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底辺から掴み取る、自由でおいしい毎日  作者: KAY
第一章 メイダロン編
13/78

薬草採り

翌朝。気持ちのいい快晴。

リンが寝てる隙に俺は洗濯を済ませ、薬草図鑑を開く。

今日は狩りではなく薬草採取に行こうと思っている。

リンは野性の勘、俺は知識だ。


しばらくページをめくっていると、リンがむくっと起きあがった。

まだ寝ぼけまなこのリンを抱いて食堂に降りると、ちょうどクリストフたちも朝食に降りてきた。

彼らも今日は狩りに行くようだ。すでに弓や剣を下げている。


「おはようカイト、リン、いい天気だな!」

「おはよう!狩り日和だな!俺とリンは今日は薬草採取に行くつもりなんだ」

「やくそう?」

俺たちの会話を聞いてリンが首をかしげる。


「ああ、草や木の実に少しだけ魔力がこもってるのを見つけて採ってくるんだ。そうすると病気やケガの人が助かるんだよ」


この世界の薬草には少しだけ魔力が含まれている。

その作用で効き目のよい薬が作られるのだ。

「ボク、みつける〜」

頼りにしてるぜ!


手早く朝食を済ませ、俺とリンは4人と一緒に宿を出た。

「「「「「行ってきます!」」」」」「いってきまーす」

「おう、気を付けて行ってこいよ」「行ってらっしゃい!」

ゼットンさんとムーラさんの声ってなぜかホッとするんだよな。


町を出たところで別行動だ。

「みんなはなにをかるの?」

リンが4人に尋ねる。

「そうだなあ、カイトとリンがボアやキャトルを狩ってきたばかりだから、鴨が狙えたらいいな」


鴨はこの国では一般的な鶏肉で、羽毛や羽根も重宝される。

一羽4〜5kgほどで買い取りは40ギル程度だが、群れでいるためまとめて狩ることができればいい収入になるのだ。


「カモならあっちだよー」

「おお、サンキュ!行ってみる!」

リンが指した方向に、4人組は走り出して行った。


さあ、俺たちも行こう!


リンの背に乗って声をかける。

「薬草がありそうなところならどこでもいいよ、好きなところへ向かって!」

リンは元気よく走り出した。

「どっちにしようかなー」


そう言いながらも、リンの進む方向に迷いは見られない。

ゴルデスの家がある東ではなく南へ、白く輝く毛をなびかせて走る。

俺も全身に風を受け、リンの躍動を感じて目を閉じた。

んん~、気持ちいい!


しばらく走ると、草原に出た。

リンの背中から降りて俺はリンと一緒に歩き出す。


「これは~?」

リンが示した先にあるのは紫色の小さな花。リンドウだ。根が薬になる。


って、スコップがないじゃないか。

牛の骨をナイフでとがらせ、土を掘り起こす。

なかなか原始的な図だな。柔らかい土でよかった。


俺がリンドウの根を採取している間にも、リンはきょろきょろと周りを探している。

「カイト~、こっちにもなんかある」

そこにはニワトコの低木があった。葉が外用薬になる。


ある程度採取すると、再びリンの背中に乗って別の場所を目指す。

今度はクコの実を見つけた。


小さな実だが効能は高い。

乾燥させた実を、俺のような低栄養状態の人が食べれば栄養補給に、逆にたっぷり脂肪をため込んだ人が食べればダイエット食になる。

これはいい!


俺が小さなクコの実をちまちまと摘んでいる間もリンはその周りを走り回り、次々と薬草を見つけてくる。


「ちょっと待ってよ、クコの実は時間がかかるんだから」

時間をかけて摘んだのにクコの実はようやく皿一杯分。

リンの風魔法を使い、即座に乾燥させた。


そして杏。果実はもちろんおいしいが、種の中心部が薬となる。杏仁豆腐のような菓子の材料ではなく、この世界ではかなり効能の高い薬になるようだ。


川岸に移動してセリを摘んでいると、リンが何かを見つけた。

「これ、まりょくつよいよー」

「すっげー、水晶苔じゃん!リン、でかした!」


岩の裏に隠れるように生えていたのは水晶苔だった。珍しい薬草で、ケガをした時の止血効果がとても高い。騎士団や冒険者がこれを持っているかどうかで生死を分けることもある。

ナイフを使って採取していく。いくらになるかな?


