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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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盗人?

掃き出しの大きな窓から、柔らかい光が差し込む。

カイト史上、最高の夜を過ごした俺はけだるい朝を迎えた。


重いまぶたをゆっくりとこじ開ければ、隣にはかわいいリンと、夕べ仲良くなった二人の嫁が……。


いない。

あれ?いない?


夕べのあの幸せな時間は幻だったのだろうか?

嫁の幻と共に、リンまでいなくなっちゃったのか?


慌てて起き上がると、広いベッドには俺一人。

ぽつん……。


「リン様!そんなに跳ね回ったらせっかく洗濯した洋服が汚れてしまいます」

「もうリン様!飛びついたらだめですよ」


庭からサナとユナの声が聞こえてきた。

はぁぁぁ、よかった。

すでに起きて、洗濯をしていたのか。旅の洗濯物がたまっていたもんな。

いつもはお寝坊さんのリンまでもう庭に出ている。


「おはよう、リン、サナ、ユナ!」

ベッドから降り、庭へ声をかける。


「カイト、おはよ!」

「「おはようございます、旦那様」」

俺の幸せは幻じゃなかった。

かわいいリン!可愛いサナユナ!


「早起きだな。洗濯してくれてたのか」

「はい!洗剤使わせていただきました」

「すごく泡立って、汚れがよく落ちるんですね!」


「朝からありがと!」

そういうと、サナとユナはキョトンとした。

「奴隷にお礼なんて言う必要ないんですよ?」


「ありがとって言っちゃいけないルールもないだろ?奴隷だけど家族なんだから。それに、ありがとうのある毎日の方が楽しいよ」


「旦那様って不思議な方ですね」

サナが笑う。

「私たちこそこんなに良くしてもらって、ありがとうございますだらけです」

ユナも笑う。


「それより二人とも体平気?ごめん、夕べ、俺、歯止めがきかなくて……」

俺の言葉に二人は顔を赤くしてうつむいた。

「だ、だいじょうぶです」

「なんとか、その……、やさしくしていただいたので」

うぅぅ、何度でも言おう、やっぱりかわいい!


「あさごはん、いこーよー」

リンは俺たちの様子に少し不思議そうな顔をしつつ、催促してくる。


「そうだな、リン。よし、月のうさぎに行くか!」

「ごっはん~」

リンはノリノリだが、その横でなんだかユナが元気がないようだ。

「朝食も月のうさぎですか?」


あれ?いやだった?

「ここにいる時は基本的に朝晩月のうさぎだけど、他の店がよければ連れていくよ」


「そうではなくて……」

ん?どうした?


「朝食の支度もしなくていいのだとしたら私たちは何をすればいいのでしょう?」

ユナの気持ちを汲み取り、サナが説明してくれた。

「そうなんです。お洗濯が終わってしまったらもうやるべきことがなくなってしまいました」

ユナが肩を落としている。


君たち二人の仕事は毎晩俺を……、うぉっほぉぉぉん!!


「今日はワイバーンの買い取りに行くよ。それから王都での買い物だ。買い物では二人のこと頼りにしてるんだけど」

「それはもちろん……」「私たちでお役に立てれば……」


「やたいもいく?」

朝食の前に昼食の話ですかい?リンさんや。


「お昼は屋台でもいいし、この前行ったカフェもいいよな。チョコソースがかかったデザートをサナとユナにも食べさせたいな」

やたい……、チョコ……、リンが難しそうな顔をしている。

リンが悩むのって、メシ絡みだけだな。



1時間後。

朝食を前にして、サナとユナが固まっている。

あー、昨日はバルメニューだったから、ガチな和食は初めてか。


ご飯、あさりのみそ汁、漬物、鮭の塩焼き、冷ややっこ、いんげんの胡麻和え。

そして何より困惑しているのが箸!


フォークもらおうか?

だけど今後一緒に暮らすのなら、箸の使い方を覚えてほしいな。


「だ、旦那様。どうして2本の棒でそのようにはさめるのでしょう?」

「豆腐というのですか?これは。なぜこんなプルプルのものもつまめるのですか?」


俺に使い方を教えてもらい、冷ややっこをつまもうとしてすり抜けている。

「まさか、朝食が修行の場だとは……」

いや、修行じゃないからね?


