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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
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量刑確定

午後のこの時間、ゼットンさんの宿は閑散としている。

冒険者は狩りに出ており、ゼットンさんが夕食の支度を始めるには早い。


「「ただいま!」」

無人のカウンターに声をかけると、奥の部屋からゼットンさんとムーラさんが出てきた。

「おう、お帰り!」「お帰りなさい、ケガはない?」


いつもと同じ、ただいつもより少しだけ心配してくれている。

それがなんだか心地いい。


「ありがとうございます。俺もリンも大丈夫です。コリンバースの人も皆無事です」

そうか、それはよかった。あっさりと答えるゼットンさん。


「おみやげー、キマイラ!」

ポケットから身を乗り出し、得意げに報告するリン。


「あ、そうなんです。キマイラの肉、厨房に出していいですか?」

そりゃいいけどよ、それって貴族や王族が食べる超高級肉じゃねぇか?

そう気にするゼットンさんに俺は笑った。

「そんなことないですよ。コリンバースではマッドブルと同じ値段で領民の皆さんに売ってもらいました」

それはまたカイトらしいな、ゼットンさんも笑った。


「さすがに俺もキマイラの肉は扱ったことがないな、さてどうするか……」

キマイラの肉と向き合うゼットンさん。


夕食も楽しみだ。でもさすがに疲れたな。

少し休みますね、そうムーラさんに声をかけ、部屋へ向かった。


昨日のこの時間にここを飛び出してから、怒涛の24時間だったな。

固い木のベッドがなぜか心地いい。


気付けば俺は熟睡していたようだ。

階下のにぎやかな声で俺は目を覚ました。

もう夕方だ。え?俺、2時間近く寝たのか?

昼寝なんて、俺もいい身分になったもんだ!なんてな。


俺と一緒に爆睡していたリンを抱き食堂に降りると、予想通りクリストフたちが帰ってきていた。

「お!ヒーローのお目覚めだ!」

「お帰り、カイト!リン!」


今日もいい猟果だったのか、ご機嫌な4人に迎えられる。

「どこまで話を聞いてるんだよ」

俺はリンに乗って30分ほどで行き来しているが、メイダロンとコリンバースは30kmも離れている。どうやって情報が伝わっているのか。


「昨日連絡に来た騎士の人が言ってたぞ。領都を襲うキマイラ2体をカイトとリンが一瞬で倒したって」

「燃え盛るコリンバースを救ったって!」

ああ、また大げさに伝えてくれたもんだ。

だけど褒められているというよりはどちらかというといじられてる気がするぞ。

ま、いっか。


「ゼットンさん、晩メシはなんですか?」

ゼットンさんはキマイラをどう料理するんだろう?わくわくしながら尋ねる。

「おお、それなんだけどな。調理するの、やめたわ」


え?なんで?

俺とリンがキョトンとすると、いたずらが成功したような顔をしてゼットンさんが七輪を二つ取り出した。

「こんないい肉、目の前で焼きながら食うのが一番だろ!」


焼き肉だー!大賛成!

