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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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王都の一日

ビクターさんの宿を出て、高級商店街をさらに歩く俺たち。

「あ!」

洋品店の前で足を止めた俺。


「服を買いたいの?」

スーザンに尋ねられて俺は首を縦に振った。

「もうコートの季節じゃないんで、リンが入れるような大きなポケットのついたシャツが欲しいんです」


「違うと思うが……、入るか?」

俺の服装を上から下まで見たヒューゴがぼそっとつぶやいた。


カランっと店のドアを開けて中に入った瞬間、ヒューゴの言う意味を理解した。

貴族御用達?ほぼすべての服に刺繍が入ってねぇか?

「この国の貴族は刺繍の入った服を着るべし、みたいな法律でもありそうっすね」


俺のつぶやきに、がははと笑うヒューゴ。

「法律はないが、下手な貴族ほど刺繍入りの服にこだわるな。そこらの子爵が、刺繍の入っていない服を着た人を平民だと見下して偉そうにふるまったところ、公爵だったみたいな逸話はごろごろあるぞー」


うーん、ビルケッシュに帰ったらアーノルドに伝えよう。

まあ、彼は無意味に偉そうにするやつじゃぁないけどな。でも常に刺繍は入っているぞ!

滞在時間わずか1分にしてその店を出た。さようなら。


洋品店の数軒先に立派な門構えの店があった。

入り口に警備員が立ち、ものものしい。

窓から人々が店内を覗き込んでいる。


「この店は?」

「ああ、ここだけは庶民が簡単に入れないんだよ。魔道具の店だ」


魔道具!それは入ってみたい。

しかし、筋金入りの庶民だからなぁ、俺。入れないのか……。


「男爵以上の貴族か、伯爵以上の紹介状を持ったものなら入れるぞ」

おお!じゃあ今度アーノルドに紹介状を書いてもらおう。

「いや、カイトなら王都でも紹介状は簡単に手に入りそうだけどな」

ヒューゴの言葉が謎だが、まあいいか。どっかで紹介状を手に入れよう!


この世界、魔石も魔道具もレアだ。

リンが見つけた魔獣ですら、今のところ魔石を持っていたのはキマイラだけ。


「魔石ってどんな魔獣から手に入るの?キマイラレベルの魔獣がそんなにいるわけじゃないですよね?」

ヒューゴの話だと、この国の北西地域、岩がごろごろして植物が育たない不毛なエリアにいる魔獣から魔石が取れるのだとか。

「小さな魔石なら武器に利用され、俺らにも手が出る値段で売ってるけどな。大きなのはシャンデリアなんかに利用されて貴族御用達だ」


シャンデリアはいらないけど、何か便利グッズがあればぜひ見たいなー。

それは今度の楽しみにとっておこう。


4番街にはその他にも楽しそうな店が並んでいる。

酒屋、文房具店、武器屋、香辛料専門の店、など。


どこも気になるが、とても1日では回り切れない。

今日はヒューゴ達に案内してもらってザイオンの全体像がつかめればいいか。

またゆっくり買いに来よう。


それらの店を通過して、茶葉が並んだ店に入った。

俺の目的は……、あった!コーヒー!


「これは私も知らないわ」

スーザンも首をかしげている。まだザイオンでも一般的ではないようだ。


コーヒー豆は小さな袋でも40ギル、大袋では100ギル。

おしゃれな造りのコーヒーミルは400ギルもする。しかし、欲しい!

ネルドリップ式のコーヒーサーバー200ギルとあわせ、コーヒー3袋購入。

合わせて900ギルをあっさり払う俺をヒューゴは呆れてみていたが、ここは譲れない。


「ケーキと一緒に飲むとうまいんだ。リン、あとでケーキも買おう」

「ケーキ!」

リンが俺の腕の中で嬉しそうにしっぽを振った。

買い物は楽しいが、欠点はリンが退屈することだ。

今日一日、我慢してくれるといいが。


ビクターさんの特別食料品店はその先にあった。

以前は店を構えずに希望者にだけ売っていたそうだが、量産が整った昨年オープンしたらしい。

店の外まで醤油や味噌の独特な匂いが漂っている。

この奥深さを知らなければ敬遠されそうだな。


店内では大きな甕に入った醤油や味噌、日本酒などが量り売りされている。

麻袋に入った米が積まれ、その他に昆布や海苔、鰹節などの干物も並んでいる。

昨日の俺がこの店に入ったら踊りだしていたかもしれない。

でも昨夜、月のうさぎで日本食を満喫した俺は少しだけ冷静だ。


「いつでもデニスのとこで食べられるし、あんまり自分では料理しないからなー」


そういいつつも店内にあるほぼ全種類を買ってしまったよ。

だって幸せだろ?収納の中に米や醤油が入っているってさ!


