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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
35/78

ビクターさんの計画

天ぷらやからあげ、ポテトフライなどが出されると、俺たちもかなり満足。

結局我慢できず、生姜焼きも単品で出してもらい、ヒューゴ達とつまんだ。


リンは定食をぺろりと食べ、俺たちのつまみを少しずつ取り分けてもらってご機嫌だ。

「やたいじゃないのに、いろいろあるねー」

確かに。


俺が知る限り、この国ではどーんっとメイン料理が出てくる食堂が一般的だ。

日本の居酒屋スタイルは聞いたことがない。

食堂やレストランに行ける身分になってまだ1か月だから、全然詳しくないけどな!


「お気づきだと思いますが、この店ではリョージさんがこだわって作った特殊な調味料や食材が使われています」

器用に箸を使いこなしてさつま揚げをつまみながら、ビクターさんが話を始めた。

昼間の屋台とは異なり、さつま揚げはしょうが醤油で提供されている。


醤油、味噌、日本酒、豆腐、鰹節、そして米。

これらはザイオンの近くにある小さな町でひっそりと作られてきたそうだ。

リョージさんが足しげく通って改良を重ね、彼の晩年には今と同じレベルの品質になっていたとのこと。


「この国では醤油や味噌は浸透しなかったと聞いていますが、今日屋台でホタテのバター醤油焼きを食べました。メイダロンでも醤油を使った焼き肉のたれが売られてます」

俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。


「そうですね、正確には浸透しなかったのではなくあえて広めなかったのです」


リョージさんはこの国全体の食生活の改善に大きく貢献した人だったが、これらの食材は生産と品質の向上を目的として、量産にはたどり着かなかった。

だからこれらはリョージさんが通ったこの「月のうさぎ」と、リョージさんと親交が深く強い影響を受けた一部の王侯貴族にのみで流通してきたそうだ。


「月のうさぎ」でもこの国の人に合うメニューに取り入れるのではなく、みそ汁や白いご飯など、敢えてこの国の人にはなじまない料理を提供することで、愛好家を増やさないようにしてきたのだとか。


「それでもじわじわと愛好者が増えていきましてね。売ってほしいという人の希望に応えきれなくなっていたんです。それに健康にもいいということで、やっぱりこの国でも広めようとなりまして。10年かけて量産体制を整えたんです」


現在、ザイオンの西にある広い領地で、すでに量産が始まっているとのこと。

「最初に醤油を使った焼き肉のたれを仕掛けました。これは成功しまして、わずか1年で国中に広まりました。その次に醤油をそのまま利用する方法をザイオン中心に始めています。屋台では少しずつ取り入れられてきていますが、これをさらに広めるにはどうすればいいか」


「リョージさんが残されたレシピメモにも限界があり、この国の食文化にマッチさせる方法がないかと、カイトさんに相談させていただきました」


なるほどねー。

「ちなみに量産が始まっているのはどの領ですか?」

「ああ、それは、王室直轄領です」

……まじか。


しかし、この国で醤油や味噌を広める方法ねぇ。

前世、海外で日本食の人気が広まった時の順番を思い出せばいいのかな?

料理は詳しくないけど知識はある。なんだか楽しそうだ!


「とりあえず、パッと思いつくのはすき焼きですかねぇ。薄切りにした肉を醤油と酒、砂糖で作った割り下で焼いて食べるんです。この国の人にもウケると思いますよ。店主はご存じじゃないですか?」

カウンター奥で働きながら俺たちの会話を聞いていたデニスに声をかけた。


「デニスでいいよ。俺はモルガンのダチだ」

丁寧な言葉遣いもいらないと言われ、ここも俺の帰る場所の一つになりそうである。


「すき焼きねぇ。ああ、秘伝のレシピにあるな、それ。高級な肉が手に入った時だけの特別な料理と書かれていて、うちには似合わないと思って封印してた」

「よかったら明日、ここですき焼きを試しません?俺、キマイラの肉を大量に持ってるから。普通の牛肉もあるんで、両方試しましょう」


「キマイラ……、普通の牛肉でも霜降りなら高級なのに、キマイラ……」

デニスが目を丸くしてる。


「さすがにそれは俺らにはもったいないから、普通の牛肉にしようぜ」

ヒューゴの言葉に俺は首を振った。

「出し惜しみするもんじゃないですよ、うまいものは皆で食べたほうがもっとうまい」


もし宿を一時的にあけられるなら、モルガンやアイノラ、エイミィも呼ぼう。


「よし、そうと決まれば明日の夜は貸し切りだな」

デニスは決断の早い人のようだ。

貸切るほどの人数じゃないけど、他のお客さんがいないほうがいいのかな?


「すきやき?」

俺たちの会話を聞いて、リンがピンっと耳を立てた。

さすがだな、おいしそうなものに素早く反応するリンレーダー。

「明日もうまいぞ、リン」

「あしたもおいしい!」


「それと、狭い世界に生きていたので俺が知らないだけかもしれないですが、ここみたいにつまみと酒を出す店ってこの国には多いんですか?」

俺の質問にビクターさんとヒューゴが目を合わせる。


「いや、言われてみれば確かに聞いたことがないな。どの店も、料理は一人前を大きな皿で出すもんだ。この店でも定食を頼む人の方が圧倒的に多い。酒とナッツだけを出すような店ならあるが。酒を片手にいろいろつまむ店はないな。楽しいんだけどなー」

それだよ!それ、それ!


俺はスペインのバルをイメージしてみる。

「特殊な食材を広めるのとはちょっと違うかもしれませんが、オムレツや肉料理、魚料理を大皿に出しておき、お客さんはお酒を飲みながら食べたいものを少しずつ注文出来たら楽しそうじゃないですか?」


そこに少しずつ和の食材を加えるのもいい。

小さい照り焼きハンバーグや、醤油味のから揚げ、ナスの肉味噌乗せもいいな。エールやワインに合いそうだ。


「それは楽しそうですね。さっそく計画しましょう」

ビクターさんの商人の勘に触れたのだろう。すぐに食いついた。


「新しいことを始めるのっていつもドキドキしますね」

初老のビクターさんに少年のような笑顔がはじける。

俺もなんかわくわくしてきたぞ。


話がまとまったところで〆が運ばれてきた。

焼き海苔で包まれたおにぎりの横には白菜の漬物が添えられ、木のお椀に豆腐のみそ汁がなみなみと注がれている。


今世初の米だ!

勢いよくおにぎりにかぶりつくと、具は塩鮭だった。くぅぅ~、うまい!

豆腐とわかめのみそ汁は鰹節のいい出汁が出ていて、ホッとする味だ。


ゼットンさんのメシもうまかったが、甲乙つけがたし。

ゼットンさんはゼットンさん、これはこれ、俺にはどちらも必要な味だ。


「デニス、最高だよ!明日の朝もよろしく!」

仕事でしばらく留守にするため、更新ストップします、すみません。次回更新は6月24日(月)を予定しています。

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