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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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ワイバーン

空飛ぶ魔獣、ワイバーン。リンと俺で倒せるのか?

心の準備も出来ないまま、その姿が見えてきた。


大きな羽を広げて飛ぶ古代恐竜のような魔獣。

映画のワンシーンのようだ。

その大きなかぎ爪がつかんでいるのは……、人?


「リン!人がさらわれてる!やばい!」

「もうちょっとちかくにいけば、たおせるよー!」


トップスピードのまま、ワイバーンの真下を目指すリン。

俺もコーゲイさんの剣を構えた。


「サナ!サナ!」

「ねえさん!ねえさん!」


さらわれている人の兄妹だろうか、声をかぎりに叫んでいる人がいるが、俺たちに立ち止まっている余裕はない。


ワイバーンの真下まで来ると、俺を乗せたままリンが大きく大きく跳躍した。

うわっ!

リンってば、こんなに高く跳べるんだ!

リンの背でバランスを崩しそうになる俺。あっぶねえ。


ワイバーンを射程距離にとらえたリンはそのまま風魔法をぶっぱなつ。

リンの放った風は的確にワイバーンの背中を切り裂いた。


「ギャァァァ」という断末魔の声と共に落下するワイバーン。

さすが神獣。ワイバーンですら瞬殺だよ。


って、感心してる場合じゃない!

かぎ爪につかまれていた人が離れ、ワイバーンと共に落下するではないか!


まずい!

この高さから落ちたらあの人も助からない!


俺はとっさにリンの背中から飛び出した。

高く跳び上がったリンの背からさらに高く。


スローモーションのように、落ちてくる女性を空中で受け止めた俺。

その瞬間、彼女の重さをずしんと感じ……、あれ?あれれ?

落ちるぅぅぅ!!


「たーすーけーてー」


女性を抱きかかえたまま落下し、地面に叩きつけられると思った瞬間、ふわっと風が吹き、一瞬体が浮いた。

そのまま柔らかく地面に着地。


はぁぁぁ、俺もダメかと思ったわ。


「リン!リンの風魔法なの?ありがと!」

リンのおかげで命拾いしたよ。

どこまで行っても正義のヒーローにはなれない俺。


「カイト、だいじょうぶー?このひと、けがしてるね」

そしてどこまでも優しいリン。


俺の腕の中の女性は、貧しい農村の人らしく、古い麻の服を身にまとっていた。

その服が赤く染められている。

ワイバーンのかぎ爪が食い込んだあとの両肩は深くえぐれ、血が流れているのだ。


「サナ!」「ねえさん!」

この女性の兄弟と見られる二人が俺のもとに走り寄ってきた。


肩に深い傷を負った彼女を見て立ち尽くす二人。

「嘘だろ……」


いや、ぼーっとしている猶予はない。

俺は収納から水晶苔の薬瓶を2本取り出し、1本を迷わず彼女の両肩にかけた。


「ううっっ!」

腕の中の彼女がうめく。よかった、意識はあるようだ。


傷口が泡立ち、傷口がふさがっていく。

すごいな、これは。

薬と魔法が組み合わさったようなものだな!


「これ、飲める?」

うっすらと目を開けた女性がこくんと頷く。

俺はもう1本の瓶を彼女の口に近づけた。

「ゆっくりでいいからね」


そっと口に流し込むと、ゆっくり、確実に薬を飲みこむ女性。

かなりの怪我でもこれで助かると聞いていたけど、大丈夫かな?

間に合った、んだよな?


「あ、あ、り、がとう、ございます」

腕の中の女性がようやく言葉を発した。

はぁぁ~、もう大丈夫だ。

ホッとした。


その様子を見てへなへなと座り込む兄妹。

「サナ、大丈夫か?」「ねえさん、大丈夫?」


サナと呼ばれた女性は二人の方へゆっくりと首を動かした。

「もう、ダメかと、思った……」


大きく息を吐いた兄が、居住まいを正して俺に向かって頭を下げた。

「この度は妹を助けていただき、貴重な薬も使っていただき、本当にありがとうございました。薬代は一生かかっても必ずお返しします」


しっかりした人だな。でも一生って、重すぎだから!

