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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
15/78

マッドブル

思いがけずコリンバースまで足を延ばしたにもかかわらず、メイダロンに帰って来た時にはまだ日が高かった。リン、さすがだ。


「ただいま帰りました!ガルレイだけじゃなくてコリンバースまで行ってきたんです。ゼットンさんたちも一緒にケーキ食べませんか?」

そう声をかけると、ゼットンさんが呆れた顔で出てきた。


「お前な、コリンバースまで行ってきましたっていう時間じゃねぇだろ」


確かに。ここからガルレイまで徒歩片道2時間。そこからコリンバースまで片道4時間。そもそも日帰りする距離じゃない。


まあ、カイトだからなぁ。どこか呆れたように言われてなんか納得がいかない。

「どうだった?コリンバースは」


「石畳の街並みがきれいでした。あ、ギャスパーさんに会いましたよ。ゼットンさんによろしくって」

ギャスパーか、元気そうだったか?ゼットンさんが目を細める。


「はい、元気でした。残ってたキャトル1頭とシルバースネーク1匹買い取ってもらったんで、今俺、セレブです」

それはすげぇな、稼ぎ頭だな。ゼットンさんに感心された。


お茶を淹れようと湯を沸かしはじめたところで、クリストフ達4人が帰ってきた。

早いな!

「リンのお陰ですぐにボアを見つけることができたよ。ボア3頭、目標達成!」


ということで、みんなでティータイム。

ケーキの乗ったトレーを出すと、ムーラさんの目の色が変わった。

「なにこれ?今、コリンバースではこんなのが流行ってるの?」

流行っているかどうかは分からん。セレブな食べ物だしな。


4人もトレーいっぱいのケーキに驚いている。

「王都とかで見たことあるけど、これに20ギル払おうと思ったことがねーな」

だろうね。君らはケーキ1個よりエール4本だろうね。

「それをトレーいっぱい買ってくるって、やっぱりカイトは貴族か!」


貴族どころか底辺だったよ、ついこの前まで。


「好きなの選んでください。リンも一つだけだよ」

リンはじっくり見て、ショートケーキを選んだ。

他のみんなもそれぞれ好きなケーキを選ぶ。俺はチーズケーキにした。


前世の記憶と比べるとケーキは素朴な味だった。田舎のケーキ屋さんで売っているような昔ながらの味。でもこの世界では十分に洗練されていると言えるだろう。

紅茶とケーキの優雅な時間。俺もセレブになったもんだ。


リンの口の周りはクリームだらけだ。

それを前足でふき取ってぺろぺろ舐めている。後で拭いてやろう。


セレブとは程遠い4人組も神妙な面持ちでケーキにフォークを入れている。

「う、うめぇ……」

「うまいけどこれ1個で串焼きが何本買えるか……」


ケーキの後、揚げたてで収納してある芋団子を出すと、4人は通常モードに戻った。

「やっぱ、俺らにはこれだよな」

それ、2個で1ギル。


それから俺たちは、夕食の時間までまたカードゲームをして過ごした。

大富豪にハマったのはクリストフたちだが、俺もこの世界で初めて触れる娯楽にちょっとハマってる。こういう時間って必要だったんだな。


夕食はパンにラタトゥイユとチーズをのせて焼いたものとピーマンの肉詰め、オクラとかぼちゃとナスの素揚げ。

さっと揚げて塩を振っただけの野菜がうまいこと!


ゼットンさん、俺の収納にはまだまだたくさん野菜が入ってますよー。肉も!



