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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
28/78

いってきます

第一章メイダロン編終了です。

それからの4日間はあわただしく過ぎた。


まずは買い出し。

どこに行っても必要な食材は買えるだろうが、リンに「おなかすいた~」と言われたときに即座に対応できるよう、準備をしておきたい。相変わらず親バカな俺。

肉と野菜はまだまだ大量にあるため、調味料や乳製品、卵、菓子などを買い足す。


それからゼットンさんと料理。

大鍋を買い足して大量のスープを作る。更に大きな木のボール数杯分のサラダに大量の揚げ物。トンカツ、チキンカツ、メンチカツ、各種コロッケ、鶏のから揚げ。リンの大好物が盛りだくさんだぞ!


ジョージさんのパンもまだまだ残っているが、再度ジョージさんの店でパン作りを手伝い、大量に収納。


山へ行き、すべての水がめをまた、あの最高にうまい湧き水でいっぱいにする。


そして設計図。

製紙機械の設計図を書き上げ、アーノルドに届ける。

「王都ザイオンに行くのはいいが、試作品が完成する頃には一度戻って来いよ」

アーノルドにくぎを刺された。


約束の3日目には、コリンバースで水鳥1000羽も売る。


そうこうしているうちに、冒険者をしている二組の夫婦がメイダロンにやってきて、入れ替わりにクリストフたちが旅立っていった。

えぇぇー、俺たちを見送ってくれるんじゃなかったのかよ。

と言いつつも、見送るのも悪い気がしない。


「じゃあな、カイト、リン!」

「またなー。俺らからは見つけられないから、俺らの居場所を見つけて会いに来てよ」

「いや、カイトとリンのことだ。どんなに離れていても噂が飛んでくるんじゃね?」

「確かに!またキマイラレベルの魔獣を倒してそうだよな!」


いやいや、伝説級の魔物は当分、遠慮したい。

クリストフ、ヨーク、ベレン、シモン、また会おーぜ!


4人組がいなくなったゼットンさんの宿はどこか静かだ。

入れ替わりでやってきた二組の夫婦もリンをかわいがってくれたが、何しろ大人だ。

あいつらがいい歳をして、うるさすぎたんだろうなー。


旅立ちの前夜。

俺とリンは二人で食堂にいた。


ゼットンさんとムーラさんはあわただしく働いており、他の冒険者はのんびりと夕食を楽しんでいる。マーティンやブリックの襲撃を受けるわけでもない。

まるで明日、普通に狩りに行くかのようだ。


夕食はボア肉のハンバーグ、ベイクドポテト、キャベツと人参のサラダ、コンソメスープ。あれ?これって……。


「はじめてたべたゼットンさんのごはんとおんなじー」

リンが嬉しそうにお皿に顔を突っ込んでいる。

リンも覚えていたか!


ゴルデスの家を出たあの日。

ぼろぼろだった俺が初めて出会った、最高にうまいメシ。

あの時と同じメニュー。


ゼットンさんは気付いてたのかな?

あの日、夢中で食べながら俺が泣いていたこと。

今日も変わらず、最高にうまいよ、ゼットンさん。



翌朝。


「ゼットンさん、ムーラさん、じゃあ、行ってきます!」「いってきまーす」

「おお、行ってこい」「カイトさん、リンちゃん、いってらっしゃい」


「ジョージさん、ルーシーさん、行ってきます!」「いってきまーす」

「気をつけてな!」「時々は顔出すんだよ」


「コーゲイさん、剣しばらくお借りします。行ってきます!」「いってきまーす」

「いざとなったら剣は壊れても構わん、思いっきりぶちかましてこい」


「ブリックさん、じゃあまた!」「ブリック、またねー」

「リン~、行っちゃうのか~!」


「フランクさん、ありがとうございました。マーティンもまたな!」「またねー」

「いつでも帰って来いよ」「親友が待ってるぜい!」


騒がしくもあっさりと、俺たちはメイダロンを出る。


行ってきます!そして、きっとすぐ戻ってきます(笑)。


ガルレイを素通りし、コリンバースへ向かった。

サマンサさんにはめずらしい薬草を入手したときに持ってこよう。


「ギャスパーさん、こんにちは。残りの水鳥の買い取りお願いします」「こんにちはー」


コリンバースの市場にある買い取り窓口へ行くと、ギャスパーさんの隣にアーノルドが足を組んで座っていた。

えーっと、領主から市場の職員に転職したのかな?なんてな。


「今日はミミリアちゃんとは遊べないよ。今日中に次の街へ行きたいんだ」

俺たちの旅は急ぐものではない。

でも旅立ったその日にビルケッシュ城に泊るのは、なんかちょっと違う気がするんだよなー。


「ミミリアなら大丈夫だ。メイドに作ってもらったリンのぬいぐるみで、楽しそうに遊んでるよ」


そっか、じゃあ何の用だろう。報奨金?

