ギラギラ
「この男は我が家臣が倒したワイバーンを、その収納魔法を使って奪い取り、なおかつ自分が倒したなどとほざいておる大罪人じゃ。騎士団ともあろうものが罪人を放置するのか!こやつを捕らえよ!」
ギラギラ貴族が大げさに手を広げ、声を張り上げる
手続きに来ていた一般の人たちは、何事かとこちらを見ている。
受付の奥からも騎士団らしき人達がわらわらと出てきた。
「俺の魔力をもって、この弓でしかと射止めたのだ。間違いない」
弓を掲げてそう宣言するのは無駄にガタイのいいだけの男。
いやぁ。この主君にしてこの家臣あり、だな。
「そんな……!ワイバーンに攫われかけた私を助けてくれたのはリン様と旦那様です」
「この人たちはあの場にいませんでした」
サナとユナが青ざめて震えている。
俺が捕まると心配しているのだろうか?
大丈夫!俺はそんなに弱くない!はず。
「大丈夫だよ」俺はそっと二人の背中をたたいた。
「平民の小娘どもが何を言うか。こっちには証人もおるのだぞ」
ギラギラ貴族が指し示したのは、おどおどとうつむく貧しい身なりの男性二人。
「は、はい。私どもは確かに見ました……」
最後の声は消え入るようだ。
あー、これ脅して従わせてるパターンか。サイテーだな。
相手にするのも馬鹿らしいギラギラ貴族だが、罪人呼ばわりされておとなしくしているわけにもいかない。しかもサナとユナへの失礼な発言。許さじ。
と、こういう騒ぎには興味を示さないと思われたリンが、ポケットから身を乗り出し、弓を持った男をちらっとみた。
「このおじさん、よわいよー」
ぶふっっ。
騎士団側から笑いがこぼれる。
サナユナの表情も和らいだ。
リン、ナイス!
「だ、誰だ!今の無礼な物言いをしたものは!」
弓の男が顔を真っ赤にして周りを見渡す。
俺の胸ポケットにいるんだけど、気付いていないなー。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
受付の男性は笑いをかみ殺して、ギラギラ貴族に冷静に尋ねる。
「我はクナル・バントナー男爵。ゲイラプス領のバントナー地区を管理監督するものだ」
クナルと名乗ったギラギラ貴族はこれでもかというほどふんぞり返っている。
へぇぇ、男爵様ですか。
この国では45の領地を伯爵以上の領主が治めている。
逆に言えば、子爵以下は領主ではなく、いずれかの領主の下で働く、雇われ貴族だ。
それって、貴族と言えどもサラリーマンの延長だよな。
しかしそういう貴族に限ってふんぞり返るのはなんでだろうね。
「それではバントナー男爵様、ここではなんですから奥へどうぞ。カイト殿も」
俺が捕縛されると信じて疑わないこの男爵は、俺と一緒にと言われて不愉快そうだ。
「なぜ私が盗人と一緒に!」
「まあ、まずはワイバーンを出していただかなければ、調べもできませんから」
「それもそうだな。我らから奪った魔獣を出してもらうではないか」
ギラギラ男爵はどこから湧き出るのか不思議なほど自信満々に、奥の部屋へと歩を進める。
俺もサナユナを連れてその後に続いた。
通されたのは、特別な素材の買い取りもできる、倉庫のように広い部屋。
「どうしましたか?」
俺たちが入室するのと同時に、物腰の柔らかな男性が入ってきた。
「副団長!」
受付の男が副団長と呼ばれた男に説明を始める。副団長様なのね、この人。
「そういうことでしたか。それではカイト殿、まずはここにワイバーンを出していただけますか?」
副団長は丁寧な物言いだが、つかみどころのなさそうな人。
信用していいのか分からない。
まあしかし、王宮騎士団を疑ってかかってもこの国では暮らしづらくなるだけだ。
「じゃあ、ここに出しますね」
一番大きなテーブルの上に、全長5mはあるワイバーンを取り出した。
その大きさに騎士団の人たちが息を飲むのがわかる。
「でっけぇ……」
弓の男がつぶやいた。おい、初めて見た感、隠しきれてないぞ!
