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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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ザイオンの我が家

ふかふかのラグの上にエイミィちゃんを降ろすアイノラさん。

するとなぜかリンは大きくなり、エイミィちゃんを巻き込むように横たわった。

幼い子供の相手をするときは大きくなるルールなのかな?


大きなリンのおなかにポフンと顔をうずめ、ポンポンとリンをたたくエイミィちゃん。

「エイミィよ、さんさい」

「リンだよー。なんさい?なんさいかなぁ」

リンは何歳だろう?生まれたばっかって言ってからなぁ、まだ0歳?


二人ともかわいいな。

モルガンさんもアイノラさんも目じりが下がっている。


「お茶をお持ちしますね」

アイノラさんが部屋を出ようとするのを俺が遮った。

「作り置きのお茶ならありますから、座りませんか?」


ストレートのアイスティーをグラスに入れてモルガンさんとアイノラさんに出す。

リンには深皿に甘めのアイスミルクティーを、エイミィちゃんには木のマグカップに牛乳を入れて手渡した。こぼさず飲めるかな?


「氷入りのお茶……。この季節の氷は一部の貴族や王族の特別な楽しみですよ。さすがですね」

モルガンさんがつぶやく。


「すみません。誰かに遠慮したり隠したりするのはやめたんです」

開き直った俺に、モルガンさんが笑った。

「もちろんです。カイトさんとリンさんの自由を妨げることができる人はこの国にはいません」

そうなのか?いやいや、ムダにいばり散らす貴族とか、いるだろ?この国にも。

俺は生え抜きのド平民だぞ。


氷の音をカランと響かせてアイスティーを一口含み、モルガンさんが話を切り出す。

「ご想像いただいているかと思いますが、私共の宿は200年ほど前から使徒様と深いご縁があります」

うん、やっぱりな。


「当時ここはとても小さな宿でしたが、2代前の使徒様が私共の先祖と懇意にしてくださいました。その方はザイオンの上下水道の整備にご尽力された方で、その方のお世話をするためにこの宿は拡張し、上水道を引き入れることを特別に許可されたんです」


モルガンさんが話を続ける。

「先代の使徒様、リョージさんにもごひいきにしていただき、この部屋をご利用いただきました。私の祖父からリョージさんの話は繰り返し聞かされたものですよ。まさか私の代で今代の使徒様をお迎えできるとは、身に余る光栄です」


身に余る光栄とか、そう言うんじゃないんだよなー、俺とリンは。

「俺たちはまだ何も成し遂げていませんし、単なるカイトとリンです」

俺の言葉にモルガンさんは静かに笑う。


しかし、この部屋って使徒専用なのか?

「リョージさんって方は60年前に亡くなられたんですよね。この部屋はそれ以来ずっと使われていないんですか?」

俺の素朴な疑問に、モルガンさんが首を振った。


「さすがにそれでは経営が成り立ちません。普段この部屋は商人や貴族などに1泊500ギルでお貸ししていました」


500ギル!5万円!ひぇぇ~。でもまあそうか。この部屋で5万円ならむしろ安いか。

とはいえ、俺たちが探しているのは定宿にできる部屋だ。

1泊5万円ずつ飛んでいったら、ドキドキして休まるものも休まらない。


俺の顔色が明らかに青くなっていたのだろう、モルガンさんが慌てて説明した。

「それはあくまで一般のお客様に対してです。カイトさんには1泊50ギルでご提供します」


いや、それはさすがに破格すぎだろう。1/10だぞ。

「この場所で宿を営めているのも、妻を失って幼い娘を育てながらも生活に困らないのも、過去の使徒様のおかげです。本来お金などいただかずにご利用いただきたいところですが、それだとカイトさんは納得していただけないかと思いまして」


「安いのはそりゃありがたいですが、俺はリョージさんとか過去の使徒とかとは何の関係もないですよ?」

「そうですね、カイトさんはカイトさんです。ただ、ポラリスの宿が代々使徒様にとって特別な場所であったことは私どもの誇りです。もしよろしければカイトさんにもご利用いただければ嬉しく思います」


こんな部屋に50ギルで泊ってしまったら、もう他の宿には泊れない体になってしまいそうで怖いな。いや、それはないか。忘れると決めたが、やはり底辺で過ごしたあの12年を忘れることはないだろう。どこに泊っても幸せだと思える自信はある。


「リン、この部屋好き?」

「ここがいいー。おにわもあるよ」

そっか、リンが気に入ったのなら否はないな。


「それではお世話になります」

俺は改めてモルガンさんとアイノラさんに頭を下げた。


「あ!モルガンさんもアイノラさんも俺のことはカイトと呼んでください。丁寧な言葉もいらないです。そのほうが居心地がいいんで」


「カイト……、ですか」

モルガンさんの言葉にアイノラさんがツッコんだ。

「“です”もいらないって言ってくれてるんだよ」


「カイト、じゃあそう呼ばせてもらうよ。カイトもあたしのことはアイノラと。ザイオンの母親だと思って頼っておくれ」

ですます調をやめたアイノラさんは肝っ玉母さんモードだった。いいね、この感じ!


「じゃあ私も。カイト、ここを自分の家だと思って過ごしてくれたらうれしい」

モルガンさんもいい感じだ。


「よろしくお願いします」

俺の言葉に今度は二人がツッコんだ。

「カイトが丁寧な言葉遣いって、おかしいでしょ」「お互い、遠慮なしだよ」


そう言われ、声に出して呼んでみる。

「モルガン、アイノラ」

二人がはじけるように笑った。


王都にも帰る家ができた、のかな?


「ただ、陛下がカイトにこの宿を勧めた本当の理由は、うちじゃないんだよな」

本当の理由?モルガンの言葉に俺は首をかしげる。


「隣の食堂「月のうさぎ」だよ」

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