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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第二章 王都ザイオン編
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ポラリスの宿

王都ザイオン編、始まります!

ザイオンに到着した俺は、リンの背に乗ったまま王都へと足を踏み入れた。


北東の丘に近いエリアは庶民的な住宅街だ。

木造の家もあれば、石造りの集合住宅もある。


王都では1番街から10番街までそれぞれに大通りがあり、石畳で舗装されている。

その脇の裏道は舗装されていないが、砂利や小石が敷き詰められ、砂埃が舞うようなことはない。

俺たちは2番街の大通りを進んでいく。一応、ポラリスの宿に行ってみようかなと。


王都の東西には2本の大きな川が流れ、王都の水源となっている。

その川を利用して上下水道が整っており、人口百万人都市にもかかわらず、不潔な匂いは漂ってこない。


そりゃ、ここに人が集まるはずだよな。

足を踏み入れたばかりだというのに、食堂や屋台、商店が立ち並び、多くの人が行き来する様子は、見ているだけでワクワクするもんな。


行き交う人々は大きな姿のリンとその背に乗った俺を見て一様に驚き、ざわつく。

「狼?」

「いや、フェンリルか?」

「まさかな」

フェンリルですよ~。まあ、慣れていただくしかないっすね。


「ごはん~?」

屋台の香ばしい匂いにつられ、リンがフラフラと吸い寄せられていく。

「リン、先に宿を決めよう!この街にはしばらくいるから、ゆっくりとおいしいものを探せるよ!」


「うーん」

名残惜しそうに振り返りながら、リンは俺の希望通り前へと進んでくれた。


碁盤の目のように整備された王都ザイオン。

2丁目35番地は簡単に見つかった。


大通りから一本裏に入った通りに、石造りの3階建ての建物。

「ポラリス」という看板が出ている。

ゼットンさんの宿より一回り大きいが、ザイオンでは小さな建物の部類だ。


この宿のどこがお勧めなのだろう?

木製のドアを開けると、カランカランとカウベルが鳴る。


食堂を併設していないらしく、エントランスには4人掛けと2人掛けのテーブルが1セットずつあり、その奥にカウンターがあるだけ。

シンプルな内装で、旅人や冒険者が普通に利用するクラスの宿のようだ。


「いらっしゃいませ」

奥から出てきたのは30前後の細身の男性。


そっか、男性か…………。残念。

いや、彼は悪くない。だけどさ、ちょっとは期待したんだよ。

もしかしたら若い女の子とかきれいなお姉さんが受付にいて……、なんてさ。


宿の男性は並んで入ってきた俺とリンを見て、細い目を大きく見開き、その後穏やかにほほ笑んだ。

「お待ちしていました。ようやくお迎えできました」


「お待ち……、してくれていたんですか?俺たち、ザイオンは初めてですが」

不思議に思って首をかしげると、リンの口からさらに不思議な言葉が漏れる。

「ただいまー」


「お帰りなさい」

男性が顔をクシャっとさせてリンを見つめた。


「リン、ここへ来たことがあるの?」

「はじめてだよー」

そうか、そうか、はじめてか。そういうことか、ってどういうことだよ!


もともと理解不能なリンだが、今日は最高に理解不能だぞ!


「おふくろ、エイミィ、とうとういらっしゃったよ!」

男性が奥へと声をかけると、年配の女性が幼い女の子を抱いて出てきた。


「本当に来ていただけたんだねぇ。こんな日が来るとはねぇ」

女性が潤んだ瞳で俺を見つめた。

……この女の子のおばあちゃん、だよな?


いや、女性も男性も年齢や性別で判断してはいけない。

分かっているよ。だけどさ、ほら、対象年齢ってあるじゃん?


そして女性に抱かれた女の子は3歳くらい?ミミリアちゃんよりはるかに幼い。

「おちゃくさん?」

舌足らずで話す姿はかわいいよ、可愛いけどな!


「失礼しました。私はポラリスの宿を経営していますモルガンと申します。こちらは私の母でおかみのアイノラ、それと娘のエイミィです」

戸惑っている俺に気づき、男性が紹介してくれた。


「初めまして、カイトと言います。この子はリンです。この宿へはその……、ある方にお勧めしてもらって……」

俺が言葉を濁すとモルガンさんも苦笑いする。


「承知しています。間もなくお二人がいらっしゃるだろうと、こちらにも連絡をいただいていました」


神獣や神の使徒との縁が深い宿なんだろうな。さすがの俺でもそれは分かる。

「ここではなんですから、まずはお部屋にご案内します」


その言葉を聞き、リンはちっちゃくなって俺のポケットに入った。

宿の部屋の狭さを理解しているようだ。


ちっちゃくなったリンをみてエイミィちゃんがきゃっきゃと笑う。

「ちっちゃ!ちっちゃ!エイミィよりちっちゃ!」

エイミィちゃんも十分ちっちゃいぞ。


モルガンさんに左手の廊下の突き当りにある部屋へと案内される。

俺たちの後ろにアイノラさんとエイミィちゃんもついてきた。


ドアを開けると、その先にあった部屋は……。

ゆったりとしたソファーがある広々としたリビング。

中央には何の毛皮だろう、大きなラグが敷かれている。


「この部屋は靴を脱いでおあがりください」

え、土足禁止?日本人のスピリッツを感じるぞ。


靴を脱いでラグの上を歩くのは、思いのほか気持ちいい。いいな、これ。


隣の部屋はベッドルームになっており、大人3人でも余裕で寝られそうな大きなベッド。

ベッドには分厚いマットレスにふわふわの羽毛布団。

いや、これ貴族向けの部屋だろ。


モルガンさんはそのまま部屋を通り過ぎ、掃き出しの大きな窓へと案内した。

「この庭はこの部屋専用となっています」


部屋で驚いてる場合じゃなかった。庭、やばい。

王都の中にあるため庭自体は広くないが、洗濯をしたり七輪で火を起こすには十分だ。

なにより驚くのは、庭に水路が流れていることだ。

普通だろって?いやいや、メイダロンなら普通だけど、ザイオンでは普通じゃない。


上下水道完備の王都とはいえ、さすがに蛇口をひねれば水が出てくるわけではない。

大河の水が王都内に引き込まれ、水路となって流れている。

その水は生活用水に利用されるが、一般の宿の庭に引き込まれているのは特別である。


「ここから隣の宿共有の庭にも出られます。そこには上水道が出ています」

上水道が一般の宿に!これは水路以上にすごいことだ。


王都内を張り巡らす生活用水とは異なり、上水道は山から引いた特別な水だ。大通り沿いに200mおきに公共の泉が作られ、飲み水や料理に使う水は皆そこへ汲みに行く。

宿の庭に引き込まれているなんて例外中の例外だろう。

上水道の引き込みが許されているのは上級貴族か王族だけじゃないだろうか?


リビングに戻ると、ベッドルームとは反対側のドアを開けて見せてくれた。

そこにあったのは、この部屋専用のトイレと風呂。

トイレは手動水洗で大きな水がめが置いてあるが、庭からすぐに汲んでこれるのだ。

便利なことこの上ない。


「すごいですね、この宿。俺なんかが泊まっていいのかな」


というか、この部屋一泊いくらだよ。金ならある!けどなぁ、しつこいようだが1ギルも持たない底辺生活から脱却して今日で何日目?まだ1か月だよ。

一晩だけならまだしも、高級宿を定宿にできる身分じゃないぞ。


「カイトさんのためのお部屋ですよ。座ってお話ししましょう」

ザイオンでも若い女の子が出てこない。いや出てくるけど若すぎる……。どうする?カイト。

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