俺も自分の七輪を取り出す。


「ジョージさんたちにも声をかけていいですか?」

「そういうと思ってすでに声をかけてあるよ。コーゲイさんは来ないだろうから、よかったら肉を持っていってやってくれ」


ああ、そうだ。折れた剣の相談もしなきゃいけないんだ。

「じゃ、ちょっと行ってきます!」


狭い町だ。宿から1分とかからない。

「コーゲイさん、こんにちは!やっぱり魔石の剣、折れちゃいました」

そう言って店に入ると、「まあ入れ、もう入ってるな」と奥から声がかかった。


カウンターに折れた剣を置く。

「もたんかったか。まあ一度だけとはいえその役目は十分に果たしただろ」

「はい、この剣があったからこそ被害を最小限にできました」


「報奨金もたっぷり、だろ?」

コーゲイさんがニヤリとした。

ええ、おかげさまで。まだ入金はされてませんけどね。


「さすがにまだアーノルドも最強の剣は見つけとらんだろう。一時しのぎになるような剣はあったかな……」

店頭にはそれらしき剣はないようで、コーゲイさんが奥に下がった。


すぐに一本の剣を手にして戻ってくる。

つばに簡素な装飾が施され、小さな魔石が2個ついている。

持ってみるとじんわりと、だが確実な魔力があふれ出す。

この前のとはまた違うタイプだ。


「これは売れんが、しばらく貸してやる」

え?それって大事な剣なんじゃ?また折れるかもしれないし……。

俺がためらっているとコーゲイさんがカッカッと笑った。


「この剣が折れるような魔獣が出てくるのが先か、最強の剣を見つけるのが先か、魔獣との勝負だな」

「でもコーゲイさんが大切にしている剣ですよね?」

「まあな、でも人の命よりは大事じゃぁないぞ」

コーゲイさん、さすがっす。


最強魔獣との戦いなんて、俺もそうそう出くわしたくはない。

「ではお借りします。出番がないことを祈ります!」


大事な剣を預かり、代わりにキマイラの肉を渡す。

「あ、もう少ししたら俺この町を出ると思うんですけど、その時も借りていっていいんですか?」

「おお、いいぞ。どうせもう使ってない」


旅に出てもメイダロンにはちょくちょく帰ってくることになりそうだな。

ま、それも悪くない。



宿に戻ると、ゼットン夫妻や4人組に加え、ジョージ夫妻、フランクさんとマーティン、ブリックが集まっていた。2日前と同じメンバーだ。


その中でフランクさんとマーティンが難しい顔をしている。

「ゴルデス夫妻の量刑が確定した。カイト、どうする?一人で聞くか、ここで話をするか?」


その言葉に俺は思わず息を飲む。確定したんだ……。


ここに集まっているメンバーをぐるりと見渡してみる。

ずっと俺のことを気にかけ、温かく見守ってくれた人ばかりだ。

「ここで聞かせてください」


それぞれが椅子に座り、フランクさんとマーティンが立ったまま話を切り出した。


「まず量刑だが、二名とも6年の強制労働となる」

6年……、それが短いのか長いのか、この刑が軽いのか重いのか、俺には分からない。


「カイトには納得いかない結果かもしれないが、カイトが虐げられてきた期間が12年。同じ年月を二人で償うと判断された」

ゼットンさんとジョージさんも頷いている。妥当な判決なのかもしれない。


「罰金及び慰謝料に関しては、すでにゴルデス夫妻の預金と自宅の金は差し押さえられている。その中からカイトには7万2千ギルが支払われる。中労働の借金奴隷、年6千ギルと同額を12年分支払うという考えだそうだ。また、ミアさんには慰謝料として1万ギルが支払われる」

あいつら、そんなに貯めこんでいたんだ。

まあそうか、元養父のグレアムは毎日確実に何かしら仕留めていたもんな。


「二人は、何故はるばるレーヴェンス領から俺をさらってきたのか、話しましたか?」

どうしてもそれが謎なのだ。個人的な恨みでもあったのだろうか?

「いや、何も言わない。相変わらず、森でさまよっていたお前を保護しただけだと主張しているよ」


これだけ証拠が揃ってるのに、まだそんなこと言ってんのか、あいつら。

そうつぶやいたのはブリックだ。

ブリックはゴルデス夫妻の俺への仕打ちに関して証言をしてくれたらしい。


「彼らがレーヴェンス領まで行ってカイトをさらってきたことは、カイトの記憶だけでは証明できなかった。だが、ナタリアがカイトの魔力を封印していたことは証明できた。その力も確認済みだ。カイトに対して何らかの悪意を持って家に置いていたことは立証されたよ」

悪意か。そうだよな、あの日々は悪意以外のなにものでもなかったよな。


「もう一つ聞いてもいいですか?」

俺の質問に「いくつでも」とフランクさん。

「俺がもらう7万2千ギルを、ミアさん、母に渡していただくことはできますか?」


俺の言葉を聞き、フランクさんが優しく笑った。

「カイトはそう言うんじゃないかと思ったよ。ああ、可能だぞ」

「よかった。じゃあ、それでお願いします」


「ミアさんに会いにいってやらないのかい?」ルーシーさんがまっすぐに俺を見る。

「そうよ、カイトさん。お金も大事だけど、カイトさんの元気な姿はお金には代えがたいものよ」ムーラさんも同じ目で俺を見つめる。

うっ、女性陣の視線が刺さるぜ……。


「そ、そのうち……」

しどろもどろになる俺を援護するように「まあ、焦らすなって」とゼットンさんがムーラさんの肩をたたく。

「カイトのペースでやらせてやろうよ」ジョージさんもルーシーさんに声をかける。

いやぁ、ありがたい。


「俺からの報告は以上だ」

フランクさんの言葉を受け、ブリックが立ち上がった。

「よし!今夜はお祝いだ!」


何のお祝い?俺の問いかけに、カイトが本当の意味で自由になったお祝い!キマイラを倒したお祝い!超高級肉キマイラを食べられるお祝い!と好き勝手にいう面々。


神妙な面持ちで話を聞いていた4人組も勢いよく立ちあがり、ゼットンさんの指示の下で七輪の炭に火を起こし始めた。


リンはテーブルの上でわくわくを抑えられずきょろきょろしている。

夕べも今日の昼もキマイラ肉だったけど、やっぱり焼き肉は別格だよな!


