ザイオンの朝
いつもよりちょっと遅い投稿になりました。投稿再開させていただきます。
ザイオンで迎えた最初の朝。
ふかふかのベッドで目を覚まし、寝返りを打った俺の鼻先には、丸まったリン。
リン……、無駄に広いベッドなんだからくっついて寝る必要ないだろ?
まあ、かわいいけどな。
俺としては十分寝足りたが、リンはまだ起きないだろう。
リンをベッドに残し、庭に降りて洗濯をする。旅の途中でたまった洗濯は、地味に時間がかかった。すべて庭に干して完了。雨降りませんように。
ようやく起きだしたリンを抱き、部屋を出る。
朝食は何かな~。
ポラリスの宿の玄関を通ると「ご用の方は月のうさぎへ」と書かれた看板がカウンター上に出ていた。なるほど、そうすれば家族そろって食事もできるのか。
月のうさぎにはモルガン、アイノラ、エイミィの3人と、ヒューゴとスーザンがすでに食事をしていた。そのほかに3組の客。結構人気だな。
「カイト、リン、おはよう。よく眠れた?」
「おはよう!うん、ぐっすり。すっごい居心地いい部屋だよ」
モルガンに尋ねられて答える俺。
「そうか、よかった。何かあったらすぐ言ってくれ」
「おはよー」
俺に続いてリンもご挨拶。
「リンちゃん、おはよー」
子供用の椅子に座ったエイミィがリンに手を伸ばし、届かないまま手が宙をさまよう。
俺は抱いたリンをエイミィの手の届くところまで近づけてやった。
「いいこ、いいこ」
リンをなでなでし、朝からご機嫌そうだ。
「おはよう、カイト、リン。ここ座るか?」
ヒューゴ達のテーブルを勧められ、俺たちはそこに腰掛ける。
朝食はごはんとみそ汁のセット4ギル、またはおにぎりとみそ汁のセット5ギルにおかずを追加するスタイルだった。
ご飯のセットに、サバの塩焼き3ギルと小松菜のおひたし1ギル、人参のきんぴら1ギルを俺とリンの分それぞれ注文。
やっぱりここも朝食は安く設定しているんだな。庶民の味方だ。ありがたい。
お!生卵がある!って、衛生上、大丈夫なんだろうか?
「卵かけごはんにするか?やっぱ知ってるなぁ、カイトは。この店でも生卵食べるやつはめったにいないぞ」
生卵に反応した俺に、店主のデニスが声をかけた。
「この辺りで買える卵って、生で食べて大丈夫なの?」
「おう、買ってすぐなら大丈夫だぞ。卵は表面がアレだけど、割ってすぐ食べれば問題ない」
なるほど!じゃあ夜のすき焼きも卵を付けられるな!苦手な人も多そうだが。
炊き立てご飯に卵を割り、醤油をたらす。
さっと混ぜて我慢できずにかきこむ俺。うんめぇぇ。
「ボクも、ボクも!」
テーブルの上にちょこんと立つリンに催促された。
おっと、ごめん、ごめん。待ちきれずに自分だけ食べちゃったよ。
リンの分もTKGにしてやると、嬉しそうに顔を突っ込み食べ始める。
「おいしーね、これ!」
おお、分かるか!嬉しいよ!でも、後でリンの顔を洗わなくっちゃ。
「今日は庶民街と高級店街の両方で買い物よね?」
先に朝食を食べ終えたスーザン。
今日もヒューゴとスーザンに王都案内をしてもらう約束だ。二日連続で付き合わせて申し訳ないが、ガイドブックもないこの世界、口コミ情報ほど有意義なものはない。
「はい、お願いします。コリンバースですらあまりゆっくり買い物をしたことがないんで楽しみです。それとビクターさんにヘビの買い取りも」
夕べ、飲みながらアクアスネークの話をビクターさんにしたところ、思いっきり前のめりで「ぜひすべて買い取らせてほしい!」と懇願された。
リンが簡単に見つけてくる魔獣はレアものが多くて、だんだん感覚が鈍ってくるよ。
「じゃあ、最初に4番街のビクターさんのお店に行ってそれから高級店街ね」
おお、やっぱりビクターさんのお店は高級店街にあるんだな!と思ったら庶民街にもあるのだとか。いくつお店を持っているのだろう?