「大きいですね。この魔獣をこちらの弓の方が射止められたということですね?」
「そう言っているであろう。副団長と言えど、所詮は平民。頭が悪いのう」
腰の低い副団長に、お約束の悪役のような言葉を吐くギラギラ。
さっきコイツ名乗っていたけど、もうギラギラでいいや。
「しかしこのワイバーンは背中をバッサリと切られていますが」
副団長の言葉に、ギラギラがきぃっと眉を吊り上げた。
「弓で射止めた後、とどめを刺すために切ったのじゃ!」
副団長はほんの少しだけ眉を動かしたものの、表情を変えずに穏やかに笑った。
「そうですか。わざわざご足労いただきありがとうございます。詳しい話をお聞かせ願えますでしょうか。どうぞこちらへ」
ふん!早くしろ!
副団長に先導され、ぞろぞろと出ていくギラギラとその臣下たち。
部屋を出ていく瞬間、副団長が俺の方をちらっとみて、唇の端をあげた。
うん?
これはどっちの意味だ?
俺の立場はまずいのか、副団長に任せていいのか?
副団長とギラギラ一団を見送った受付の若い男性は、はぁぁっとため息をついた。
「アホですねぇ、あいつら。応接室にでも案内されると思っているんでしょうか。行先は取調室ですよー」
あ、やっぱり?
「一瞬見ただけで分かるレベルですよ。弓の跡もありませんし、この傷は刀傷ではありませんからね。この傷をつけたのはこちらの神獣さまですよね?」
さすがひげのおじいちゃんのおひざ元。騎士団もしっかりした組織のようだ。
だけど貴族ってそれなりに特権が与えられているはずだ。
「あのギラギラ男爵、腐っても貴族ですけど、大丈夫なんですか?」
ギラギラ男爵って!
騎士団の男性も、サナユナも笑った。お、ウケた。
「問題ありません。副団長は子爵ですから」
えー、マジか。
貴族なのに平民と馬鹿にされて、言い返さずに笑ってさらっと流すんだな。
笑顔で対応する副団長の反撃が怖いぜ。
そもそも今回の件は、ヒューゴ達から既に報告が入っており、必要ならローガンス商会も証言してくれるそうだ。
「お粗末なことをやらかしてくれますよね。まあ、金に困ったんでしょう。男爵レベルではそれほど贅沢もできないはずですから」
えん罪で俺が逮捕されるというようなことはなさそうだ。ホッとしたよ。
まあ、あまり心配はしていなかったが。
「証人と言って連れてこられていた二人。あの人たちには配慮してあげてほしいんですけど。脅されて連れてこられた感じですよね」
あの二人のことが気になっていたのだ。騎士団の男性にそう伝える。
「カイト殿は優しいですね。しかしまだお若いようだ」
いやいや、あなたも十分若いですよね?
「あの二人はおびえたふりしていますけど、目は座っていましたよ。金欲しさに自分からあの男爵にすり寄っていったように私には見えますね」
そうなの!?それは分からなかったなー。俺もまだまだだな。
まあ、そのあたりもきっちり副団長が取り調べてくれますよと笑う男性。
副団長に全幅の信頼を置いていることがよくわかる。
うん、やっぱりいい組織だ。
「さあ、邪魔が入ってしまいましたが、報奨金と買い取り金は用意してあります。手短に終わらせるよう上から指示が出ていますので、手続きを済ませてしまいましょう」
上って、この国のトップオブトップだろうか?
報奨金はキマイラと同じ100万ギル、素材は17万ギルと提示された。
その金額を聞いて、息を飲み大きく目を開くサナとユナ。
「すごいですね……」
「旦那様ってどれだけ……」
だろ?二人には金の心配はさせないよ。
ポケットのリンは心なしか得意そうだ。
うんうん、リンの稼いだ金だぞ!
手早く清算を済ませて、騎士団本部を出た俺たち。
建物の外に出た途端、サナとユナが立ち止まり、ふぅぅぅっと大きく息を吐いた。
「旦那様が捕まってしまうのかと思いました。よかった……」
「あの人たち、何にもしていないのに、手柄を横取りしようとするなんて!重い罪になればいいのに!」
心配させちゃったかな。ごめんね。
さ、気分を変えて買い物に行こう!
リンにはおいしいお昼ご飯、だね。




