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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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すき焼き!

「すき焼き始めるけど、カイトどうする?」

デニスが俺に話しかけてきた。


どうする?とは?


「キマイラの肉はカイトのもんだろ?陛下はカイトに招待されてないからなぁ」

えぇぇぇ?俺にそれを聞く?デニス、相手は国王だぞ?


「メシは皆で食べたほうがおいしいよ。国王陛下でもそうじゃなくても、せっかくここに来てくれている人達とは一緒に食おうぜ。お付きの人も皆で」

デニスになら普通に答えられる。デニスにならな!

陛下の方は直視できない……。


「ひょっひょっひょっ、さすがカイト。ではごちそうにあずかろうかの。キマイラの肉は久しぶりじゃのぉ、すき焼きも幼いころにリョージにごちそうしてもらって以来じゃ」


陛下はすき焼き、食べたことがあるんだ。

リョージさんにも会ったことがあるんだな、やっぱり。


っていうか、俺らどの席に座る?

俺はヒューゴやモルガンと目を合わせる。


「カイトは陛下の席でしょ?」

モルガンがひじでつつく。いやいやいやいや。


「カイトさんとリンさんは私の席ですよねぇ」

そう言うのはビクターさん。国王に対して一切忖度する気がないようだ。


「ビクターもカイトもこの席に座ればよいではないか」

「えぇぇ?そうしたらリンさんを独り占めできないじゃないですか」

陛下の言葉に反論するビクターさん。ビクターさん、リンの独占はダメですよ。


「しょうがないなぁ。じゃあビクターさんも一緒に陛下の席に座りましょう」

もう、こうなったら腹をくくるしかない。俺からそう提案した。


ラッキーとばかりに、いそいそと別のテーブルに座るモルガン一家とヒューゴ夫妻。ずりぃ。


困ったのはローガンス商会見習いのエリックだ。救いを求めるようにヒューゴとスーザンを見上げ、「ここにいろ」と言ってもらっていた。

借金奴隷が国王と同席はさすがに厳しいよな。俺でも厳しいけどな!


俺たちが席に着くのを待って、デニスとミランダが七輪と鉄なべをテーブルごとに運んできた。続けて出される野菜、そして薄く切ったキマイラ肉!


しかしデニス達、国王陛下相手に物おじしないなぁ。

「もしかしてデニス達は陛下に会ったことがあるの?」


俺の問いかけにデニスとミランダが目を合わせた。

「陛下がまだ若く、リョージさんが生きていた頃はしょっちゅうこの店に入り浸っていたらしいけど、俺の代になってからはまあ、ごくたまに、かな?」

来てるんだ!ごくたまにでも来てるんだ!


「ここにいるメンバーは何度も会ってると思うぞ。さすがにその見習い君は初めてだと思うが。お忍びの時は国王として接する必要ないって言われてるから、カイトも気にしなくていいんじゃないか?まあ、国王陛下への正しい接し方なんて、俺ら庶民はどっちにしろ知らないけどな!」


「陛下……、王宮の料理人はこの国のトップクラスでは?わざわざここにいらっしゃらなくてもよいでしょう」

俺がジト目で見ると、

「リックとは呼んでくれんのかの」

当たり前じゃぁ!


「王宮の料理人は、こってり料理はとてもうまいんじゃが、醤油や味噌を使った料理はいまいちなんじゃよ。やっぱり月のうさぎが一番じゃて」

うっ……、それを言われると弱いな。

俺もここを知ってしまったらここなしでは生きていけない気がする。


「まずはお椀に卵を溶きます。なべが熱せられたら、牛脂を溶かしてください」

陛下の話をぶった切ってデニスが説明を始める。やっぱり、つわものだ。

「脂がとけたら、肉をさっと両面焼きます。そこにこの割り下を入れてください。その後、野菜を入れますが、まずは肉をお楽しみ……」

「よっしゃ!肉だ~!」


デニスの説明は俺たちの雄叫びでかき消された。

「おにく~!」

テーブルの上でリンもしっぽをピンっと立てる。


カーン!

ゴングは鳴らされた。


「陛下、それまだ生焼けですよ」

「焼けるまで待っていたらビクターに取られるからの」

「私じゃありませんよ。リンさんにです。陛下よりリンさん優先です」

……、この二人仲良くしてくれないだろうか?


「ひげのおじいちゃんもたべていいよー」

「そうかそうか、リンは優しい子よのぉ」

国王陛下、ひげのおじいちゃんで定着か?