朝食を終え、デニスに夜用のキマイラ肉とキャトル肉を渡した。
サシの入り具合をじっくりと見てほぉっと感嘆のため息をつくデニス。
今夜はすき焼き!期待してますよぉ。
4番街は2番街から1kmほど離れており、朝食後のウォーキングにちょうどいい。
ヒューゴ達と西に向かって歩いていくと、山側の景色が変わってきた。
ビルケッシュ領に続く東側はなだらかな山で、高級だが小さめの家がところどころに建っていた。富裕層の別荘という感じだ。
しかし中央部分の北側は比較的急な山となっており、王都から見上げるようだ。
山の中腹には大きな屋敷が距離を置いて建っており、それらがトップクラスの貴族の屋敷なのだと素人でも分かる。
そして山の頂上には、ありますね~。
城壁に囲まれてどぉーんっと建つバカでかい宮殿。
あれが王城かぁ。
世界遺産レベルだな。
山の上から100万人都市ザイオンを見下ろし、この街だけでなくこの国全てをつかさどる中枢。そしてその頂点に立つ国王。
マジで言葉通り雲の上の存在だよな。
そんな人が俺にポラリスの宿をお勧めするとか……、ま、考えるのやめるわ。
口を半分あけて王城を見ていた俺を見て、ヒューゴとスーザンが笑った。
「初めて見ると驚くよなー。とんでもないでかさだもんなー。でもよぉ、あそこで働く人には不評なんだぜ、毎朝この山を登んなきゃなんねぇ」
それはそれは、迷惑な話だな。
気を取り直して、ビクターさんの店へと向かう俺たち。
「いらっしゃい!お待ちしていましたよ。心変わりして買い取り窓口に持っていらっしゃった場合を想定して、買い取り窓口にも話をつけていたところです」
優しそうなおじいちゃんの顔をして腹黒い話をサラっとするビクターさん。
まぁ、そうじゃなきゃ、商会をこんなに大きくできないよな。
「軽く血抜きをしただけの状態なんですが、出しちゃっていいですか?」
「もちろんです、準備はできています」
夕べの今日で、仕事の早いこと。
16匹のアクアスネークをすべて出すと、ビクターさんの目が大きく開いた。
「今までお断りしていた貴族からの氷の納入も受託できますね」
ビクターさんの頭の中でそろばんのはじける音が聞こえる気がするぞ。
シルバースネークほど太くはない分、取れる皮は少ない。1匹4500ギルとのこと。
馬車一つ分くるむのに8匹分必要なのだそうだ。
8匹で3万6千ギル(360万円)。やっぱり氷ってかなりの贅沢品だな。
16匹、合わせて7万2千ギルにて取引成立。
ま、ぼったくられてても気づかないけど、疑ってかかっても疲れるだけだ。
俺には十分すぎる収入だしな。
振り込みではなく現金で7万2千ギルを受け取り、そのままビクターさんの店に案内された。金持ってるいいカモのご来店、って感じだな。
その手には乗らないぞ、と意気込んだものの、店内に入ってあっさり陥落した。
目に飛び込んできたのはシルバーのカトラリー。
ナイフとフォークで上品な食事をするつもりはないが、木のフォークって刺さりづらいんだよ。やっぱ、これだけは金属じゃないと。
でもまあせっかくならナイフとフォーク、スプーンも揃えるか。
おお、装飾なしでも一つ55ギルもするのか。ガチのシルバーだな。
前世のステンレスが懐かしい。
持ち手に装飾があるものは100ギル以上するものもある。貴族御用達?
俺ら冒険者の世界に装飾は必要ないね。
シンプルなナイフとフォーク、スプーンを20セットずつ購入。
計3300ギル。結局いいカモだな、俺。
その横に並ぶのは華やかなティーセットやお皿。
金で縁取られたもの、華やかな薔薇の絵付けがされたもの、などなど。
前世でも見ていたヨーロッパの陶磁器のクオリティだ。
えーっと……。
思わず立ち尽くした俺の意図をくみ取ったヒューゴが俺の肩をたたいた。
「男一人でこれはきっついよな」
そうなんだよ。
花柄のティーポットで紅茶を入れ、ソーサー片手にカップを持ち上げるとかさ。
思わず小指が立っちゃいそうだぜ。
「嫁さん見つけろよ。女性は喜ぶぞー、こうゆうの。男勝りのうちのかみさんですら喜ぶんだからな」
男まさりって誰の事よ?とスーザンににらまれ、肩をすぼめるヒューゴ。
いやだから、嫁さんはどうやって見つければ?
「ビクターさんには悪いけど、もっとシンプルなものもあるから案内するよ」
ビクターさんの店にはその他にも高級な石鹸やふわふわのタオル、化粧水などが並んでいた。クオリティは高そうだ。
だがしかし!ターゲットは明らかに俺ではない。
石鹸は泡立てばいいんだよ。
ふわふわのタオルはいいな……。これは買っておこう。バスタオルサイズもある。
「この先に食料や調味料を扱う店もあるから立ち寄ってくださいね」
先にそっちに行きたかったよー。醤油、買いたい!
よっしゃ、その店へ行こう!
リンが退屈する前に、菓子屋も行かないとだしな!




