3人と1匹
夜明けと同時にヒューゴとスーザンは出ていった。
ガタゴトという馬車の音を聞きながら、俺はベッドの上で寝がえりを打つ。
今日はヨヒトもフィリオーネ領へ帰る。
サナとユナ、俺とリン。
3人と1匹の生活が今日から始まるんだ。
サナとユナを焦らせないよう、少し遅めに起きだして彼女たちの部屋へ行く。
「おはよう」
「……」
リンは俺の腕の中でまだ寝ている。
「「おはようございます、旦那様」」
サナとユナの声が重なる。
おおっと!朝からこれはくるな。
これからはこれが毎朝……。
いい!すごくいい!
サナは夜着のままベッドボードにもたれかかっており、ユナはすでに着替え、立って俺を迎えてくれる。
「ユナ、昨日買った服は着ないの?」
ユナは実家から持って来た、古い麻の服を着ていたのだ。
ユナは戸惑ったようにうつむく。
「旦那様に買っていただいた服を勝手に着ることは……」
俺はサナのベッド脇に腰掛け、隣にユナを座らせた。
「ユナ、サナも、聞いて。俺が買い与えたものでも、二人にあげた時点でそれはユナとサナのものだよ。それをいつ着るかなんて俺の許可はいらないんだ」
それに新しい服を着たユナを見たいな。サナも見たいけどそれはもう少し後だね。
俺の言葉にユナは頬を赤らめる。
「買っていただいた服、着たいです。着てもいいですか?」
もちろん!
それに俺はリンと二人で狩りに出かけて、しばらく留守にすることもあるだろう。
俺の許可を得ないと何もできない二人では、後々困るんだ。
新しい服に着替えたユナは、白いブラウスとオレンジのスカート、キャメルの靴。
うわぁ、かわいい!
嬉しそうにくるっと一回転し、スカートがふんわりと広がる。
「ユナ、可愛い。私も早く着たいわ」
「白いブラウスなんて、汚してしまいそうで怖いです」
そう言いながらも、スカートの裾をつまんで楽しそうだ。
「洗濯はお任せ、なんだろ?」
俺の言葉に二人が笑った。
「ヨヒトも呼んで朝ごはんにしようか。二人はしばらくヨヒトとはお別れだから、ゆっくり話をするといいよ」
「ごはん!」
突然パチッと目を覚ますリン。うん、安定の食い意地だな。
ユナがヨヒトを呼びに行き、3人で朝食の支度をする。
「私、何にもお役に立てなくて……」
しょぼんとするサナだが、その間リンを抱いて頭をずっと撫でてくれていていた。
リンは目をとろんとさせて幸せそうだ。サナの魅力に憑りつかれたか?
「あの怪我が数日で治って、しかも傷跡もほとんど残らないんだ。十分じゃないか」
ホントにそうですね。貴重な薬を使っていただいて。
元気になったら、いっぱい、いっぱい働きますね!
おとなしそうで、でも鼻息が聞こえてきそうな勢いでサナがこぶしを握った。
朝食はジョージさんのホットドッグとゼットンさんのコンソメスープ。
「朝からこんなに……」
サナとユナが困惑しているが、慣れてもらうしかない。
丸パンだけなんて、リンが納得しないからな!
「旦那様の収納魔法はすごいですね。焼きたてのパンや熱々のスープがたくさん」
「本当ね、ねえさん。私たちのお仕事、あるのかな?」
これからの役割分担はおいおい一緒に考えていけばいいさ。
「ジョージさんはねぇ、まほうつかいなんだよ」
リンが得意げに3人に説明している。
意味不明なはずなのに「そうなんですね~」と答えてくれる兄妹がやさしい。
「ゼットンさんも、まほうつかい!」
いつかサナとユナをメイダロンに連れていけたらいいな。
兄妹のつかの間の団欒を終え、「妹たちをよろしくお願いします」と何度も何度も頭を下げて、ヨヒトはフィリオーネ領へと帰っていった。
「さみしい?」
ヨヒトを見送るサナとユナに声をかける。
「寂しくないって言ったら、兄がすねますからね。寂しいですって言っておきます」
サナが笑った。
ちょっと強がっているのかもしれない。それでも涙はない。
ユナはぎゅっとサナの手を握っている。無意識だろう。
「これからは楽しいとおいしいがいっぱいの毎日にしような」
覚悟の言葉を吐く俺を、サナとユナが驚いて見つめ返す。
「ずーっとおいしいよ。カイトといるとね、まいにちおいしいの」
リンの言葉に、サナとユナははじけるように笑った。
リン、サンキュ。
それから3日間。
サナは体の回復に勤め、俺はユナと必要なものを買い足しつつ、のんびり過ごした。
明日はザイオンへと旅立つ夜。
すっかり回復したサナは、ユナとおそろいのブラウスとスカートで、俺とリンと一緒に夕食に来ている。といっても宿の向かいの食堂だが。
「おしゃれして食事に来られるなんて、夢見たいです。しかもユナと一緒に」
ユナの何倍も大人びていたサナが、うきうきを隠せない。
「おしゃれって、普通の町の子が着るような服だろ?かわいいけどさ」
スーザンが去り際に俺にくぎを刺していったんだ。
愛していると好きだよを、毎日言いなさいと。
ムーリー、絶対無理~!