翌朝。

「リン、今日は何をしたい?」


朝食を食べながら俺はリンに聞いてみた。

金ならある。

しかし、狩った獲物や薬草はすべて売れてしまい、収納には自分たち用の肉しか残っていない。


ちなみに朝食はオクラとチーズの肉巻きに、キャベツとソーセージのスープ。

前世の一人暮らしの時よりここの食事はレベルが高い。


「うーんとね、バーベキュー!」

そうか、バーベキューか。

「じゃあ、山へ行くか!狩りをしたり、薬草探したりして、お昼はバーベキューにしよう」


昼からバーベキュー……、うらやましい……。

出かける支度をしていた4人組が振り返った。

「クリストフたちは狩りの日の昼メシはどうしてるの?」


4人は基本、昼は食べずに狩りをするそうだ。帰って来た時に屋台の串焼きを買う程度だとか。

「朝晩、ゼットンさんのメシを食えるだけでも俺らには贅沢なんだ」

それは分かる。よーく分かる。以前の俺からしたら1日1食でも贅沢だ。


しかし俺はリンに腹いっぱいうまいものを食べさせると決めたんだよ。

それだけは譲らない。


「リンにはクリストフたちがどこにいるか分かるの?」

「わかるよー。とおくてもだいたいわかる~」

「じゃあ、お昼ごろ4人の居場所が分かったら合流して一緒にバーベキューするか!」


なんだよ、そのスペシャルサービス!俺らカイトになんもしてやってねぇのに。

そうざわつく4人だが、うまいものは大勢で食った方がうまい、ただそれだけだ。


「みんなでバーベキュー!」

リンが嬉しそうなのが一番だしな!


「「「「「行ってきます!」」」」」「いってきまーす」

「おう!気をつけろよ!」


町を出たところでクリストフたちと別れ、俺はリンにまたがった。

「リン、今日は好きな所へ走っていいよ。魔獣や薬草見つけたら教えて!」


「こっちにする~」

リンは北に向かって走り出した。


リンの背に乗って走る時間はそれだけで幸せだ。

たとえ収獲ゼロでもいいと思えるほどに(リンに限ってそれはないのだが)。


気持ちいい風に吹かれて走ること30分。

「あそこ!」

急に立ち止まったリンが指し示す先にはマッドブルが6頭集まっていた。


お、おおう!いきなりマッドブルか。

1頭1トンはあるかという茶色の巨体が草の上でくつろいでいる。

それだけ見ると牧歌的だが、やつらは敵とみなすと全力で突進してくるのだ。


封印されていた記憶にあったな。俺の父さんがマッドブルに襲われたって。

大丈夫か?


「リン、グラスキャトルとちがってマッドブルは狂暴だから気を付けないと」

「きょーぼー?」

「心してかからないとこっちがやられるってこと」


リンは俺の言ってることが心底わからないという顔をした。

「ボクもカイトもやられないよー。ぜんぶたおしていい?」


もちろんだ。マッドブル相手に遠慮している場合ではない。

生かしておけばこっちがやられる。

「ああ、全部倒すぞ!」


俺の言葉を合図に、リンは走り始めた。

俺を乗せたまま魔法を放つリン。

よし、俺も行くぞ!


リンの背中から跳ねると、助走もないのに大きく飛び上がった俺。

木の幹に足をついてさらにジャンプし、そのまま1頭のマッドブルに剣を振り下ろす。

スパン!


すげぇぇ。魔力って、マジすげぇ。前世、今世通じて運動神経がいいとはとても言えなかった俺には、自分で自分の動きが信じられないよ。


おっと、感心している場合ではない。別のマッドブルが俺に気づいて突進してくる。

もう一度剣を構え、助走をつけて飛び上がり、そのまま切りつけた。スパーン!


ふぅぅ、危なかった。

っていうか、今の俺、すごくない?

そう思って振り向くと、リンが残りの4頭をあっさり倒した後だった。

リンの前でかすむ俺……。


しかし、マッドブルの買い取り価格ってどのくらいなんだろう?

