焦ったじゃない」

ヒューゴとスーザンも、母さんが来ることを知ってたようだ。


俺はじろりと彼らを見る。

「みんな知ってたの?母さんがくるって」


モルガンがきまり悪そうに頭をかいた。

「まあな、ごめん。カイトとすれ違わないように、ザイオンにとどめておいてくれって頼まれてたんだ」


「ビルケッシュ領主のアーノルド様がお手配くださったのよ。ここへの旅費も、留守にする間の家族のお世話も、全部」

母さんの言葉に俺は天を仰いだ。

「アーノルドってば、もう、余計なことを!俺が会いに行くつもりだったのに!」


半分は照れ隠しだったが、その言葉を聞いて母さんが俺の頭をぺちこんと叩いた。

「領主様になんてこと言うの!カイトのことをこんなに気にかけてくださっているのに。しかも領主様のことをアーノルドって!」


ああ、感動の再会でも母は母だ。

「だってぇ、アーノルドがそう呼べって、半ば強制的にさぁ」

思わず子供じみた言い方になってしまったよ。


「カイトぉ、カイトママぁ、おなかすいたー」

おお!そうだった!夕飯を食べに行くところだった。


「リン、よくわかったな。この人が俺の母さんだよ。母さん、この子がリン。俺の家族で俺の恩人。あれ?人じゃないから恩人とは違う?」

俺の言葉にけらけらと笑う母さん。


「カイトママ。リンだよ!」

「初めまして、リンちゃん。カイトの母です。カイトがお世話になっています」

うん?リンには世話してもらってないぞ?助けてはもらったけど。


「それとこっちがサナとユナ。訳あって今、俺の嫁」

「サナさんとユナさんね。カイトがお世話になります」

うん、サナとユナにはばっちり世話してもらってる。


「サナです。私たちの方こそ、旦那様にお世話になりっぱなしで」

「初めまして、ユナです。お会いできてうれしいです」


「それにモルガンとアイノラ、エイミィ。ザイオンの家族みたいなもん。それとヒューゴとスーザン。冒険者の先輩?」


カイトの母です、ミアと申します。

母さんは一人一人に丁寧に挨拶をし、俺に笑顔で向き直った。

「カイトは今、幸せなのね」


『今』

母さんはそう言った。

俺の過去をどこまで聞いているのだろう。


出来ればあまり知られたくはない。彼女はもう十分に苦しんだのだから。

これ以上俺のことでつらい思いをさせたくないんだよな。


「さあさ、積もる話もあるだろうけど、晩ご飯にしようじゃないか。ミアさん、ようこそザイオンへ」

アイノラに背中を押され、俺たちは月のうさぎへと向かう。


「まさか今日も貸し切りとか言わないよね?」

「貸し切りじゃぁないけど、いつものあの人たちは来そうだねぇ」

マジか。ビクターさんはまだしも、この国のトップオブトップは勘弁してくれよ。


「デニス、こんばんわ!」

俺を先頭にぞろぞろと月にうさぎに入っていくと「おお、今日はみんなお揃いで」と出迎えてくれた。

「紹介するよ、俺の母さん」

「初めまして、ミアです。カイトがお世話になっています」


驚いた表情をしたデニスは、母さんに挨拶を返した後「よかったな、カイト」と言ってくれた。

そう言えば俺の話はどこまで伝わっているのだろう。

デニス夫妻も、モルガン一家もヒューゴ夫妻も。


まあ、アーノルドと国王陛下とビクターさんの情報網だ。

ほぼ全部知ってたんだろうな。


「デニス!今日は俺のおごりだから。つまみや料理をじゃんじゃん作ってみんなのテーブルに出してくれる?」

母親の前だからって見栄張んなよー、とヒューゴ達にからかわれるが、見栄もなにも、このくらいでは俺の財布はびくともしないぜ!


コリンバースや王都で買った、とっておきのワインも提供し、俺は十数年ぶりに再会した母と、気の置けない仲間たちとの時間を楽しんだ。

途中、ビクターさんが遅れて合流し、「ミアさんに会えてよかったですね」と俺以上に泣いていたのにはちょっと引いたが。


ちなみに陛下は、ものすごく来たがっていたそうだが、外国からの来賓があり泣く泣くあきらめたそうだ。


「陛下って……?」

母さんが首をかしげているが、知らなくていいから!

母さんの滞在中は何とか遭遇せずにかわしたいものだ。


酒が回ってくるころには、俺はもう歯止めが利かなくなっていた。

学校から帰ってきた子供が母親にまとわりついて離れないように、俺は母さんの隣を誰にも譲らず、ひたすらしゃべり続けた。


リンとの出会い。

メイダロンでお世話になったたくさんの人たちとそのやさしさ。

アルバートやその家族。キマイラやワイバーンのこと。

サナとユナ。ザイオンの仲間たち。


俺の話にはリンと出会う前の12年間が欠落している。

母さんもそれに気づいているのだろうが、それには触れずにただただ俺の話を聞いてくれた。


「母さんは?母さんはどうしていたの?」

「私?私はね、カイトに会いたくて、会いたくて。それは今日まで叶わなかったけど、いいの、今日その願いが叶ったから。それに、今の夫と娘たちと、幸せに過ごしているわ」


母さんが今の家族の話をするとき、俺はもっと傷つくと思っていた。

だけど全然違ったよ。

何だろう、この感覚。


母さんにとって今の家族はとても大切で、でもそれと同じくらい俺のことも大好きで。

俺にとっても母さんはすっごく大事で、だけどリンのことも同じほど大切で、サナとユナも負けないくらいかわいいんだよな。


なーんだ、簡単なことだったんだ。

家族への愛情に一番も二番もなかったんだよ。


みんな大事で、みんな大好き。それでいい。

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