初めてのお客さんはだいたい同じ反応なのか、ミランダは笑いながらフォークとスプーンを二人の席にそっと置いた。

そのフォークには手を出さず、何とか箸で食事をしようとがんばる二人がかわいくておかしい。


二人が奮闘している間、俺はリンのみそ汁からあさりの貝殻を取りはずしてやる。

「リン様のお世話も私たちのお仕事だと思っておりましたのに」

「自分の食事で精いっぱいだなんて。無念ですね、ねえさん!」


奮闘むなしく、最後はフォークやスプーンの力を借り、ようやく食事を終えたサナユナ。

「慣れない食材だったけど、口に合った?」

心配になって聞いてみたけれど……。


「申し訳ありません。味わう余裕はありませんでした」

「多分、おいしかったのだと思いますが、箸という難敵の前で……」

あはは。とりあえず苦手ではなかったようで一安心。



朝食を終えると、サナユナに王都を見せながら王宮を目指す。

「上から見た時も広いなぁって思いましたけど、本当に広いです!」

ユナが楽しそうにきょろきょろとしている。


「フィリオーネの領都パララクルも大きな街ですけど、比較にならない大きさですね」

サナもワクワクを抑えられないようだ。


「二人の家はパララクルの近くだったの?」

北の痩せた大地とは言え、パララクルは領都だ。

領都に近い農地は比較的恵まれているのではないだろうか?


近いと言えるのでしょうか?サナとユナが顔を見合わせる。

「私たちの家からパララクルまでは歩いて2時間かかります。ただ、パララクルには働き口が少なくて……」


そんな中でもサナとユナは見習いとして雇ってくれる商家を見つけ、13歳から真冬以外はずっと家から毎日2時間かけて働きに行っていたのだとか。

「一日働いて少しのパンをいただける程度でしたが」

なんじゃそりゃ。最低賃金はどうなってる。

軽労働奴隷ですら、日割り計算したら一日10ギル(千円)超えるぞ。


そこは「見習い」という言葉のマジックらしい。

見習いとして商家からいろいろと教わる代わりに、下働きの仕事もする。あくまで教わる立場ということだそうだ。


「それでも私たちは恵まれていたほうです。読み書きや計算もちゃんと教えていただき、料理なども教わりました」

見習いと言いつつ、ただ働き同然に働かせる奴らも多そうだな。


しかしサナとユナも毎日片道2時間歩いていたのか。

俺と同じだな!


そんなことをしゃべりながら歩く俺たちの前に、小高い山が現れた。

頂上にどんっと構えるのはもちろん王宮。

「うわぁ、すごいですね!」

「今からあそこへ行くんですね!」


そうなのだ。俺たちは今からこの山を攻めなければならない。

ワイバーンの買い取りのために。

行くぞ!


「旦那様はリン様に乗ってください」

「私たちは歩きますから」

サナとユナにそう言われるが、そんなわけにもいかないだろう。

小さなリンをポケットに入れて俺はサナユナと一緒に坂道を登り始めた。


日々片道2時間歩き、フィリオーネ領からも歩いて旅をしてきたサナユナ。

対して、この2か月間リンの背中で楽して移動していた俺。

その体力の差は歴然。


王宮に着くころには俺は息が上がり、サナユナは平然としていた。

ぬぉぉぉ、俺も体力をつけねば!


世界遺産レベルの王宮は、手前が行政機関の建物が並ぶ一般エリア、その奥が選ばれし者だけが入れる宮殿エリアとなっていた。


俺達が行くのはもちろん一般エリア。

このエリアの警備は比較的ゆるく、武器を持っていなければほぼスルーパスで通ることができるようだ。

入場するのにもっといろいろ詰問されるのかと思ったよ。


教えてもらってやってきた騎士団本部は石造りで3階建ての立派な建物だった。


一般人のために開かれたエントランスに、ギラギラと装飾を付けた貴族風の男と彼を取り巻く数人の男たちがいる。あいつのセンス、終わってるな。

一瞬その貴族と目が合った気がした。気のせいか?


「すみません、ワイバーンの討伐報告と買い取りに来ました」

受付にいる若い男性に声をかける。


「カイト殿ですね。報告を受けております。こちらへどうぞ」

おお、さすがはひげのおじいちゃん、じゃなくて国王陛下。

討伐報告も買い取りも、どうやらすぐに終わりそうだ。


そう思ったその時。

「その男を捕らえよ!我らが倒したワイバーンを横からかすめた盗人だ!」


背後から突然叫んだのは、ギラギラ貴族だった。

え? 俺? 嘘だろ?

何言ってるんだ?コイツ。


やっぱりいるんだな、こういうめんどくさいヤツ……。

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