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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
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領都コリンバース

俺とリンがゼットンさんの宿に来て、6日目の朝。

今夜の分の宿代、払わなくちゃ。


1階に降り、今夜から5泊分の宿代や食事代、風呂代を払った。

「いろいろ差し入れしてもらってるから食事代は……」

ゼットンさんが気にしてくれたが、稼いでるんで払います!と半ば強引に受け取ってもらった。俺とリンにとって大事な居場所だ。


朝食はグリーンリーフとトマト、きゅうりのサラダ、ほうれん草のクリームスープ、それにソーセージが2本。サラダには人参ドレッシングがかかっている。新鮮な野菜にゼットンさんの腕が掛けあわされ、朝から幸せである。


俺は丸パンに切り目を入れてソーセージをはさんだ。

「ボクも、ボクも!」

リンのパンにも挟んでやると、嬉しそうにかぶりつき、すぐに首を傾げた。

「ジョージさんのとちがう……」

俺は魔法使いじゃないからな!

いや俺だって、ピクルスとか挟めば……、ってプロと張り合ってどうする。


そこへ狩りの支度をした4人がバタバタと降りてきた。

「おはよう、カイト、リン!」

「おお!朝からうまそうだな」


ムーラさんが手際よく4人分の朝食を運び、いただきますもそこそこに食べ始める4人。

「みんなは今日も狩り?たくさん狩れるとといいね」


「カイトは今日は行かないのか?」

サラダを口いっぱいほおばったベレンに尋ねられた。

「うん、今日はリンの食べたいものを買いにいく約束だから」


その日暮らしをしている冒険者にしてみたら、今の俺の暮らし方は贅沢だろう。

でも俺は12年間ずっと虐げられ、働き続けてきた。

体の栄養だけでなく、心の栄養も大事だ。

それをわかってくれているから、4人は何も言わない。


「俺らの今日の目標は、リトルボア3頭だ!」

ベレンが宣言する。あれ?4人なのに3頭?と思ったら、体の大きなクリストフとベレンは一人で1頭運べるが、ヨークとシモンには厳しいらしい。二人で1頭。


1頭30kgだもんな。俺も荷車に乗せるのがギリだった。

あの頃荷車なしで町まで運べと言われていたら途中で行き倒れていただろう。

今じゃすべて収納だ。収納万歳!


あわただしく出かける4人を、今日はゼットンさんと一緒に見送る。

「行ってらっしゃい!」「気をつけて行ってこい!」


「うーんとね、ボアならあっち!」リンが東の方角を指した。


サンキュ!行ってきます!4人は元気よく駆けて行った。

見送るってのもいいもんだな。


さて、何をしようか。

まだお店は開いてないし。


「七輪でお湯沸かしたいんで、ちょっと裏庭使わせてもらいますね」

お湯ならかまどで沸かしてやるぞ、と言ってもらったが、せっかく買った七輪を試したいのだ。


リンを抱いて裏庭に行き、着火剤代わりの枯れ葉に火をつけて炭をおこす。

七輪。前世では平安時代にその原型ができていたと言われるが、文明を感じるのはなぜだろう?持ち運びできる小さなかまど。少しの炭で効率よく煮炊きができる。


何よりも赤い炭火を見ているとなぜか落ち着くんだよな。

やかんを火にかけ、沸騰するのを待つ。しばしの癒しタイム。

リンも俺の膝の上で、のーんびりしている。

やっぱりいいな、こういう時間。心の栄養だ。


沸騰したやかんを持って食堂へ。

ピッチャーでお茶を入れ、茶葉が開いたところでゼットンさんとムーラさんに声をかけた。「お茶にしませんか?」


残っている菓子をすべてテーブルに出すと、リンが嬉しそうにしっぽをぶんぶん振った。少ない量だが、大食らいの4人がいないから十分だろう。

「今日、また買いに行くので全部食べちゃってくださいねー」


そう言いつつ、ちょっと不安になる俺。大丈夫だよな?今日も菓子屋が閉まってるとか、そういうオチはないよな?



