ひげのおじいちゃん
「この娘たちがカイトの嫁かな?カイト、紹介してくれんかの?」
遅れてやってきた陛下が、到着早々俺をつつく。
えー!!
領主ですら会ったことがないと思われる二人に、いきなりこの国のトップを紹介するんすか?ハードル高すぎやしませんか?
「サナとユナが驚いて倒れるといけませんのでやめておきます」
バッサリと言い切る俺に、陛下がひょっひょっと笑った。
「冷たいのぉ」
その俺の袖をちょんちょんっとサナが引っ張る。
「旦那様のお友達ですか?私たちなんかでよければぜひ紹介させてくださいませ」
いや、友達になった記憶はないんだが。
「よい娘たちのようじゃな」
陛下の鋭い目が二人をじっと見つめ、俺の許可なく自己紹介を始めた。
「わしはリチャード・アルダラム三世。アルダラム国の国王じゃ」
こ、こ、こ、国王??
二人の目がこれでもかというほど大きく見開き、倒れそうになっている。
ほらな!だからやめろって言ったのに!
「気にすることはない。わしはカイトの友人じゃ、カイトもわしのことをリックと呼んでくれとるしな」
呼んでねぇぇぇぇ!!
「陛下とは一度お会いしただけですし、そのような恐れ多い名前でお呼びしたこともありませんけど?」
「そうだったかな?歳をとると物忘れが激しくての」
陛下ぁぁ!
ビクターさんが陛下に冷たく当たる理由がよーくわかる気がした。
「国王陛下……、国王……、国王ということは……、国王様?」
サナが意味不明なことをぶつぶつとつぶやく。
「ねえさん、どうしましょう。私たち、不敬罪でつかまっちゃう?」
ユナもおろおろとし始めるではないか。
「大丈夫、大丈夫だから。単なるひげのおじいちゃんだから」
そんなこと言ったって無理だろうなーとは思うが、無理を承知で二人を励ます。
その向こうでも、ぴきっと固まるやつらがいた。
「陛下……?国王陛下……?」
「どういうこと?俺らここにいていいの?」
ビクターさんから聞いていなかったのか、クリストフたち4人も凍り付いている。
「へいかぁ、みんなが緊張してしまうじゃないですか」
じろりと陛下をにらむと、申し訳なさそうに肩をすぼめる。
「すまんの。でもわしも混ぜてほしかったんじゃ。仲間に入れてもらえんか?」
もぉぉ、そんな顔されたらこっちが罪悪感をもつじゃないっすか!
「はぁぁぁ。せっかくみんなが集まってくれたんです。陛下も一緒に楽しく飲みましょう」
ため息をつきながらそう言うと、分かりやすく顔を輝かせる陛下。
「よいのかの?それじゃぁ皆も一緒に楽しもうぞ。カイトもわしのことはリックと」
ええい、しつこい!