グラスキャトルより一回り大きいし、皮も靴やカバンに利用される。

4~5千ギルくらいになるかな?そうだといいな。


6頭を収納にしまい、一息つく。

宿を出て1時間足らずですごい収獲だ。


「リン、次はどこへ行く?」

「うーんとねぇ、あ!いいにおいがする!」


リンが吸い寄せられるように山の中に入っていく。

慌てて俺も追いかけると、たわわに実った桃の木があった。

すごい!いつも腹を空かせていたあの頃、山でこれを見つけられていたら。

まあ、ここはあの家から遠く離れた場所だから無理な話だが。


う、うまそう……。

一つもぎ取り皮をむくと、つるんっとむけた。

ガブリとかじると、ぽたぽたと果汁が滴り落ちる。

みずみずしい。そしてとろける甘さだ。


「ボクも!」

おう!ちょっと待て。今むいてやるからな。

皮をむいた桃を食べやすい大きさにナイフで切り、皿に入れて出してやる。

間違って種を食べてしまっては大変だからな。リンに過保護すぎることは否定しない。


「おいしいねぇ」

リンも夢中で食べている。


ああ、うまいな。リンと出会ってからずっとうまいな。

これは以前リンが言っていたセリフだったか。

俺と出会ってからずっとおいしいと。


それから俺は木箱二箱分の桃を収穫した。大量だ!


昼にはまだ早い。さて、どうしよう。

「リン、他に何かある?」


すくっと立ち上がり、きょろきょろと見まわしたリンは、何かを見つけたようだ。

「カイト、のって~」


リンの背に乗り、山の奥深くへと進んでいく。

うっそうと木が生い茂る薄暗い中を走ると、突然木々の間隔が空き、日が差し込む場所に出た。

そこでリンが立ち止まる。

「ここだよー」


ここ?ここに何があるんだ?

足元を見ると、木の根元に沿って青い実が地面の上にころころと実っている。

俺は急いで薬草図鑑を出した。


これって……、瑠璃いちごだ!


血液に作用し、血液関連の病気すべてに効く。

つまり心臓病や、血管の詰まりによる脳の病気にも効く、神薬だ。

栽培はできず、なかなか出会えない貴重な実。

「でかした、リン!」


俺はかごを取り出し、採れるだけの瑠璃いちごを摘んでいく。

これだけでどれほどの人が助かるのだろう?

次に出会えるのはいつになるのか分からない。

1時間かけて、かごいっぱいの瑠璃いちごを摘んだ。達成感!


「お待たせ、リン。昼メシにしようか。クリストフたちのいるところ分かる?」

「うん、わかるよ。バーベキューだね!」


リンは俺を乗せると迷わず走り出した。

クリストフたち、今日もいい収獲があったかな?


メイダロンの北西10kmほどの場所で4人はビッグホーンディアの解体をしていた。

「カイト!リン!ほんとにきたんだ。すげぇな!」


「ビッグホーンディアを狩ったんだな、よかったな!」

「だろ?まあ、カイトとリンはもっとすごいの狩ってるんだろうけどさ」

うん、マッドブル6頭。って、言うかどうか迷うとこだ。


「おなかすいたー」

リンの言葉に、過保護な男5人のスイッチが入る。

「おお、すぐに準備するからな!」


収納からボア肉とキャトル肉、ソーセージを出してトレーに乗せると、ヨークとシモンが、肉を適当な大きさにナイフで切って金串に刺していく。

その間にクリストフとベレンの年長組が火をおこす。


5人でやると早いな!って、あれ?俺の仕事がない。

俺は胡椒を出して乳鉢でゴリゴリとすり始めた。うん、これも立派な仕事だ!


肉を直火であぶり、じゅうじゅうと脂が滴り落ちる様子は何度見ても眼福だ。

匂いだけで白飯いける。まだこの世界で白飯見つけてないけどな!


