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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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ヨヒト

ヨヒトと連れ立ち、銀行窓口も兼ねている市場へ行く。

俺はここでサナとユナ、二人5年分の契約金8万ギルを引き出した。


この程度の金は収納にも入っているけどな、余裕で。

しかしヨヒトがこの大金を持ち歩くのは危険すぎる。


千ギル金貨(10万円)80枚。

その金をヨヒトに渡すと、ヨヒトは両手でその重みをじっくりと確かめ、そこから10枚の金貨を抜き出した。

「金貨5枚ずつ、サナとユナに渡してください」


「私が重労働奴隷に出た時、両親が同じようにしてくれました。たまの休みにその金で屋台に行くのが、つらい労働のささやかな楽しみでした」


そういってヨヒトは改めて頭を下げた。

「二人一緒に買っていただき、本当にありがとうございます。生まれ育った土地から遠く離れ、他に知り合いもいない二人です。どうか、どうか、よろしくお願いします」


はぁぁぁ、まともな家族でマジよかった。

「この金を全部自分の懐に入れたら、殴ってやろうと思ってたんだ」


いくらサナとユナが自分で決めたこととは言え、やはり納得しきれていない自分がいたようだ。

二人を売った金をすべて母親と生まれてくる子供に使うのは、さすがに違うだろ。


「カイト、なぐっちゃダメだよー」

ポケットにいるリンからNGが出た。おっと、ごめん。

でも大丈夫。殴らなくて済みそうだ。


「だけどこの金は返すよ。サナとユナには、服や食べ物だけじゃなく、自由になる金も持たせるつもりだから心配しないで」


「やたいもいこうねー」

そうだな、リン。サナとユナを屋台にも連れていこうな!


ではせめて薬代だけでも、そう言ってヨヒトが金貨を差し出す。

「気持ちだけ受け取っとく。ヨヒトが想像しているより、俺、金あるし」


「本当に、すごいお方なんですね。カイト様に出会えた奇跡に感謝します」

「すごくなんかないよ……」


俺の事情はサナとユナにも話すつもりでいる。

「俺は2か月前まで、1ギルも持たず、はいつくばって養父母の残飯をもらう生活をしてたんだ」


俺の告白に、ヨヒトの眉が動く。

「どんなに貧しくても、家族の愛を与えられて育ったあんたたち兄妹の方が、俺なんかよりきっと何百倍も幸せだよ」


「それは……」

ヨヒトが一瞬口をつぐみ、言葉を選ぶようにぽつりと言った。

「サナとユナが、カイト様の心を少しでもお癒しできるよう祈っています」


癒しか。

俺の癒しは昨日までリンだけだった。

それでも十分すぎる最高の癒しだったけどな!

今日からはそれが3倍か。そりゃぁ、間違いなく幸せだろう。


お互いに納得したヨヒトと俺は宿へと戻った。リンも。

ベッドの上では身体をきれいに拭いてもらい、新しい夜着に着替えたサナがもたれかかって座っていた。


「ありがとうございます。新しくてこんなに柔らかい服、初めてです」

ワンピーススタイルの夜着が妙に色っぽい。

直視できねぇ……。


普段なら近くの料理屋で夕飯にするところだが、サナを置いていくわけにもいかない。

ゼットンさんと一緒に作ったほうれん草とベーコンのクリームスープをたっぷりと注ぎ、ジョージさんのパンを添えてサナとユナに出した。

「食べられそう?」


「焼きたてのパンと熱々のスープがどうして……」

「スープに牛乳が入ってるよ、ねえさん。ベーコンも!」

二人が目を丸くしている。


パンが焼きたてのままで驚くのは分かるが、ベーコンが入っている程度で驚いていたらこの先、続かないぞ。


二人の枕もとに水の入ったピッチャーとグラスを置き、ユナにタオルを手渡す。

「夕食が終わったらユナは風呂に入っておいで。サナはしばらく風呂は我慢してね」

お風呂、ですか?またもやユナが固まっている。


「あ、入り方、分かる?」

もしかして風呂に入ったことないのかもな。俺も風呂に入るようになったのはあの家を出てからだし、前世の記憶がなければ俺だって右往左往してただろう。


「じゃあ、一緒に入ろっか」

スーザンがユナに声をかけてくれた。ありがたい。


「私なんかにお風呂まで……」

いや、そこは遠慮するとこじゃないから。

「風呂は毎日入るんだよな、リン」

「うん!きもちいーよー」


「スーザンさん、今日はお世話になりっぱなしで、すみません。スーザンさんとヒューゴさんの夕食もあるんで、後で俺の部屋に来てください。酒も用意しておきます」


礼を言う俺に、スーザンが笑顔を見せる。

「サナさんとユナさんへのお世話のお礼を、カイトさんに言われるなんて、もうすっかり家族ね」


あ、そうか。そういうことか。

俺は礼を言う側になったということなんだ。

なんかいいな、こういうの。


それから俺は、遠慮して逃げるヨヒトを風呂に連れ込み、俺の着替えを押し付けた。

「私にまでこのように……」


ひたすら恐縮しているが、ヨヒトの手を見たら分かるよ。

ヨヒトが今までどれだけ家族のために働いてきたか。

働いて働いて、それでも腹いっぱい食べることすら叶わない厳しい環境で、どれほど頑張って妹たちを守ってきたか。


「サナとユナの心配はもうしなくていいから。これからは奥さんと生まれてくる子供のためにがんばれよ」

ウィスキーをロックで飲みながら、俺はヨヒトに伝える。


ヨヒトといえば、切子のグラス、ウィスキー、そして夏に氷という、高級3点セットに固まったまま、グラスを持つ手が震えている。


「さすがにこの酒は俺らにも贅沢だが、カイトと一緒にいる時に細かいことを気にしてたらやってられんぞ」

ヒューゴがフォローにもならないフォローをしてくれる。


恐る恐るウィスキーを口に含み、そのフルーティーな味わいにため息をついた後、ヨヒトは深く息を吐いて話し始めた。


「妻はサナとユナのことを実の妹のようにかわいがってまして、今回のことも最後まで反対していました。変態ジジイのところに二人を送り込んだりしたら、二度とこの家の敷居をまたがせないわよって、そう言われて出てきたんです」

私の実家なんですけどね、そう言って笑うヨヒト。


「それでも今の妻では母乳も出ない。彼女もずいぶん葛藤していました」


「早く帰って妻に報告したいです。カイト様のこと。カイト様と一緒にいるサナとユナの笑った顔のこと」


俺と一緒にいる時に、二人は笑ってくれているだろうか?

恐縮するか、緊張するか。

まだまだ距離はあるよな。


まあ焦らずいこう。俺たちの生活は始まったばかりだ。


「ところでさ、ヒューゴさんはなんであんなにサナとユナを俺に押したんですか?」

酒の勢いを借りて、気になっていたことを聞いてみた。


「だってカイト、最初からあの二人をいいなって思ってたろ?押しが弱ぇんだよ。俺が背中を押してやっただけさ」

うぅぅぅぅ、そんなにわかりやすかったか?俺。


認めるよ。はい、認めます。

二人を自由にしたいというのはかっこつけでした。

本当はこんな娘たちがそばにいてくれたらなーって最初から思ってました。


サナとユナの様子を見に行ったスーザンが戻ってくる。

「二人ともよく寝てるわ」


兄と一緒とは言え、野宿しながらここまで来るというのは緊張が絶えなかったろう。

二人が安心して眠れたのなら、それでいいか。


ザイオンに着いたらポラリスの宿のあの広いベッドで一緒に……、寝るんだよな?

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