その後も次々とリンが薬草を見つけ、俺が採取していく。

これはあれだな、フルーツ狩りと山菜狩りのミックスだ。なんか楽しい。


お昼を過ぎていたことに気づかず、夢中で採取していた。

「カイト、おなかすいたぁ」

おお!すまん!じゃあ今日はここまでにするか。


リンに牛乳を飲ませて待っていてもらい、その間に火をおこして牛肉をあぶる。

ここのところ牛肉尽くしだが、直火であぶって脂が滴り落ちる牛肉はまた別物だ。飽きない。リンも鼻をクンクン鳴らして、期待の目で見つめている。


塩とたれの2種類を焼き、金串を外して皿にのせてやると、待ってましたとばかりに食らいつくリン。

「おいしいね!またうしをたおそうね!」

そうだな、リン。リンには魔獣はどれもバーベキューに見えているのかもな。


ジョージさんの丸パンを添えて、俺も牛の焼き肉を堪能した。

せっかくだから余分に焼いて収納しておこう。いつでも焼きたてが食べられるぞ。


食後は飯盒でお湯を沸かしてお茶を入れ、リンだけじゃなく俺の分にもミルクとはちみつを入れた。動いた後は甘いものが体に染み込む。


カップを片手に、俺は残り火をのんびりと見つめる。

昨日のような雨の日には無為な一日を過ごすのもいい。

今日のような晴れた日には働いた後、山でキャンプ飯を楽しむのもいい。

幸せだな。


たっぷりと休憩を取り、立ち上がった。

「サマンサさんの店に行こう。リン、ガルレイの方角分かる?」


「ガルレイ?」

「菓子屋や芋団子屋があった町だよ」

「おかしやさん!わかる~」


ガルレイに向かってしばらく走ると、畑に出た。

よく手入れされた畑に熟したトマトやきゅうり、なすなど、たくさんの種類の野菜が育てられている。

でも変だな。せっかく熟したトマトもほかの野菜も収穫されていない。


「リン、止まって」

「どうしたの?」

「なんかこの畑、気になるんだ。ちょっと待っててね」


俺は畑の奥に建つ家に向かって声をかけてみる。

「すみませーん、誰かいますか?」


すると小屋から年配の女性が出てきた。

「はーい。あら、冒険者のかた?お水かしら?」

通りがかりの冒険者の人が水をもらうことがあるのだろう。親切な人だ。


「あ、いえ、ちょっと畑が気になって。せっかくおいしそうに育った野菜がそのまま放置されているような気がして。余計なお世話ですが」

「ああ、これね、もったいないわよね。良ければ好きなだけ持って行ってもいいわよ」

え?どういうこと?


女性に話を聞いてみると、ここはガルレイの町から片道1時間以上かかる場所にあるらしい。毎朝収穫した新鮮な野菜を旦那さんが荷車に乗せてガルレイまで売りに行っていたのだが、3日前に旦那さんがぎっくり腰になり、動けないのだとか。奥さんではガルレイまで運ぶのは無理なので、旦那さんが動けるようになるまでの間に収穫期を迎えた野菜はあきらめるしかないとのこと。


なんと!野菜を捨てるなど、もったいない!

「俺、買います!」


お兄さんが持っていける程度の野菜なら、ただで持って行ってもらっても構わないのよ、と笑う奥さん。やっぱり優しい人だ。

「俺、収納魔法があって。かなり収納できるし時間も経過しないから、野菜のまとめ買いをしたいと思っていたんです。こんなに新鮮な野菜がいっぱいあるのなら、ここで買わせていただけますか?」


それはとても助かるのだけど、いいのかしら?奥さんが迷っていると、玄関から旦那さんが出てきた。壁に手をつき、ヨロヨロと……。

俺にはぎっくり腰の経験はないが、これはかなりつらいやつだな。


「兄ちゃん、それはありがたい。精魂込めて育てた野菜を捨てるのは忍びなかったんだ。ただでももらってほしいくらいだよ」


それは申し訳ないので、彼らが市場に卸す値段で買わせてもらうことにした。

卸値は種類にもよるが木箱1箱でだいたい10ギルらしい。

やっす!木箱1箱に相当量入るぞ。だから市場でも野菜は安く売られているんだな。

「俺、収穫手伝うので、ありったけ買わせてください!」


木箱は後日返しに来ることもできるが、木箱ごと買えたらもっと助かる。

何かと便利だし。

木箱はたくさんあるから問題ないと言われ、木箱代5ギルを足し、ひと箱15ギル。

よぉーっし、収穫するぞ!