ゼットンさんが、肉の乗ったトレーを運んでくる。

同じサイズに切り揃えられたきれいな霜降りの肉。

その後ろからピーマンや玉ねぎ、かぼちゃ、ナスなどの野菜が乗ったトレーをムーラさんが持ってきた。

「言っても無駄だと思うけど、野菜も食べてね」

そりゃ、無駄だろうなー。


トングで肉を挟んで焼き始めたベレン達を見て、ふと思いついた。

収納に入っている薪の中から固そうな枝を選びナイフで削ってみる。

刀剣の魔力のおかげでサクサクと削れていくよ。まあ、明らかに魔力の無駄遣いだが。


そうして出来上がった2本の棒。そう、菜箸だ。

箸で肉をつまみ、網の上に乗せていくと、みんなの視線が集まった。

「カイト、なんだそれ?単なる棒だろ?何の魔法だ?」

え?魔法?いやいや、箸だけど?


「魔法じゃないよ。慣れれば誰でも使える。やってみる?」

ベレンに菜箸を渡すとさっそく挑戦。って、まあ初めてで使えるわけないよな。

肉を挟もうとしてもまったく挟めない。

「なんでだ?なんでカイトは挟めるんだ?ちっくしょー!」

年季が違うよ、年季が。ま、この体になってからは初めて使ったけどな。


「ベレン!棒切れで遊んでんなよ!肉が焦げるぞ!」

クリストフの声で慌ててトングを持ち直すベレン。

その隙にマーティンが箸を持ち、ナスを持ち上げようとしている。そして失敗。


「よし、焼けた!食うぞ!」

クリストフの言葉で肉に突撃するヤローたち。

「うんめぇ」「なんだこれ?」

「よく味わえよ!一生に一度食えるか食えないかだ!」

大騒ぎで食べ始める。


味付けは断然、塩胡椒とレモン汁だが、たれもいい。いやぁ、やっぱりうまいな!

しかし3台の七輪に対し、大人12名とリン。

まったく火が追い付かない。


「お前、それ、俺が焼いてたやつ!」「えー、名前書いてなかったし」

男子高校生かよ!というレベルの争いが繰り広げられている。


「ボクも!ボクもたべる~!」

リンの言葉に、低レベルな戦いをしていた過保護な男たちがはっとした。

「任せろ!すぐ焼いてやるからな!」


一方、ジョージ夫妻、ゼットン夫妻、フランクさんの大人組はちゃっかり1台の七輪をキープして、大人のペースでゆったり焼いている。

「キャトルの霜降りも十分にうまいが、これはまた別格だな」

「ああ、脂が甘いなんて初めてだよ」

「こんなおいしいお肉、私たちがいただいてもいいのかしら」

男子高校生組とは世界が違う。

ちなみにブリックは男子高校生組。若い。


せっかくワインを買ってきたが、焼き肉にはやっぱりエールである。

今日のエールは大人組のおごりで、俺たちはエール片手に肉を奪い合った。

いや、肉自体は大量にあるんだよ。火が追い付かないだけで。


七輪をフル回転させてひたすら肉を焼き続け、ようやく腹いっぱいになった俺たち。


一昨日の残りの生ハムを切ってもらい、俺が買ってきたワインを出して、二次会モードに突入だ。


「あいつらの刑も確定したし、そろそろカイトはこの町を出るのか?」

ワイングラスを片手にマーティンが俺に尋ねる。

18歳のマーティンにはワイングラスは似合わないな。俺も人のことは言えないが。


「いや、3日後と6日後の二回、コリンバースで獲物を売る約束してるから、そこまではいるよ」

「そっか、6日後か」

マーティンのその言葉で、俺の旅立ちの日が決まったようなものだ。

6日後か。そうだな、6日後だ。その日にメイダロンを出よう。


「どうする?派手に見送りするか?ビルケッシュ領のヒーローだからな!」

「やめてくれぇぇ。そんなことされたら帰ってきづらくなるだろーが。ジョージさんのパンがないとリンが泣くんだよ」


お腹いっぱいでウトウトしていたリンが急に立ち上がった。

「ジョージさんのパン、ない?なくなっちゃう?」

大丈夫だから、一回落ち着こう、な?


いつでも帰って来いよ~。

ジョージさんとルーシーさんは嬉しそうに俺たちの会話を聞いていた。

「ここを出たら、王都に行くのか?」

ジョージさんの問いかけに、俺は迷わず答える。


「はい。海が見たいし海鮮も食べたいから、まずは王都ザイオンに行こうと思ってます」

「そうか、王都は俺なんかよりずっとうまいパンがあるんじゃないか?」

「おいしい選択肢が増えていくのはいいですね!俺も楽しみです。でもジョージさんのパンは死守です」


これからもたくさんのおいしいものに出会えるといい。

でも今までに出会ったおいしいものも大切にしたい。


「王都へ行くなら途中にある俺らの故郷、カリオテ村にも顔を出してくれよ」

クリストフの言葉にベレンも賛同する。

「俺らも久しぶりに一度カリオテに帰ろうかって言ってるんだ。うまくいけばカリオテで会えるぞ」


それも楽しそうだな。

よーし!俺とリンの未来を、楽しいとおいしいで満たしていこう。

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[気になる点] 禁固刑は「労務作業のない身柄拘束刑」なので強制労働など以ての外です
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