皆に飲み物が配られ、乾杯をしてパーティーは始まった。
乾杯の音頭はビクターさん。陛下に忖度しないところがさすがだ。
サナとユナはまだお酒を飲んだことがないらしいから、今日のところはジュースで乾杯。
今度一緒に飲んでみようか。ユナにはまだ早いかな。
「今日の料理は、今後展開するバルレストランに出す料理の試作品も兼ねております。料理長候補となる王宮料理人とデニスとで試作してもらいました。一口サイズで、好きな料理を好きなだけ選べるスタイルです」
ビクターさんが説明をしてくれる。
「この後温かい料理も出されますので、おなかはあけておいてくださいね」
「こんな小さいの、いくら食っても足りねぇって思ったけど、色々出てくるんだ!楽しいね!」
「陛下、このオムレツ、うまいっすよ」
俺とビクターさんが陛下をぞんざいに扱ったことで肩の力が抜けたのか、ヨークとシモンは気さくに陛下に話しかけている。心臓つぇぇな。
国王なんて雲の上の存在すぎて、実感がわかず、むしろ開き直るのかもしれない。
「そうかの。ではわしも一つ」
気軽に話しかけられて、陛下もまんざらでもなさそうだ。
常日頃かしこまられてばかりだと、こういう場は新鮮なのかもしれない。
「ボクもオムレツたべるー」
「リンさんには私が……」
「おおリン、待ってろ。取ってやるからな」
今日のところはリンの世話役をヨークやシモンに奪われるビクターさん。
ちょっと残念そう。
「クリストフたちはビクターさんに呼ばれてきたの?」
「いや、次は西の方に行ってみようと思って。西に行く前にザイオンに立ち寄ったら、モルガンさんに、今日参加できるかって声かけられたんだ。カイトの顔を見たら出発するつもりだよ」
一口サイズのキッシュをほおばりながらクリストフが答える。
「ザイオンに来てよかったよ。こんなサプライズがあったなんてな」
ベレンもワインを片手に上機嫌だ。
「まあ、最高のサプライズはカイトの嫁さんより陛下だけどな!」
だろうねぇ。
サナとユナはドレスを汚すのが怖いのか、一口サイズのサンドイッチを恐る恐る食べている。気持ちはわかるぞ!俺もソースのかかった料理は避けているからな!
「サナとユナと申したか」
陛下が二人に話しかけた。
「「はい!」」緊張して背筋を伸ばすサナとユナ。
「そのイヤリングと髪飾り、よく似合っておるな。急いで調達したものじゃが、ドレスともよく調和しておる」
さすが我が王妃じゃ、という陛下のつぶやきに、二人が再び固まる。
「このイヤリングと髪飾りは王妃様が……?」
「そうじゃ。わしはもっと大きな宝石が付いたものがよいと申したのじゃがの。そんなのをもらったら怖くて身に着けられないでしょう!と王妃に怒られたのじゃ」
王妃様、ナイスアドバイス!
まだお会いしたことはありませんが、好感度爆上がりです!
「陛下、ということは彼女たちの飾りについている石は本物ということですか?」
俺が不安に思っていたことを聞いてみる。
「当然じゃ。偽物など贈るわけがなかろう。まあ小さい宝石じゃ、大して高くはない」
何を言う。小さくても宝石。やばい、やばい。
「サナ、ユナ。飾りに傷をつけることはないと思うけど、失くさないようにしてすぐにお返ししような!」
「もちろんです!」
「何なら今すぐお返ししたいくらいです……」
おい、ユナ。本音が駄々洩れだぞ。
「返す必要などない。それはカイトとその家族に贈ったものじゃ」
ちょっと待て。
「ビクターさん、もしかしてこのスーツとドレスも?」
「もちろんです。私からのプレゼントです。アクアスネークの皮から今後得られる利益を考えたらお安いものです」
いやいやいやいや。
「スーツもドレスもアクセサリーも、俺ら庶民は次に使う機会もないんで、レンタルで十分ですから!」
俺の言葉に陛下とビクターさんが揃って首を傾げた。
「レンタル、とな?」「レンタル、とは?」
あれ?この国にはレンタルショップってないの?
「庶民でも結婚式や特別なイベントなど、人生で何度かはドレスを着る機会もあるでしょう。たった1回のために買うのはもったいないので、1日だけ貸し出すお店です」
なんと、それは画期的ですな!
ビクターさんの顔がまたまた商人の目になっている。
「貴族は一度しか着たことがないドレスも多数持っておる。いちいち仕立てるより、一日だけ借りればよいのか」
陛下も、ふむふむとひげをなでている。
「古着屋といえば貧乏人向けのイメージがありますから、レンタルショップの方がイメージが良いかもしれませんね」
ありゃ、新しいビジネス始まっちゃう?
レンタルショップを開いた暁には、このスーツとドレスとアクセサリーも、どうぞ貸し出してくださいな。俺ら、次に着る機会なんてしばらくないんで!




