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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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海だぁ!

食堂「月のうさぎ」。


とても気になる情報をモルガンから仕入れたが、残念ながらその食堂は朝と夜しか営業していないらしい。俺とリンにとって目下の最重要課題は今日の昼メシだ。


「リン、ザイオンを探検がてら、おいしいご飯を探しに行こう!」

「ごはん~」


リンがぴょんっと跳ね上がり、リンにもたれかかってウトウトしていたエイミィの頭がゴンっとラグの上に落ちた。

「リンちゃん、や~ん」

リン、小さな子にはやさしくね。


「お昼はどこに行くんだい?」

アイノラに聞かれて俺はうーんと悩む。


「初めて来た街だから、とりあえずフラフラしてみようかな。海鮮食いたいし、海が見たいから港のほう?」


「ああ、それがいいね。海岸沿いは1番街から10番街までずっと、途切れることなく漁港や市場、食堂、屋台が続いているからね。初めて来た人は皆興奮して帰ってくるよ」


1番街から10番街の海岸沿いって5kmくらいあるんじゃなかったっけ?

その距離をずっと、そんな施設が続いているなんて、さすがザイオン。

おいしそうな予感しかない!


コートを羽織って立ち上がると、リンが小さくなって俺の足元に来た。

その様子を見てきゃっきゃと笑うエイミィ。

さっき頭をぶつけられたばかりなのに、タフな子だ。


立ち上がって部屋を出ると、小さなリンとエイミィが俺の後ろをとてとてとついてくる。

カルガモの親になった気分だな。

その後ろから見守るようにモルガンとアイノラ。


カウンターに戻ると、そこには見知った顔があった。

北の山脈への道中で出会ったヒューゴとスーザンの冒険者夫婦だ。


「よお、カイト!あれ?リンは……?お!いた!」

俺の足元にいるリンを見つけて顔をクシャリとさせるヒューゴ。

「ザイオンへようこそ。俺の街じゃないけどな!」

「カイトさん、いらっしゃい!」


偶然、じゃあないですよね?

思わず胡乱な目で見てしまうと、ヒューゴが頭を掻いた。

「そんな顔するなよ。ビクターさんに頼まれて、この宿に移ってきたんだ。ローガンス商会はリョージさんのおかげでここまで大きくなったから、カイトのこともほっとけないんだよ」


俺は俺であって、リョージさんとは関係ないんだけどな。

なんかリョージさんって人が自分の先祖に思えてきた。


「カイトを利用しようとするやつには気を付けたほうがいいが、ビクターさんに下心はないから心配ないぞ」

そういうヒューゴからも下心は感じられない。


「まあ、下心があったのはむしろ俺ですよ。王都に知り合いが欲しかったんで」

俺が素直に認めると、ヒューゴとスーザンが笑った。

「じゃあせっかく知り合いになれた私と旦那で、王都を案内しようか?」


ぜひ!

自由気ままに歩いても楽しいが、案内してもらうのはまた別の楽しさだ。


「間に合ってよかったよ。俺らはまた明後日から護衛に出るから、今日と明日だけしかいられないんだ」

「また北の山脈ですか?ビクターさんも一緒?」

そう尋ねるとヒューゴが首を振った。


「行先は北の山脈だが、ビクターさんは今回は同行しない。そもそも商会長が自ら馬車に乗り込むことが異例なんだ。しかもカイトが王都にいる今、ビクターさんはしばらく王都を離れないんじゃねぇか?」

「我慢できなくて、今夜にもカイトさんに会いに来ちゃうんじゃないかしらね」


モルガンとアイノラは、黙って俺たちの話を聞いていた。

「二人とも、ビクターさんのことは知ってるの?」

そう尋ねるとアイノラが微妙な笑顔になった。


「最近はめっきりご無沙汰だけどねぇ。あたしの父が生きていたころはビクターさんと父とよく二人で飲んではリョージさんの話を、そりゃぁ何度も、耳にタコができるほど何度もしてたもんさ」

えーっと、ビクターさんってちょっとめんどくさい人?


「カイト、ごはん~」

俺たちの会話に我慢しきれなかったリンの催促が入る。

「ごめん、ごめん。出かけようか」

俺はリンを抱き上げ、胸ポケットへ入れた。


「よし、昼メシだな!ヒューゴおじさんに任せろ!」

「自分でヒューゴおじさんとか言うかねぇ」

張り切ったヒューゴにスーザンが呆れている。

なんだかんだ、仲のよさそうな夫婦だ。うらやましいぞ!


いや、大丈夫だ。ここは百万人都市、ザイオン。

きっと俺にも素敵な出会いがあるはず!



ポラリスを出て、ヒューゴとスーザンに案内されながら、俺たちは2番街の大通りを南下し海へと向かう。


二人の説明によると、市場は海沿いに3つ。

中央市場が最も大きく、その他に東市場と西市場がある。

山側には市場はなく、代わりに商店が充実している。市民は通常、商店で買い物をするそうだ。しかし山で狩りをしてきた冒険者が海沿いまで売りに行くのは遠いため、山側に買い取り窓口だけあるとのこと。

そうか、必ずしも市場と買い取り窓口が一体なわけじゃないんだな。


「コリンバースで噂を聞いたよ、カイトはすごい収納魔法も持ってるって。今も収納にいろんな獲物を持ってるんじゃないか?売るなら案内するぞ」


「買い取り窓口じゃなくて個人に売ってもいいんですか?」

アクアスネークはリンがビクターさんのために狩った獲物だ。確実にビクターさんの手に渡るほうがいい。


「おう、加工のツテがある人なら直接買い取りも可能だぞ。なんかあるのか?」

ビクターさんがアクアスネークの皮を欲しがるかなと思って、そういうと驚いた顔をされた。


「そりゃ誰でも欲しいだろう。なかなか手に入らないからな。ローガンス商会でも何十年も前の古い皮を今も大事に利用してるんだ」


「リン、この前狩った水色のヘビは、ビクターさんが喜ぶって!」

「ビクターおじいちゃん!じゃあ、とどける?あ、でもごはん~」

ビクターさんのことはリンも気に入っているようだが、ごはんの方が優先度が高いらしい。やっぱりな。


「まずは昼メシだよな。ビクターさんはその後だ!」

ヒューゴがリンに声をかけた。よく分かっているじゃないか!


俺たちはヒューゴ達の案内を聞きながら歩き続ける。

「中央の5番街と6番街は国中や外国から最高級品が集まる高級店街だ。逆に東や西側は庶民的な店が多いがが、どっちも楽しいぞ。金がない庶民でも高級店を見に行くこともあるし、貴族や金持ちもわざわざ庶民街へ足を運ぶ」

おお!それは楽しそうだ。


今歩いている2番街の大通りには、八百屋や肉屋などの商店や食堂、宿などが並んでいる。屋台はザイオンの入り口にあたる山側と、海沿いに集中しているらしい。

肉屋ではコロッケを揚げているのか、いい匂いがして誘惑が半端ない。

リンはポケットから大きく身を乗り出して「あれ、あれ!」と主張しているが、もう少し我慢してくれ。


そんな話をしていると、磯の香りがしてきた。

海がすぐそこだ!

思わず走り出す俺。


大通りを走り抜け、突き当たったそこには……。

海だぁぁ!


山側から遠くに見た海とはまた違う、目の前に大きく広がる海!

海岸沿いに建ち並ぶ建物を背にし、海上に漁船や貿易船が並んでいる様は圧巻だ。

すごい!


前世では見慣れたはずの海に、今世初めて見る自分が感動している、不思議な感覚。

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