あっさりとギブアップした俺に「じゃあせめてかわいいとキレイは毎日言いなさい」。
スーザンからしたら多分、今のも不合格だろうな。
「けどさ」とかつけちゃダメでしょって言われそうだよ。
でも、これが限界だって。
「私の人生一番のおしゃれです。ね?ユナ」
「ねえさん、とってもきれい」
「ユナもかわいいわ」
二人ともかわいいよ……。
俺の精いっぱいの言葉は、独り言以下のささやきにしかならなかった。
楽しそうにメニューに目を通し、すぐに二人して固まる。
「すっごく高いんですけど……」
「ねえさん、私たちは宿に戻っていましょうか」
普通に15~20ギル程度の定食だぞ?
「俺と一緒に食事をするのも仕事の一環ってことで」
「そ、そうなんですか?」
「でもこれだけあったら何食分ものパンが買えます……」
サナとユナのこれまでの生活は、いかにおいしいものを食べるかではなく、どれだけおなかを満たせるか、だったのだろう。
分かりすぎるほど分かる。だけどさ。
「リンは皆で一緒に食いたいだろ?」
「うん、みんなでたべるー」
困った時のリン頼み。
「リンはハンバーグにする?」
「ハンバーグ!」
ここは有無を言わさず押し切ろう。
「サナとユナはどれにする?ポークカツもあるしラザニアも、鴨の香草焼きもあるよ」
二人は戸惑うように目を合わせた。
「旦那様のお勧めで……」
二人にはラザニアを、自分には鴨の香草焼きを注文。
「これは何でしょう?トマトソースと、ひき肉と、パスタと……」
「ふわぁぁ、おいひぃです」
熱々のラザニアを口に入れ、うっとりとするサナとユナ。
「旦那様の収納から出してもらうお食事もおいしいですが、これは初めて食べる味です」
「こんな贅沢をして、なんだか怖くなります。いいんでしょうか」
サナとユナの反応が新鮮だ。
あの家を出て初めてまともな食事をした時の気持ちを、俺はもう忘れかけてた。
二人は俺を初心に帰してくれるな。
翌日からは乗合馬車でザイオンへと帰る。
リンの背に乗れば半日ちょっとの距離(200km)も、馬車だと4日かかる。
サナとユナと一緒に、俺とリンは初めての乗合馬車に乗った。
結論から言おう。1日で飽きた。いや、正確には半日で。
俺ではなくリンが。まあ、俺も飽きたけどな。
6人が向かい合わせで乗る小さな馬車。
ガタゴトという揺れに体を任せ、うつらうつらし、目が覚めてもまだ昼前。
相変わらず馬車はガタゴトと……。
「カイトぉ、かりにいこうよぉー」
奇遇だな、リン!俺も今そう思っていたよ!
前回、ザイオンでは収納に入っている獲物の半分しか売っていない。
その後、カリオテ村での滞在中にも狩りを楽しんだから、収納には売れる素材がいっぱいだ。だから今は頑張って狩りをする必要もないのだが、いかんせんリンが飽きた。
「サナ、ユナ、今夜の宿泊地で合流しよう!」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
「旦那様、リン様、お気をつけて!」
俺たちとは異なり、サナとユナは乗合馬車の旅を楽しんでいる。
移動といえば徒歩が基本の彼女たちだ。馬車というだけで特別なのだろう。
楽しんでくれて何よりだ。
でも俺たちは、ちょっとあっちの山まで行ってくるよ!
そうして4日間。
俺とリンは狩りや採集を楽しみ、サナとユナは馬車に乗り、ようやく俺たちは王都ザイオンへと帰ってきた。