「俺が勝手にしたことだから、気にしなくていいよ」


それよりもこれからどうするか、だ。

「傷がふさがっても数日は安静にしたほうがいいって聞いてる。でも宿がある次の街まで歩いて1時間くらいあるんだよな」


リンの足なら数分で着く距離も、人の足だと1時間かかる。

この女性を歩かせるのは無茶だろう。リンの背に乗せるか?


と、3人が顔を見合わせ、兄がおずおずと話しだした。

「私たちは野宿をしながら王都を目指していまして。宿に泊まるような金は持っていないんです」


あー、そうだよな。

でも、今の彼女に野宿は無謀すぎる。

「金なら俺が出せるから心配いらないよ。それよりどうやってそこまでこの人を連れていけるかを考えないと。せっかく助かった命なんだから」


「ボクにのる~?」

リン!やっぱり、リンはええ子や!


「しゃ、しゃべった!犬?兄さん」

「いや、フェンリル?あなた方はいったい……」


そこにガタゴトと2台連なった馬車が近づいてきた。

「やっぱりあれはワイバーンだったんだ。カイトとリンが倒したのか?」


さっき追い抜いたヒューゴ達だった。

「俺とリン、じゃなくてリンだけで倒したけどな」

あ、そうだ。ワイバーン回収しないと。


ようやく起き上がれるようになった女性を座らせ、俺は羽を広げて地面に倒れているワイバーンを回収した。


ワイバーンは羽根を広げた状態だと全長5mくらいだろうか。

リン、よくこいつを一発で倒したな。すげぇな。

この素材もいい値段で売れそうだ。


ワイバーンがすっと消えるように収納される様を見て、兄妹は目を見開いた。

「あんなに大きな魔獣を、収納?初めて見ました」


その横でスーザンが襲われた女性に声をかけてくれている。

「大丈夫?ワイバーンに襲われたの?」


「はい、ワイバーンに掴まれてさらわれるところをあちらの方に。あの方は……」

スーザンが女性の背中をそっとさする。


「それは怖かったわね。もう大丈夫よ。あの人はね……、あの人は……、カイトさーん、あなた自己紹介もしてないんじゃなくって?」


あ、そうだった。

「俺はカイト。カイト・マルフォム。で、この子はリン」

雑な自己紹介だな。ヒューゴがつぶやいているが、これ以上何を言えというのだ。


「俺たちはヒューゴとスーザン。カイトの友人だ」

そっちだってかなりアバウトな自己紹介じゃないか!


「こちらこそ名乗りもせずに失礼しました」

姉妹の兄が俺の方をしっかりと見て自己紹介を始める。


「私たちは北のフィリオーネ領から来ました。私はヨヒト。カイト様に助けていただいたのが上の妹のサナ。そしてこちらが下の妹のユナです」

カイト様って、落ち着かない呼ばれ方だな。


しかしフィリオーネ領!俺が行ったことのある数少ない地域だ。

「フィリオーネか。俺たちは今、フィリオーネから氷を運んで帰る途中だ」

ヒューゴも反応する。


サナと呼ばれた女性はスーザンに背中を支えてもらい、話し始める。

「サナと申します。妹のユナと一緒に、王都で性奴隷として雇っていただくために、兄と一緒に王都へ向かう途中でした。ワイバーンにさらわれた時には、このまま家族にお金を残すこともできずに死ぬのかと絶望しかありませんでした。本当にありがとうございました」


サナの言葉は途中から耳に入ってこなくなった。

性奴隷?

この優しそうな兄は、妹二人を性奴隷として売るつもりなのか?

ようやく登場しました、サナとユナ。カイトのことをよろしく頼む!

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