そろそろ腹が減ってきた。リンの機嫌が悪くなる前に昼メシにしよう。

少し海側に戻ったところが広場となっており、その周りにテラス席を出すおしゃれなカフェが立ち並んでいた。まさにヨーロッパ!


昼間からワイングラス片手に食事をする紳士淑女もいれば、ワッフルのようなスイーツを楽しむレディたちもいる。

ようやく自分の出番とばかりに身を乗り出すリン。ちょっと待ってろ!


「ザイオンでも貧しい暮らしをしている人は多いが、働き口に恵まれれば庶民でもこういう店で楽しむこともできる。ザイオンとはそういうところだ」

ヒューゴが遠くを見るような目でつぶやいた。

色々な人たちを見てきたんだろうな、彼も。


ちょっとした贅沢を楽しめる生活。

それは底辺の暮らしから比較すると天と地の差だ。


でももう俺は誰にも遠慮しない。

テラス席ならリンでも問題ないだろう。


建ち並んだカフェを吟味し、見つけた!コーヒーを出している店が1軒だけ。

コーヒーセット一式を購入したばかりだが、ポラリスの宿に戻るまで待ちきれない。

「リン、ここでもいい?」

「いいよー。おいしいもの、あるね!」


テラス席に座り、リンと俺は鮭のクリームパスタとサラダを注文した。

「なかなかおしゃれなもん頼むんだな」

そう言うヒューゴとスーザンはチーズ入りロールカツを注文している。若いな!


がっつり系は俺もリンも大好きだけどな。しかし、今世初のパスタだ。頼むだろ。

パスタは手打ちの平打ち麵だった。モチモチでうまい。


テラス席に座ってフォークでパスタを食べる俺と、皿に顔を突っ込んで食べるリン。

うん、我ながら場違いだ。向かいに座るヒューゴは俺以上に場違いだぞ。

スーザンがいてくれるのが救いかな。


さて、リン。お待ちかねのデザートだぞ。何がいいかな?

ざっと周りを見渡すと、隣の女性が食べているクレープは、あれ?チョコレートソース?

この世界にもチョコがあるんだ!これは絶対リンが喜ぶやつ。


チョコはまだメジャーではないのかスーザンも首をかしげている。

「案内のお礼にここはごちそうしますから、ぜひ試してみてください」

半ば強引に、クレープとワッフルのチョコソース掛けをそれぞれ二つずつ頼んだ。


コーヒーも4つ。

コーヒーはリンには苦い。分かっているけどさ、試さないと納得しないんだよ、この子。


「いい匂いだな」

運ばれてきたコーヒーに鼻をひくつかせるヒューゴ達。そして一口含む。


「「「にがっ!!!」」」

ヒューゴとスーザンとリンの声が重なった。あはは。


「甘いものの後に一口飲んでみてください。すっきりしますよ」

チョコソースのかかったワッフルを食べ、スーザンの表情がとろけた。

「なにこれ、おいしい!」


「どれどれ」

ヒューゴも一口食べ、目を見開いた。「うまいな、これ!」


そのままコーヒーを口に運ぶ。

「確かに。甘いものとコーヒーの組み合わせは病みつきになるな。めちゃくちゃ贅沢だが」

「ほんと。砂糖を入れなくて正解ね」


「おいしいね!チョコ?おいしいね!」

おいしいものの名前は一瞬で覚えるリン。

そのままコーヒーを舐めて「やっぱりにがい~」。

はいはい、砂糖とミルクを入れますよー。


ゆったり優雅な、冒険者らしくないランチを楽しんだ後、テイクアウトのケーキを数点購入し、庶民街である2番街へ戻ることにする。


「持ち帰り用のチョコはなかったね、リン。またゆっくり探そう」

「チョコ、かえなかった?」

ザイオンで出回っていることが分かれば十分だ。時間はたっぷりある。


2番街に戻ると、ヒューゴに買い取り窓口の場所を教えてもらった。


「よう、ヒューゴ。久しぶりだな」

「おおトビィー、今はもっぱら護衛仕事だからな」


窓口の男性はヒューゴの知り合いらしい。

「こいつはカイト。今後いろいろと世話になると思うからよろしく。こっちはトビィー。魔獣のことならなんでもこいつに聞くといいぞ」


「初めまして、カイトと言います」

「トビィーだ。よろしく」

すき焼きにたどり着けなかった……。やりたいことが多すぎるな、カイト。

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