まったりして心もおなかも満たされた後、俺は立ち上がった。

「リン、買い物に行くよ」

「おかし?」

「うん、でもその前にメイダロンで買い出し」


リンをポケットに入れてまず向かうのは雑貨屋。

「いらっしゃい。あら、まだ水がめは入荷できてないのよ」

雑貨屋の奥さんに声をかけられた。

「大丈夫ですよ、急ぎません。今日は他のものを買いに」


薬草や果物を採取するのに意外と不便だったからな。

スコップ80ギルと腰にぶら下げる籠25ギル、クコの実も入る皮の袋15ギル5枚、大きな木のボール7ギル3つ購入。


こういうのを手に入れるとまた採取に行きたくなるよな。

昨日行ったばかりなのに。


市場に立ち寄り、牛乳を買い足す。

はちみつはまだあるが、一応買い足しておこう。

それと普通の砂糖50ギルも一壺欲しい。

シンプルな砂糖の方がいい時もある。


肉屋は2軒あり、どちらにもソーセージが山積みになっていた。

俺が卸したボア肉かな?

1軒は以前も購入したホットドッグサイズ。もう1軒は小さいソーセージでハーブ入りや胡椒味、チリペッパー味もある。チリ味はリンには要注意だな。


1本1ギルの大きなソーセージを30本、2本で1ギルの小さいソーセージを3種、30本ずつまとめ買いした。


「明後日になればベーコンが大量にできるぞ」と肉屋に声をかけられた。

そうか、ベーコンのほうが仕込みに時間がかかるのか。

今も少しは売られているが、まとめ買いするほどの量はない。


「じゃあ明後日以降にまた買いに来ます!」

ベーコンの塊を火であぶったら間違いなくうまいだろうなー。


リンが喜びそうなものをついつい多めに買ってしまう、親バカな俺。

リンもおいしいものを買っていることが分かるようで、ポケットから乗り出してご機嫌にしていた。


よし、じゃあ、ガルレイに行こうか。菓子と芋団子だ!


徒歩で片道2時間のガルレイに「ちょっとそこまで」という感覚で出かけるようになってしまった。不思議な感じだ。

ガルレイへの道を、リンは俺を乗せて「おかし~」とご機嫌に走る。


午前中のガルレイは、昨日の夕方とは違い、屋台も出ていて活気がある。

「リン、まずは芋団子だよな?」


お目当ての芋団子屋は同じ場所で屋台を出していた。

それぞれ4個ずつ芋団子を買い、お皿に入れてもらう。

リンは小さくなって木の机に飛び乗り、「やったー!」と食べ始めた。

俺も食べるぞ。前回買って帰った分は結局4人組に食べられちゃったしな。


うーん、ホクホクでやっぱりうまい。

「すみません、このトレーに乗るだけお願いします。山盛りで」

毎度あり!そう言ってお兄さんがどんどん揚げてくれた。トレーを買っておいてよかったな。山盛りで50個乗ったよ。


「リン、いっぱい買ったからまたいつでも食えるぞ!」

「うん!クリストフたちにもあげていいよ」

リンはええ子やなぁ。


さあ、本命の菓子屋だ!

意気込んで俺とリンは菓子屋に向かった。

えぇぇぇ!?閉まってるんだけど…………。


俺は隣の雑貨屋に顔を出して聞いてみた。

どうやらこの菓子屋は毎月1日と15日は定休日らしい。フラグ立ってたのか?


「おかし……」

きゅぅぅーんと悲しそうな声を出すリン。

ま、まずいぞ。


「すみません、この近くの町で菓子屋があるとこって知ってますか?」

そう質問すると、うーんと腕を組む雑貨屋のおやじさん。

「メイダロンも他も小さい町だから菓子屋はないんじゃないか?領都コリンバースに行くのが確実だけど、歩いて4時間かかるからなぁ」


徒歩4時間、ってことは20kmくらいか。リンなら余裕だな。

「リン、コリンバースまで行く?」

「おかしやさん、ある?」

「コリンバースは大きな街だからな、いろんな店があるぞ」

雑貨屋のおやじさんが助け舟を出してくれた。

「じゃあいく!」


おやじさんに礼を言って店を出る。

「行こう!」

俺を乗せてリンは走り出した。


俺にとって初めての街。

コリンバースに行くのは、あいつらの罪状を見届けて旅に出る時だと思っていた。

まさか菓子を買うためだけに行くことになるとは。


リンの背に乗り、俺は初めての道を走る。

きれいに整備された道。

集落がところどころにあり、コリンバースに近づくにつれその数も増えていく。


森が途切れたところで、畑や家が急に増えた。

この辺りからコリンバースかな?

