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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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3人と1匹

夜明けと同時にヒューゴとスーザンは出ていった。

ガタゴトという馬車の音を聞きながら、俺はベッドの上で寝がえりを打つ。


今日はヨヒトもフィリオーネ領へ帰る。

サナとユナ、俺とリン。

3人と1匹の生活が今日から始まるんだ。


サナとユナを焦らせないよう、少し遅めに起きだして彼女たちの部屋へ行く。

「おはよう」

「……」

リンは俺の腕の中でまだ寝ている。


「「おはようございます、旦那様」」

サナとユナの声が重なる。

おおっと!朝からこれはくるな。

これからはこれが毎朝……。

いい!すごくいい!


サナは夜着のままベッドボードにもたれかかっており、ユナはすでに着替え、立って俺を迎えてくれる。


「ユナ、昨日買った服は着ないの?」

ユナは実家から持って来た、古い麻の服を着ていたのだ。


ユナは戸惑ったようにうつむく。

「旦那様に買っていただいた服を勝手に着ることは……」


俺はサナのベッド脇に腰掛け、隣にユナを座らせた。

「ユナ、サナも、聞いて。俺が買い与えたものでも、二人にあげた時点でそれはユナとサナのものだよ。それをいつ着るかなんて俺の許可はいらないんだ」


それに新しい服を着たユナを見たいな。サナも見たいけどそれはもう少し後だね。

俺の言葉にユナは頬を赤らめる。

「買っていただいた服、着たいです。着てもいいですか?」


もちろん!

それに俺はリンと二人で狩りに出かけて、しばらく留守にすることもあるだろう。

俺の許可を得ないと何もできない二人では、後々困るんだ。


新しい服に着替えたユナは、白いブラウスとオレンジのスカート、キャメルの靴。

うわぁ、かわいい!

嬉しそうにくるっと一回転し、スカートがふんわりと広がる。


「ユナ、可愛い。私も早く着たいわ」

「白いブラウスなんて、汚してしまいそうで怖いです」

そう言いながらも、スカートの裾をつまんで楽しそうだ。


「洗濯はお任せ、なんだろ?」

俺の言葉に二人が笑った。


「ヨヒトも呼んで朝ごはんにしようか。二人はしばらくヨヒトとはお別れだから、ゆっくり話をするといいよ」

「ごはん!」

突然パチッと目を覚ますリン。うん、安定の食い意地だな。


ユナがヨヒトを呼びに行き、3人で朝食の支度をする。

「私、何にもお役に立てなくて……」

しょぼんとするサナだが、その間リンを抱いて頭をずっと撫でてくれていていた。

リンは目をとろんとさせて幸せそうだ。サナの魅力に憑りつかれたか?


「あの怪我が数日で治って、しかも傷跡もほとんど残らないんだ。十分じゃないか」

ホントにそうですね。貴重な薬を使っていただいて。

元気になったら、いっぱい、いっぱい働きますね!

おとなしそうで、でも鼻息が聞こえてきそうな勢いでサナがこぶしを握った。


朝食はジョージさんのホットドッグとゼットンさんのコンソメスープ。

「朝からこんなに……」

サナとユナが困惑しているが、慣れてもらうしかない。

丸パンだけなんて、リンが納得しないからな!