「いや、報奨金はもう少し時間がかかる。出たら口座に入金しておく」


と、アーノルドが一枚の紙を差し出した。

<ポラリスの宿 ザイオン2番街35丁目>


海に面した王都ザイオンは東西に東から1番街、2番街、と区切られ、一番西が10番街。海に面した最も南が1丁目、そこから北に向かって50丁目まで広がっていると本で読んだ。ニューヨークと同じ造りだ。過去、アメリカ人の転生者がいたのかな?


2番街35丁目ということはザイオンの中では北東側、ビルケッシュ領へ向かう街道に近い場所に位置しているということになる。


「この宿がどうしたの?」

「ザイオンでのおすすめの宿だ」

「…………誰のおすすめ?」

俺の質問に、そっと目をそらすアーノルド。


「アーノルドが王都に行くときに利用している宿、ってわけじゃなさそうだな」

「王都にタウンハウスを持たない貴族は、貴族向けのタウンハウスを借りられることになっている。だから私はこの宿には泊ったことがない」

じゃあ、誰のおすすめなんでしょうかねぇ。


俺がジト目で問いただすと、観念したようにアーノルドがつぶやいた。

「国王陛下の…………」


マジかぁ。国王が口出してくるのかぁ。

俺がどこに泊ろうが自由じゃないのか?


「陛下からの伝言だ。「騙されたと思って行ってほしい。後悔はしないはずだから」だそうだ」

国王にしては、なかなか腰の低い伝言だな。

無理強いじゃないのならまあいいか。


しかし、ポラリスの宿?何かあるのだろうか?

35丁目ということは商業地区でもなければ高級住宅地でもない。

海側の1~5丁目辺りが貿易や漁業で栄える商業地区、中心部の5番街や6番街で王宮のある北側40~50丁目が高級住宅地のはずだ。

王宮は王都の北側、小高い丘の上に建っているらしい


2番街35丁目。なかなか庶民的な響きだ。


「その宿にするかどうかは行ってみて決めるよ」

「ああ、それでいいと思う」


俺の買い取り予定に合わせてすでに応援部隊が待機しており、イーストダッグ千羽という数にも関わらず買い取りはあっさりと終了。


代金もその場で入金してくれ、今俺の収納と口座には合わせて90万ギル(9千万円)以上の金がある。報奨金が出る前に1億円を超えそうな勢いだ。

代わりに収納には売れる素材が何もなくなってしまった。


狩りをしながら王都を目指そうかな。


「じゃ、俺ら行くわ」

「時々は帰ってきて城にも顔を出してくれ。ミミリアが喜ぶ」

「うん、わかった。じゃあね」「またねー」


市場で領主に見送られるという不思議な構図の中、俺たちはコリンバースを出た。


さあ、行こう!リン!


リンの背に乗り、街道沿いに南を目指す。

コリンバースから王都ザイオンへ延びる街道は、北の山脈へ向かう街道より人の往来が多い。


徒歩の旅人や馬車の商人などを時々追い越したりすれ違ったりしながら、コリンバースから1時間ほど走ると、見慣れた4人の後ろ姿があった。

何ということだ。

3日前にメイダロンを出たクリストフたちに追いついてしまった。


「クリストフ、ヨーク、ベレン、シモン!」

背後から呼びかけると4人は一斉に振り向いた。


「マジかー、どっかで追い越されるとは思っていたけど、早すぎだろう」

「まさか3日目で追いつかれるとはな」

「カイトとリンは、今日メイダロンを出てきたのか?」

「ずりー」


すまん。朝メイダロンを出て、途中で買い取りまでして、昼には追いついちゃったよ。

「まあまあ、昼メシごちそうするからさ」

「バーベキュー?」

リンがうれしそうに跳ねる。


「いや、クリストフたちはあんまりゆっくりできないから、作り置きの料理にしようか」

徒歩で旅する4人は一日中歩いても30キロほどの移動だ。

のんびりバーベキューなどしてしまったら、今日中に次の町にたどり着けない。


街道脇の開けたエリアで俺たちは思い思いに腰掛けた。

収納しておいたスープと丸パンを取り出し、深皿に取り分ける。

スープはたっぷりのじゃがいもとベーコン、人参、キャベツを煮込んだトマトスープ。栄養満点だぞ~。


「なぜだろう?今一瞬、カイトがムーラさんに見えた」

「野菜もちゃんと食べなさい、ってか?」

笑いながら、がつがつと食べる5人と1匹。

旅立ち初日の最初のごはん。旅立ち感、皆無だ。


メイダロンで買い足したピッチャーに、アイスティーを作りおきしてある。

冷たいお茶とクッキーで食後の休憩を少しだけ取り、俺たちは立ち上がった。


「よし、行くか!」

「俺とリンは狩りをしながら行くよ」


じゃあな、今度こそまたな!

いやまたすぐ会うんじゃね?

ばいばーい!