前後の席ではいかつい男たちが我先に肉に食らいつく。最初は「いや、私たちは護衛ですから」とか言っていたはずなのに

「おいしい!なんですか、これは。陛下と同じテーブルじゃなくてよかったですよ」

国王の側近。身分は高いのだろう、言葉遣いは俺たちとは違う。しかし、がつがつと食らいつくさまは俺ら庶民と何も変わらんな。


「野菜もおいしいですよー、食べてくださいねー」

「ボク、おにくおかわり~」「はいはい、すぐ焼きますからね」

ミランダさんの声がかき消される。いつぞやのムーラさんのようだ。


とはいえ、肉のうまみを吸い込んだネギや白菜、キノコもうまいよな。

ほとんどの人が生卵も大丈夫だった。


エールを片手に、ひたすらキマイラ肉とキャトルの霜降り肉を焼き続け、ようやく誰もが満足した。


「デニスとミランダは食べないの?」

気になって俺が尋ねると「すまん、この味にたどり着くまでに死ぬほど味見した」

あはは、じゃあいっか。


腹いっぱいになると人は優しい生き物になれる。

国王とビクターさんも、ようやく穏やかに会話をし始めた。

「来たいなら来たいって、初めから言えばいいんですよ、陛下」

「そう言ったらお主は断るじゃろ?」


日本酒を酌み交わしながら、ビクターさんは昨日話したスペインバルの計画を陛下に説明している。

「それは楽しそうじゃ!わしにも出資させてほしい!」

陛下もノリノリだ。でも国王が出資とかしていいもんなの?


「国王もビジネスをする時代ぞ。税金だけではあんな馬鹿でかい宮殿は維持できんわ。いらんけどな」

いらんけどなって、へいか~。控えているお付きの人から低い声が漏れる。

直轄領もあるし、いろいろと手広くやっているのだろう。


「王宮の見習い料理人達でそろそろ独り立ちさせてやりたいものがおるんじゃ。その者たちに店をやらせてはもらえんか?」

見習いとはいえ王宮料理人と言えば一流だ。でも料理長がころころ変わるわけではなく、王宮の中ではなかなか上にあがれないらしい。

「まあ、店を持つ前にデニスの下で修業させるがな」


「では店の候補地を探しておきましょう。うまくいけば数店舗、同時開店できますね。デニスも技術提供だけではもったいないでしょう。出資に参加しますか?」

その場で、陛下とビクターさんと俺が3割、デニスが1割出資と即決してしまった。

「え?俺に3割も払えるの?」


ビクターさんの概算では開店費用は1店舗あたり25万ギル、4店舗で100万ギル。

3割出資なら30万ギル(3千万円)とのこと。それなら出資できるな。

何より楽しそうだ。

「多分1,2年で出資金は回収できますよ。成功する予感しかありません」


日本酒を飲みながら30分ほどで取引が成立してしまった。

ビクターさん、やり手だな。


突然陛下がポンっと手を打った。

「お、そうじゃ、カイト。伝言を頼まれておった。キマイラ討伐の報奨金200万ギルをカイトの口座に送金済みだそうじゃ」


200万ギル……、2億円……。


速報その2!

俺の資産が300万ギル、3億円を超えました!


1ギルも持たない底辺生活からかれこれ1か月。ようやくたどり着いた。

長かった……、って短いよ!

変化が激しすぎてついていけねぇ。


ちょっと、少し落ち着こう。


「なぁ、リン。明日はクリストフたちのお土産を買ってさ、明後日からクリストフたちの村へ遊びに行かないか?」

「やったー!クリストフたちとバーベキュー!」


「クリストフって?」

俺たちのやり取りを聞いていたモルガンが尋ねてくる。

「カリオテ村っていうここから100kmくらい離れた村の4人組冒険者なんだ。メイダロンで知り合った仲間。せっかくだから会いに行こうと思ってたんだ


「しばらく留守にするのかい?」

アイノラも心配そうに聞いてくる。


「リンに乗っていけば半日でたどり着くけど、せっかくだからゆっくりしてくるかも。宿代は払っていくから部屋はそのままにしてくれると嬉しいな」

「それは構わないけど、気をつけて行ってくるんだよ」

ザイオンの母を自称するアイノラ。ありがと。


「ようやくカイトに会えたのに、また出かけるのかのぉ~」

いやいや、陛下としょっちゅう会う予定はありませんけど?

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