城壁はないので、どこからが領都なのかはっきりした境界線はない。


俺たちは家や畑をすり抜け、街の中心部を目指した。

さすが領都。大きい。


市場と思われる大きな建物が現れ、その先に庶民的な店が並んでいる。

ここが商店街かな?その商店街を通り過ぎてその先まで行ってみる。


すると突然、道が石畳に代わり、石造りの立派な建物が立ち並ぶエリアに出た。

すごい!

中世ヨーロッパ?

メイダロンともガルレイとも違う。美しい街並みだ。


通りには敷居の高そうな高級店が並んでいる。

以前の俺なら絶対に入れない店だ。


うーん、どうしようかな。

ちょっとためらい、市場らしき建物まで戻ることにした。

リンから降りて建物に入ると、リンは大きな姿のまま俺の横にぴったりくっついている。護衛のつもりかな?


市場はどこも似たような造りらしく、奥に買い取り窓口がある。

「こんにちは。買い取りお願いします」


「おう、何の買い取りだ?」

裏からガタイのいい中年の男性が出てきて、リンを見た瞬間ぎょっとした。

フェ、フェンリル……?

大きな姿のリンだとやっぱり皆分かるようだ。


「シルバースネーク1匹とグラスキャトル1頭あるんですけど」

おじさんは一瞬固まった後、冷静さを取り戻したようだ。

「収納魔法か?すげぇな」

どこに持っているのかを聞かないおじさんもなかなかすごいですよ。


「買い取っていただけますか?」

「もちろんだ。シルバースネークの皮はここでも売れるが、加工して王都に運べばいい収入になる。キャトルの肉はなかなか手に入らないからありがてぇよ」


奥の解体場に案内されるとそこには解体専門と思われる人が3名作業していた。

よかった、ここではキャトルの解体を手伝わなくてもよさそうだ。


「おーい、グラスキャトルとシルバースネークの買い取りだ!」

おじさんが声をかけ、3人が一斉に俺を見た。


キャトル?シルバースネーク?すげぇ。

彼らから感嘆の声が漏れる。


「どこに出せばいいですか?」

指示された鉄製のテーブルにまずはキャトルを出す。

「で、でっけぇ」解体員が息を飲む。


「次はこっちに頼む」

別のテーブルにシルバースネークを出すと、おじさんが驚きの声を上げた。

「こいつぁ上物だ!」


おじさんが丁寧にキャトルとシルバースネークの状態をチェックする。

「キャトルは相場の3500ギルでいいか?」

もちろんですとも。


「シルバースネークは、サイズも大きいし、スパッといってて皮の状態がめちゃくちゃいい。どうやって狩ったんだよ。って、ああフェンリルか」

おじさんが一人で納得している。

「皮の代金がほとんどだが、肉も高級品だ。1万1500ギルでどうだ?」

え?1万ギル超えちゃったよ。どうも何も、そんなありがたいことはない。


「売ります!よろしくお願いします!」

やったー!一気に金持ちだ。


買い取り窓口に戻り、代金を受け取る。あわせて1万5千ギル、金貨15枚。

前世で言う150万円。すごい……。

さようなら、ビンボーだった俺。


「またいつでも持ってきてくれ。歓迎するぞ」

「こちらこそ助かります。メイダロンやガルレイだとシルバースネークを加工できる人がいないみたいで」

俺の言葉におじさんがふっと笑った。

「メイダロンから来たのか。俺もメイダロン出身だ」


「そうなんですか?俺はメイダロンよりさらに山奥にいました。今はゼットンさんのとこでお世話になってます!」


「ゼットンなら昔からよく知ってるよ。そうか、あいつのところにいるのか。ギャスパーがよろしく言ってたと伝えてくれ」

おじさんはギャスパーさんというらしい。ゼットンさんの幼馴染のようだ。


「はい!伝えます。あの、俺コリンバースに来たのは初めてなんですが、菓子屋ってありますか?」

初めてなのか。そう言ってギャスパーさんはコリンバースの街の説明をしてくれた。


領主の住むビルケッシュ城が街の中心に建ち、東西南北に東地区、西地区、南地区、北地区と分かれているらしい。それぞれの地区に商店街があるが、東地区と南地区の商店街が特に栄えていて、店の数も多いし庶民向けから高級店まであるそうだ。