奥さんと二人で収穫開始だ。

旦那さんは丸太に座り、指示を出す。

「あっちのトウモロコシも頃合いだぞ」とか。


かぼちゃ、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、枝豆、いんげん、トウモロコシ。

トマト、きゅうり、ナス、ズッキーニ、おくら、キャベツ、グリーンリーフ、ほうれん草、ピーマン、セロリ、大葉、にんにく、しょうが。

テンションあがる~。


調子に乗って20箱分も収穫してしまった。

「本当にこんなに収納できるの?すごいわね」

感心されてしまったが、余裕で入るんだな。

感覚的にスペースは全然埋まった気がしない。


銀貨3枚300ギルを支払うと「俺の元気な時でも1日50ギル程度なのに……」と驚かれてしまった。「農家も大変ですね」と言うと「それでも俺らは毎日腹いっぱい食えるから恵まれている方さ」と事もなげに言う旦那さん。


俺のような特殊な例を除いても、この国にはその日の食べ物にも困るほど貧しい人がまだまだたくさんいるのだ。

空腹の辛さを誰よりも知っている俺はちょっと考え込んでしまった。

誰もが腹いっぱい食べられる日が来るといいのに。


おっと、かなり時間を取られてしまったぞ。

「リン、待たせてごめん!終わったよ」

大きな体のまま旦那さんの足元で寝ていたリンはゆっくりと立ち上がった。

「いく~?」


俺はリンにまたがり、振り返る。

「立派な野菜をたくさん、ありがとうございました。またここを通ることがあったら買わせてください」

「こっちこそ助かった。また来いよ!」

「気をつけてね!」


俺たちの姿が消えるまで夫婦は見送ってくれていた。

「フェンリルを従えて、とんでもない収納魔法を持っている若者か……」

「そういえば、名前聞き忘れちゃいましたね」



農家からは歩くと1時間以上かかるというガルレイの町も、リンが走ればあっという間だ。


「サマンサさん、こんにちは!」「こんにちは~」

店の前で小さくなったリンを抱き、俺は店のドアをくぐった。


「おや、いらっしゃい。薬草でも採ってきたのかい?」

薬の調合をしていたサマンサさんがカウンターまで来て、よっこらしょと座る。


「はい!いろいろ採ってきたので見ていただけますか?」

おやまあ、動きの早いこと、若いっていいねぇ。


俺はクコの実や杏、薬草をカウンターの上に並べていく。

あっという間に山積みになった。

「ちょ、ちょっと、あたしゃ年寄りなんだよ、こんなにたくさん調合できないよ」


そう言いながらもサマンサさんは一つ一つ細かくチェックしていく。

「こりゃ状態がいいねぇ。さすがだ。こんなにたくさんの種類を一度に見つけてくるとは。おや?これは水晶苔じゃないか。よく見つけたね。じいさん越えだよ」

おお、名人を一日で越えたのか、俺。


「どれも欲しいが、半分、いや三分の一にしておこうかね。年寄りに働きすぎはよくない。残りはコリンバースに行ったときにでも売ってやっておくれ。あそこでは今、私の姉弟子の娘が薬屋をやってるんだ。あの子も最近は材料が手に入りづらいって言っておったからよろこぶじゃろ」


サマンサさんは銀のトレーを2つ出してきて、必要な分を乗せていった。

俺は残った薬草を収納にしまう。


サマンサさんはトレーに乗った薬草を丁寧に数え、紙に書きとめている。

そこに金額らしき数字を書き込み、買い取り価格を計算しているらしい。

どんぶり勘定かと思ったが、意外に几帳面だ。


「全部合わせて857ギルだ」

薬草の相場は分からない。完全にサマンサさん任せだ。


サマンサさんは鍵のかかった引き出しからお金を取り出し、俺に渡してくれた。

魔獣を狩ったほうが金にはなるかもしれないが、一日採取した三分の一でこの金額なら十分だ。時給換算したらむしろやばいよな。


それに何より楽しかった。

薬草に果物、最後は野菜の収穫まで楽しんだ一日。


「薬草摘み、楽しかったんでまた行ってきますよ」

「こんなに見つかったらそりゃ楽しいだろうさ。これだけ調合するのに5日はかかるから、次の持ち込みはそれ以降にしとくれ」


「また来ます!」「またね~」

サマンサさんの店を出るとすでに夕暮れだ。

やっぱり野菜の収穫に時間を取られすぎたな。


リンを抱いて商店街を歩くと、菓子屋はすでに閉店していた。

「おかし、かえない?」

リンが悲しそうな目で見てくる。


「菓子ならまだ持ってるから」

そう慰めてみたものの、昨日みんなで食べたから残りは少ない。


「じゃ、じゃあ、屋台だ!」

「いもだんごぉ~」

おおっと、屋台も閉店。早いな。


リンのテンション、ダダ下がり中。

「明日また買いにこよう。な?」

ゼットンさん、今夜の晩メシ、たのんます!


