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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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月のうさぎ

「「ただいまー」」

満足のいく買い物ができて、元気よくポラリスの宿に帰ってきた俺たち。


「お帰り。どうだった?ザイオン」

モルガンがカウンターから顔を出した。

「すっげー広かった。俺がいたメイダロンの町は歩いて1分のところに店も市場も全部集まってたから」

「あはは、ここじゃぁ1分だと隣の食堂までしか行けないよ。夕食前に風呂に入る?」


風呂はありがたい。

部屋付きの専用の風呂とはいえ、蛇口をひねればお湯が出るわけではない。

モルガンに準備をお願いし、一度ヒューゴやスーザンと別れて部屋へ向かった。

「じゃあまた夕食の時に」「またあとでな!」


昼から買い食いと買い物でずっと歩きっぱなしだ。

楽しかったが地味に疲れている。今日ザイオンに着いたばかりだし。


部屋に入ると靴を脱ぎ、ソファーにボスンと座る。

俺にはもったいないほどの広い部屋だが余計な装飾がなくて落ち着く空間だ。

狩りや買い物に出かけた後、ここへ帰ってこられるのはすごくいい。


風呂はこじんまりした造りだったが、清潔で気持ちがよかった。

リンは風呂に入るといつもとろ~んとした顔になるんだよ。

「リン、気持ちいいな」

「このやど、すき~」

どうやらリンとこの宿は波長が合うようだ。「ただいま」って言ってたしな。


風呂に入ってさっぱりすると、リンにメイダロンの山の水を出してやる。

俺も木のカップに入れて一気に飲んだ。

メイダロンではまだ涼しさの残る初夏の気候だったが、ここザイオンはもう夏だ。

風呂上がりの冷たい水は最高に気持ちいい。


そのままソファーでまどろんでいると、ドアがノックされた。

「カイトさん、起きてる?晩ご飯いきましょ」

「メシいくぞー」


さてさて、「月のうさぎ」、何があるかな?


ポラリスの隣にその食堂はあった。

昼間は出ていなかった小さな立て看板に「月のうさぎ」と書かれている。


とはいえ、食堂がたくさんあるここザイオンで、この小さな看板はやる気がないとしか言いようがない。むしろ目立ちたくないようでさえある。

俺も言われなければ見過ごしていたかも。


「邪魔するよー」「こんばんわ」

カランとベルの鳴るドアを開けて、ヒューゴとスーザンが先に店に入る。

俺はリンを抱いてその後に続いた。


コートは宿に置いてきた。

いくら薄手とはいえ、そろそろコートの季節ではなくなってきている。

リンが入れる大きなポケットのついたシャツが欲しいところだ。


店内は4人掛けテーブルが3つと6人掛けテーブルが3つあるだけ。

3組ほどの客が座っており、満席というほどではない。


そして、いました先客。

6人掛けテーブルに一人で座り、満面の笑顔でこちらに手を振るビクターさん。

「お待ちしていましたよ」


「いるかなと思ったけど、ホントにいたな」

あきれ顔のヒューゴに対して、ビクターさんは悪びれた様子もない。

「待ちきれませんでしたからね。カイトさん、リンさん、ザイオンへようこそ」

心なしか「リンさん」の方に力が入っているよな。


「ビクターのおじいちゃん、こんばんは」

リンが元気よく挨拶し、ビクターさんはあっさりと陥落した。

「名前を憶えてくれたんですね!感激です!」


ビクターさん、リンのファンクラブに入る場合は、メイダロンにブリックというファンクラブ会長がいるから紹介しまっせ。


「お話ししたいことはいろいろありますが、まずは食事にしましょう。皆さん、座ってください」

ビクターさんの隣にヒューゴとスーザンが座り、向かいにリンと俺が座った。

ビクターさんの目の前のテーブルにリンを置いたのは俺なりのサービスだ。


「どれにしますか?」

そういって差し出されたメニュー。そこに書かれていたのは。


定食

・海鮮丼 20ギル

・アジの開き定食12ギル

・豚の生姜焼き定食 15ギル

・カレーライス 15ギル


つまみ

・枝豆 3ギル

・きゅうりとナスの浅漬け 3ギル

・たこわさ 3ギル

・あさりの酒蒸し 4ギル

・鶏のから揚げ 6ギル

・天ぷら各種 2ギル~

・揚げ出し豆腐 5ギル

・だし巻き卵 5ギル

など。


やっぱそうきたか!