今いる場所は東地区で、この通り沿いに庶民向けの商店街、その先に高級店がある。


「あの……、高級店には貴族しか入れないとか?」

おずおずと聞くと、うわっはっはと笑われた。

「ないない、金持ってる奴なら誰でも大歓迎さ」


よかった。金なら持ってる。今、俺の収納には2万ギル以上あるぞ。

「じゃあ行ってみます!ありがとうございました!」


市場を出ると俺はリンに声をかけた。

「リン、菓子屋に行くから小さくなろうか」

「おかしやさん!」

小さくなって俺のポケットに飛び込むリン。


庶民向けの商店街を通り抜け、石畳の通りに出た。

なんか緊張する~。


目当ての菓子屋はすぐに見つかった。

菓子屋というよりケーキ屋だ。

ガラスのショーケースという時点で高級店だよな。


そこに並べられているのは……、いちごのショートケーキ、チーズケーキ、アップルパイ、モンブラン、シュークリーム、カスタードプリン。

すごい!オーブンだって薪式のこの世界でなんというハイレベル!


「おいしそうだね!」

リンがポケットから話しかけ、店員がぎょっとしている。

うん、まあ、びっくりするよな。


店の隣がカフェスペースになっているが、このおしゃれ空間でリンをテーブルに乗せて食べさせるのはまずいだろう。


俺はトレーを二つ出し「ここに乗るだけください」と頼んだ。

「あの……、こちらは一つ15から20ギルしますが」

それがどうした、俺は払えるぞ!


金貨を一枚渡すと、店員の目の色が変わった。

「す、すぐにご用意します」


2つのトレーに合わせて40個のケーキ。店員の意地だな。

全部で720ギル。ついこの前まで1ギルも持っていなかった俺が、こんな買い物をしていいんだろうか?いいんだ、リンにうまいもの食わせるって決めたじゃないか。

それにこのクオリティは俺も楽しい。


ケーキとお釣りを受け取り、収納にしまう。

「たべないの?」

リンが期待に満ちた目で俺を見てくる。


「せっかくだからゼットンさんたちと一緒に食べよう」

「うん!」

ええ子や、やっぱりリンはええ子や。


カフェを出て周りの高級店を見まわす。

宝飾店や洋品店などが並んでいるが、今の俺にはまだ無用だな。


石畳の道を戻り、庶民向けの商店街に戻るとやっぱりホッとする。

菓子屋を見つけてクッキーを数種類購入。やっぱりこれはこれで必要なんだよ。


と、一軒の薬屋を見つけた。

そういえばコリンバースには薬屋は何軒あるんだろう?

サマンサさんが言っていた薬局ってここなのかな?


「ごめんください」

からんと戸を開けて俺は店の中に入った。

「はい、いらっしゃい」

奥から出てきたのは年配の女性だ。


「あの、ガルレイのサマンサさんに聞いてきたんですけど……」

「あら、サマンサさんの知り合い?入って入って」

ビンゴだ。


姉弟子の娘というから勝手に若い女性を想像していたけど、サマンサさんの姉弟子の娘さんだもんな。そりゃそうだよな。


「薬草を摘んできたんで、もしよければ買い取りを」

そう言って俺はカウンターに薬草やクコの実、水晶苔などを出した。


くわっと目を見開き、彼女は薬草の見分を始めた。

「何?これ。すごく状態がいいわ。しかも水晶苔!!買う!全部買うわ!」


サマンサさんと同様、丁寧に数えて計算をして「1913ギルね」と。

細かいがその分信頼に値する。

売りますとも!それで病気やけがで苦しむ人が救えて、俺には金が入る。

ウィンウィンだ。


「また持ってきてね」

「はい、また採取してきますね」

そう言って俺たちは薬局を出た。


帰り道、ピロシキのような揚げパンの店を見つけて、リンと一つずつ購入。

ボアのひき肉と玉ねぎ、ナスを炒めた具の入った揚げパン。うまかった。


初めての領都コリンバース。

滞在時間は短かったが充実していた。

さあ、帰ろう、メイダロンへ。

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