「旦那様の収納魔法はすごいですね。焼きたてのパンや熱々のスープがたくさん」

「本当ね、ねえさん。私たちのお仕事、あるのかな?」

これからの役割分担はおいおい一緒に考えていけばいいさ。


「ジョージさんはねぇ、まほうつかいなんだよ」

リンが得意げに3人に説明している。

意味不明なはずなのに「そうなんですね~」と答えてくれる兄妹がやさしい。


「ゼットンさんも、まほうつかい!」

いつかサナとユナをメイダロンに連れていけたらいいな。


兄妹のつかの間の団欒を終え、「妹たちをよろしくお願いします」と何度も何度も頭を下げて、ヨヒトはフィリオーネ領へと帰っていった。


「さみしい?」

ヨヒトを見送るサナとユナに声をかける。

「寂しくないって言ったら、兄がすねますからね。寂しいですって言っておきます」

サナが笑った。


ちょっと強がっているのかもしれない。それでも涙はない。

ユナはぎゅっとサナの手を握っている。無意識だろう。


「これからは楽しいとおいしいがいっぱいの毎日にしような」

覚悟の言葉を吐く俺を、サナとユナが驚いて見つめ返す。


「ずーっとおいしいよ。カイトといるとね、まいにちおいしいの」

リンの言葉に、サナとユナははじけるように笑った。

リン、サンキュ。


それから3日間。

サナは体の回復に勤め、俺はユナと必要なものを買い足しつつ、のんびり過ごした。


明日はザイオンへと旅立つ夜。

すっかり回復したサナは、ユナとおそろいのブラウスとスカートで、俺とリンと一緒に夕食に来ている。といっても宿の向かいの食堂だが。


「おしゃれして食事に来られるなんて、夢見たいです。しかもユナと一緒に」

ユナの何倍も大人びていたサナが、うきうきを隠せない。

「おしゃれって、普通の町の子が着るような服だろ?かわいいけどさ」


スーザンが去り際に俺にくぎを刺していったんだ。

愛していると好きだよを、毎日言いなさいと。

ムーリー、絶対無理~!


あっさりとギブアップした俺に「じゃあせめてかわいいとキレイは毎日言いなさい」。

スーザンからしたら多分、今のも不合格だろうな。

「けどさ」とかつけちゃダメでしょって言われそうだよ。

でも、これが限界だって。


「私の人生一番のおしゃれです。ね?ユナ」

「ねえさん、とってもきれい」

「ユナもかわいいわ」


二人ともかわいいよ……。

俺の精いっぱいの言葉は、独り言以下のささやきにしかならなかった。


楽しそうにメニューに目を通し、すぐに二人して固まる。

「すっごく高いんですけど……」

「ねえさん、私たちは宿に戻っていましょうか」

普通に15~20ギル程度の定食だぞ?


「俺と一緒に食事をするのも仕事の一環ってことで」

「そ、そうなんですか?」

「でもこれだけあったら何食分ものパンが買えます……」


サナとユナのこれまでの生活は、いかにおいしいものを食べるかではなく、どれだけおなかを満たせるか、だったのだろう。


分かりすぎるほど分かる。だけどさ。

「リンは皆で一緒に食いたいだろ?」

「うん、みんなでたべるー」

困った時のリン頼み。


「リンはハンバーグにする?」

「ハンバーグ!」


ここは有無を言わさず押し切ろう。

「サナとユナはどれにする?ポークカツもあるしラザニアも、鴨の香草焼きもあるよ」

二人は戸惑うように目を合わせた。

「旦那様のお勧めで……」


二人にはラザニアを、自分には鴨の香草焼きを注文。

「これは何でしょう?トマトソースと、ひき肉と、パスタと……」

「ふわぁぁ、おいひぃです」

熱々のラザニアを口に入れ、うっとりとするサナとユナ。


「旦那様の収納から出してもらうお食事もおいしいですが、これは初めて食べる味です」

「こんな贅沢をして、なんだか怖くなります。いいんでしょうか」


サナとユナの反応が新鮮だ。

あの家を出て初めてまともな食事をした時の気持ちを、俺はもう忘れかけてた。

二人は俺を初心に帰してくれるな。



翌日からは乗合馬車でザイオンへと帰る。


リンの背に乗れば半日ちょっとの距離(200km)も、馬車だと4日かかる。

サナとユナと一緒に、俺とリンは初めての乗合馬車に乗った。


結論から言おう。1日で飽きた。いや、正確には半日で。

俺ではなくリンが。まあ、俺も飽きたけどな。


6人が向かい合わせで乗る小さな馬車。

ガタゴトという揺れに体を任せ、うつらうつらし、目が覚めてもまだ昼前。

相変わらず馬車はガタゴトと……。


「カイトぉ、かりにいこうよぉー」

奇遇だな、リン!俺も今そう思っていたよ!


前回、ザイオンでは収納に入っている獲物の半分しか売っていない。

その後、カリオテ村での滞在中にも狩りを楽しんだから、収納には売れる素材がいっぱいだ。だから今は頑張って狩りをする必要もないのだが、いかんせんリンが飽きた。


「サナ、ユナ、今夜の宿泊地で合流しよう!」

「わかりました。いってらっしゃいませ」

「旦那様、リン様、お気をつけて!」


俺たちとは異なり、サナとユナは乗合馬車の旅を楽しんでいる。

移動といえば徒歩が基本の彼女たちだ。馬車というだけで特別なのだろう。

楽しんでくれて何よりだ。

でも俺たちは、ちょっとあっちの山まで行ってくるよ!


そうして4日間。

俺とリンは狩りや採集を楽しみ、サナとユナは馬車に乗り、ようやく俺たちは王都ザイオンへと帰ってきた。

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