リンの口にキャラメルを一つ入れてやり、さあ帰ろう!と声をかけた。

少しだけ機嫌を直したリンにまたがり、夕焼けの中メイダロンへの道を走る。


10kmの距離も、リンにかかれば十分ほどだ。

もうすぐメイダロンというところで、見慣れた4人の後ろ姿が見えた。


「クリストフ、ヨーク、ベレン、シモン!」

4人に追いつき、横に並ぶと俺はリンから降りた。

「ガルレイに行ってたのか?」


「おお、カイト、リン!お前らも今帰りか!」

「ああ、サマンサさんの店に薬草を売りに行ってた」


クリストフたちは、リンのアドバイスのおかげで鴨をたくさん狩ることができ、メイダロンだけでなくガルレイまで売りに行っていたらしい。

12羽も狩ったんだ、480ギルだぁ!シモンが浮かれている。

俺とリンは800ギル以上……、うん、黙っておこう。


俺が歩き始めるとすぐ、リンは小さくなって俺のポケットに潜り込んだ。

「ほら、機嫌なおせよ」

クッキーを渡してやると、ポケットの中でポリポリと食べている。


「あれ?リン、ご機嫌ななめ?」

クリストフが俺のポケットを覗き込んだ。


「薬草摘みの後、農家で野菜の収穫手伝っててさ。おかげで安く売ってもらえたんだけど、ガルレイの町に行くのが遅くなっちゃったから、菓子屋も屋台も閉まってて。それでこの通り」


それは残念!

菓子買いたかったのかー。

今夜は牛尽くし最終日だってゼットンさんが言ってたぞ。

晩メシ楽しみだな!


4人に声をかけられ、ようやくポケットから顔を出した。

「ゼットンさんのごはん~。まほうつかいさん~」

ようやくいつものリンだよ。やーれやれ。


5人と1匹で俺たちは揃って宿に帰った。

「「「「「ただいま帰りました!」」」」」「ただいまー」


「おう、お帰り。みんな一緒か。風呂入るか?」

ゼットンさんに「はい!ありがとうございます!」と答える俺。

それに対して「いや、俺たちは……」となぜか逃げ腰の4人。


「おめーら、もう何日も風呂入ってねぇだろ!4人で10ギルにまけとくから、さっさと入りやがれ!」

ゼットンさんに叱られ、「はいー!」と風呂に向かう4人。親子か。


「まーったく、あいつらはホントに世話が焼ける。カイトはこんなに手間がかからないのによぉ」

俺もゼットンさんの息子枠なのかな?


「っつーか、カイトはもっとわがまま言ってもいいんだぞ?」

わがまま?わがままって?…………俺はわがままを知らない。


気づけば俺はうつむいてしまっていた。

「俺は……、ここを追い出されたら他に行くとこないんで……」

言い終わる前にゼットンさんに強く抱きしめられた。く、くるしい。


「あほか!追い出すわけねぇだろ!それにお前は自由だ。行く場所なんて世界中にある。世界中を旅して、そんで、いつでもここに帰ってくればいいんだよ!」


あったかい。ゼットンさんの力強い腕の中があったかい。

泣きそうになった次の瞬間「うげぇぇ」、胸からリンのうめき声が聞こえた。


「おお、すまん、すまん」

ゼットンさんが慌てて俺から離れ、リンに謝る。

「もおぉぉ、つぶれちゃうよー」

リン、ごめん!


「あ、ゼットンさん。これ、めっちゃ安く買ったんで、おすそ分けです」

俺は木箱いっぱいの野菜をゼットンさんに渡した。

「だからお前はよぉ、気を遣わなくてもいいんだって」

「いやぁ、これがそのまま俺たちのメシになるんで」


4人組に続いて俺たちも風呂に入り、リンお待ちかねの夕食。

牛尽くし最終日は牛カツと温野菜だった。

塩コショウのシンプルな味付けにレモンを絞った牛カツは赤身のパンチが効いていてマジ最高。温野菜にはチーズソース。

リンはどちらも幸せそうにほおばり、しっぽをフリフリさせている。


俺とクリストフたちは牛カツを平らげた後もエールを飲みながらまったりしていた。

今日はお互い、いい収獲だったからな。


そこへゼットンさんがつまみを差し入れてくれた。

トウモロコシと枝豆のかき揚げ。

「カイトからもらった野菜だ」

塩を軽く振っただけのそれは、素材を活かした間違いないやつ。


あの農家さん、名前聞くの忘れたな。いい仕事してるな。

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