そう言って俺たちは別れた。

うん、間違いなくまたすぐ会うな。そんな予感しかない。


「リン、狩りでも薬草摘みでも、なんでもいいよ。リンの行きたいところへ!」

「じゃあねぇ、あっち~」

ここからはリンの本能のおもむくままだ。


俺たちは街道を東に逸れ、山の中へ分け入る。

道なき道をリンはどんどん突き進み、ふた山ほど越えたところで立ち止まった。


暗く生い茂った木の根元に、場違いな水色の生き物がうねっている。

図鑑で確認してみると、アクアスネークと出てきた。


「ビクターおじいちゃんのばしゃにのってた!」

ビクターさんの馬車?ということは、氷を包む特殊な皮ってこのヘビかな?


何匹いるのだろう?

全長2メートルくらいだがそれほど太くない。氷を包むには何匹分か必要になりそうだ。

「よし、狩ろう!」

「いっくよー!」


バッシュ!俺の剣がアクアスネークを切り裂き、ヒュンっとリンの風が舞う。

一瞬にして3匹のスネークが倒れていた。

その向こうにもくねくねとした水色の生き物。

「リン、あっちにもいる!」


この近くに巣があるのか、倒してもたおしてもその先にうねりながら進むヘビ達。

結局俺たちは16匹倒した。


「おじいちゃん、よろこぶかなー」

どうやらリンもビクターさんを気に入ったようだ。

きっちり買い取ってもらうけどな!


アクアスネークを倒した後、俺たちは薬草摘みに切り替えた。

初めて見つけた時は興奮した水晶苔も、リンが当たり前のように見つけてくる。

王都は人口も多い分、怪我に効く水晶苔の需要も多いだろう。

採れるだけ採っておこう。


何種類かの薬草を摘んだところで今日の採取は終了。

「リン、街道に戻って町を目指そう!今夜の宿を探さないと」

「かいどう?」

「いろんな人が歩いてた道だよ」

「わかったー」


俺たちは街道に戻り、そのまま一気に南下する。

ビルケッシュ領から100kmほど南に位置する領の領都。今夜はここに泊ろう。

素朴で清潔そうな宿を見つけてドアを開ける。


「すみませーん、今夜一晩泊りたいんですけど、部屋ありますか?」

「いらっしゃい。一人部屋ね。素泊まりで40ギル、お風呂に入るなら10ギルよ」

宿のおかみさんが迎え入れてくれた。


素泊まり?

「食事はないんですか?」

「ごはん、ない……?」

リンが絶望的な目で見上げる。


俺の胸ポケットから聞こえた声に、おかみさんが一瞬ぎょっとしてきょろきょろと見まわした。そして俺の胸にいる小さな白いふわふわのリンに気づいて、相好を崩す。


「あらあら、大丈夫よ。この界隈には料理屋や飲み屋がたくさんあるから、宿では食事を出さないのが普通なの。向かいのお店でも晩ごはんや朝ごはんが食べられるわよ」

そうかー。

ゼットンさんの宿しか知らないから、宿では食事が出るのが当たり前だと思っていた。まだまだ世間知らずなんだなー、俺。


風呂に入ってさっぱりした後、向かいの料理屋へ入る。

メニュー表を見ながら「何食べる?」と聞くと、キョトンとするリン。

だよな。今までは座ったら自動的に料理が出てきてたもんな。

自分で選ぶのは初体験だ。


メニューを選んでと言われてもピンとこないリンには、ポークソテーとかぼちゃのサラダを、俺はビーフシチューとコールスローを注文した。

「ボクとカイトのごはんがちがう!」

おお、そんな些細なこともリンには初体験か!

俺も今世では初めてだけどな。


旅っていうのは些細な初体験の積み重ねなのかもしれない。


「カイト、ひとくちちょうだい」

「リンのポークソテーも一口くれよ」


おいしーね。

ああ、今日もうまいな。



それからリンと俺は、狩りや薬草摘みを楽しみながら、ザイオンまで400kmの距離を6日かけて旅をした。


人の往来の多い街道沿いではなかなか獲物は狩れないと言われるが、リンにかかれば2山3山は簡単に越える。結果、旅の途中のついでとは思えないほどの獲物や薬草、果物が収納に満載だ。


そうしてたどり着いた王都ザイオン。


王都の北側は低い山になっており、皆、その山を通って王都に入る。

山のふもとからは起伏のない平地が広がっており、見渡す限り建物が建ち並ぶ。

それが王都ザイオンだ。


俺たちは北東側の山側からザイオンへと入った。

中央の山側には王宮が建っているはずだが、ここからは見えない。


俺たちのいる山の上からは、教会の高い尖塔や石造りの高い建物など、王都の全貌が見渡せた。遠くその先には海も見える。


海……。


ここがザイオン。この国の中枢。

ここにはどんな出会いが待っているのだろう。

思ったより長くなってしまったメイダロン編。お付き合いいただき、ありがとうございました。次回から王都ザイオン編、始まります!

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