予想はしてたよ。でも予想の斜め上をいったな!

これはすごい!最高だ。毎日通いたい。


「陛下がおっしゃっていた通りだな。カイトがすっごい嬉しそうだ」

国王というのは過去の使徒に関する情報を誰よりも持っているのかもしれない。

もしかしたら転生者であることも、前世の暮らしのことも聞いているのかな?


「はい、めっちゃテンション上がります!毎日来ます!」

俺の表情からか本能的にか、リンもここがおいしい場所であることを確信したようだ。

「ごはん~」

おお、リン。まさに言葉通り「ご飯」が食えるぞ。


「俺たちはだいたい酒を飲みながらつまみを数種類頼むが、カイトはどうする?」

「うわぁ、悩みます。つまみも惹かれるしいろんな種類を食べたいけど、定食って米とみそ汁がついてくるんですか?」


するとカウンターの奥から声がかかった。

「おうよ、定食にはごはんとみそ汁と漬物がつくよ!今日は豆腐の味噌汁だ」

「えー!どうしよう。どれも惹かれる」


迷い始めてしまった俺に、店主らしき男性が助け舟を出してくれた。

「飲みながらいろいろとつまんで、〆におにぎりとみそ汁を出せるけどどうだい?」

それにします!やった!


でもリンには一人前ないと物足りないだろう。

生姜焼き定食をリンに頼み、俺たちは一通りのつまみを注文した。


「酒はどうする?米の酒もあるよ」

いやぁ、どういうことだ。なぜここだけ日本なんだ。

リョージさんって人が残した遺産なんだろうけど、他には広まらずにここでだけ残されているのは謎すぎる。


しかし、理由はどうあれ、ありがたい!

「米の酒、いきます!」


店主はデニスと言い、モルガンの幼馴染らしい。

ミランダという女性(デニスの奥さん)が、2本の徳利と4個のおちょこを運んできてくれた。続けて枝豆と浅漬け、たこわさを持ってくる。

いわゆる「最初の一品」だ。


リンはそれを見て首をかしげている。

「ごはんじゃない?」


そうだな。今までは食事の後にまったり飲んでちょっとしたものをつまむことはあったが、最初からつまみと酒というのはリンにとっては初めてだな。

まあ、俺も今世では初めてだが。


「すぐにごはんも持ってくるからちょっと待っててね」

たぶん俺とリンの情報はすでに伝わっているのだろう。

ミランダもリンの扱いを心得ているようだ。


おちょこに酒を注ぎ、まずは乾杯だ。リン、ごめん、お水で我慢してね。

「カイトさんとリンさんとの出会いに、乾杯!」

「ザイオンでのたくさんの出会いに乾杯!」

今日一日で幸せな出会いがたくさんあったよ。主に食い物と飲み物との出会いだけどな。


日本酒を一口含む。

水で冷やしてあったのか程よく冷えており、すっきりとした味わいの辛口の酒だ。

「うまいっすね」


今世初の日本酒に感動。でも、やっぱり最初の一杯はエールがよかったかな、なんて思ってしまった俺は、やっぱり典型的な日本人。


つまみはリンの皿にも取り分けてやる。

「ちょっとだけだねぇ……」

残念そうなリン。すぐに肉が来るから待ってろ!


ほどなくして運ばれてきた生姜焼き定食は、リンが食べやすいように深皿に白飯とキャベツの千切り、そして生姜焼きを乗せてくれていた。

醤油のいい匂いがたまらん。次は俺もこれを頼もうかな。


リンの分のみそ汁も深皿に入れてくれている。

豆腐とわかめが入ったみそ汁。鰹節だろうか、だしのいい香りがする。

〆まで待てるか?俺。


「いっただきまーす」

リンは皿に顔を突っ込むと、勢いよく食べ始めた。

う、うまそう……。


思わずリンの皿に手を伸ばしそうになった時に、てんぷらの盛り合わせが運ばれてきた。小エビのかき揚げ、イカ、キス、各種の野菜の天ぷら、そしてちくわの磯辺揚げ!

天つゆと一緒に出されると、今自分がどの世界で生きているのか分からなくなる。


醤油や味噌だけでなく日本酒までこの世界で再現させたリョージさん(たぶん)。

すごい熱意だよな。

どれだけ日本食に飢えていたんだろう?


でもそのおかげで、俺のザイオン生活は幸せな予感しかない!

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