塩コショウとたれの2種類で味付け。

おっと、皿は大小2枚ずつしかないや。

リンには金串を外して皿にのせてやり、俺たちは串から直接食おう。


山の水をコップに、ってコップも2個しかない。

「俺ら、水は持ってるから」と革袋を出されたが、それ絶対おいしくないやつ。

「これは山の湧き水だぞ~」というと目の色が変わった。だよなー。


串を片手に、ジョージさんのパンを食べ、2個のコップで水を回し飲み。

ところどころ足りていないのがまたキャンプっぽい。


「リン、一つだけ辛いソーセージがあるから気を付けてね」

「からいの、いらない~」


串に刺しては焼き、刺しては焼き、それをひたすら繰り返してようやく5人と1匹は満足した。

「ふわぁぁ、おなかいっぱい」


デザートにはさっき摘んだばかりの桃。

リンの桃は皮をむいて一口大に切ってやる。俺らは自分で皮をむき、丸かじりだ。

「うんめぇぇ!でもこれ、市場で売ったら結構いい値段なんじゃね?」


桃の果汁で手をべたべたにしながらシモンが気を遣ってくれる。確かに金は大事だ。底辺で生きてきた俺にとっては1ギルすら大切だ。でも、金で買えないものもある。

うまいものを分け合って食べる。そんな時間、金では買えないよ。


すっかり腹いっぱいの俺たちは、焚火を囲んでのんびりくつろいでいた。

「俺ら、毎日うまいもん食えて幸せだよな。弟や妹たちはちゃんと食ってんのかな?」

ベレンがぼそりとつぶやいた。


「仕送りしてんだろ?」

俺が尋ねると「そうなんだけどさ……」と歯切れが悪い。


「なんかさ、親父もおふくろも俺らの仕送りには手を付けず、俺らのために貯金してるみたいなんだよな」

ベレンのつぶやきに「うちもだよ……」と同調するクリストフ。


「いい親御さんじゃねぇか」

俺はその話だけで泣きそうだぞ!


「カイトのとこだってそうだろ?6歳の一人息子を誘拐されるって、おふくろさんの気持ちになったら、ちょっと俺、いたたまれねぇわ」


俺の胸がチクリと痛む。新しい家族でも作って幸せになっていてほしいと思う反面、今も俺のことを待っていてほしいと願うエゴイストな気持ちも否定できない。

でも究極は、母さんが元気でさえいてくれればそれでいいかな。


たっぷりと休んだ後、俺たちは立ち上がった。さあ、メイダロンへ帰ろう!


ここからメイダロンへは徒歩2時間。リンの足なら10分ちょっと。

今日は俺も歩いて帰ろうかな。

そう言うとリンは俺のポケットに潜り込んだ。

俺を乗せて森を走るのもリンは好きなようだが、俺のポケットの中が一番好きなのかもしれない。


クリストフたちは解体したディアをそれぞれ担いでいる。

「収納に入れようか?」そう申し出たが、「それを知ってしまうと戻れない気がする」という不思議な理由で断られた。


皆で歩くと2時間の道のりも全然苦痛ではない。むしろ楽しく2時間が過ぎた。

「ブリックさん、ただいまー。ディアを狩ってきたんで買い取りよろしく!」

威勢よくベレンが市場に入っていく。


「おう、お帰り!ディアが狩れたのか。よかったな!」

俺の胸ポケットにリンを見つけたブリックだが、ちゃんと仕事優先のようだ。

ブリックはきっちりとディアを検分し、定価の500ギルで買い取った。

ご、ひゃく、ぎ、る~!

ヨークが調子っぱずれの歌を歌い始めた。おめでとう!


「カイト、お前も何か狩ってきたんだろ?」

ブリックが鋭い目で俺を見る。

収獲はあったよ。あったけど今日は買い取ってもらえないだろ?


クリストフたちも気になっていたのか一斉に俺を見る。

「えーっと、マッドブルを6頭……」


はあぁぁぁ、と大きなため息をつくブリック。

なんだよ!だめじゃないだろ?だめじゃ。


「まあ、キャトルもだいたいはけたからな。明後日以降に持ってきてくれ。一頭は買い取るから。通常サイズなら5千か6千ギルだ」

無理ならまたコリンバースに持っていくから大丈夫ですよ、と言うと「お前、コリンバースまで売りに行ってるのかよ」と逆に呆れられた。だってここじゃ買い取ってもらえないんだから、仕方ないだろ?


500ギルの売り上げがあったクリストフたちと、売れなかったけど収納にたくさんの魔獣が入っている俺。足取りも軽く宿へ戻った。

「「「「「ただいま戻りました!」」」」」「ただいまー」


宿ではゼットンさんが額に青筋を立てて待っていた。あれ?何かしたかな?

「てめぇら、全員そのまま風呂にいきやがれ!」

おっと、全員泥だらけだったわ。


「「「「「はいー!!」」」」」


夕食はロールキャベツとなすのミートソース焼きだった。

今夜も満足!

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