キャラメイキング 前編
BGM:
Stones(ウルティマ・オンラインのテーマ曲、ウルティマ6版でも可)
途中から、ウルティマ6『False Prophet』ってゲームのキャラメイキングの曲
あ、これは……
意識が戻って来るとともに、その曲が耳に入って来る。
(UOのStonesだ)
もの哀しい曲調が、いつまでも変わらぬものであるかのように佇む古の遺跡の幻影を浮かび上がらせる。
Stonesが流れる中、ぼんやりとした頭で、まだ持ち上がらない瞼のまま、ふらふらと起き上がる。
すると、膝程の丈しかない草の原が、上へ下へ緩やかに起伏を繰り返しながら、遠く、どこまでも遠くへ、西に大きく膨れる雲に半ば遮られた夕陽に照らされて、広がっていた。
ザアァ……
起伏の陰翳で半ばは薄暗い草原、それを眺めるべく立ち上がったぼくは、その時初めて或る事に気付いた。
ぼくは衣服を一切身につけていない。
すっぽんぽんの、丸裸だ。
ど、どうすりゃいいんだ……?
風が身に沁みる。
冷える。
なので、自分の身体を抱きしめて、内股になって、すぐしゃがみ込む。
が、低い丈の草がどれだけ密生していようとも、風に曝される身を隠してはくれない。
ど、どうすればいいんだ……?
寒さで急激に催して来た。
も、もう、だめ……
我慢、で、き、な、い……
ちゃあ~~~
足許にできる水溜まり……
はあ……
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拡げた足の間のそれを踏まないように、その場から移動する。
移動しかけて、何かの弾みにまたそこへ踏み込んだら厭だな、と思ったので、目印になるように、何本かの草を互いに結んでおく。
何カ所か。
これでよし。
でも、とりあえず冷える。
このままではお腹が下ってしまってもっとまずい事になるやもしれぬ。
なんとかしなけりゃ……。
菰でも作れないかな、と思ったが、ここの草は少し力を入れると切れてしまい、引っ張り強さに欠けるため、それはできなかった。
これは、詰んだ、かな……。
寒い。
まずいな。
どうすればいいんだ?
UOのStonesはエンドレスに鳴り響いている。
夕陽が雲に隠され、薄暗くなった風景の中、ばさっ、と風に煽られる。
寒い。
なんとかしないといけない。
しゃがんでいるだけでは、夜を迎えて凍え死んでしまう。
このままではいけない。
だが、どうすればいいんだ……。
何か、助けになる物が何か無いかっ?
そう思って、辺りを必死になって見回す。
さっきまでなら、もっと遥か遠くまで眺めることができたはず。
しかし、もう薄暗くなってきていて、あまり遠くまで見えなくなっていた。
そして、見える範囲には同じような草原が拡がっているだけだった。
詰んだ、か……。
後はもう、体力が尽きるまで、ここで出来る限り草の海に身体を沈めて、風を避けられるだけ避けて、徐々に低下してゆく気温の中で、ぎりぎりまで命を繋ぐように努めること、それぐらいしか、もうできることはない。
残念だ……。
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いやっ、死んでたまるかっ!
俺は、とにかく草を引き千切り、毟り取って、必死に身の回りに草を集めて、草だらけにした。
やってやったぞ、ちくしょうめっ
早速その中に潜り込み、首だけ出して埋もれる。
最初のうちは草が冷たくて、厭だったが、そのうちに温まって来た。
なんとか、体力が尽きる前に間に合ったようだ。
幸い、この草にはあまり蟲の気配が感じられない。
お蔭で、がむしゃらにがんばった後の疲労のままに、眠り込めそうだ。
顔まで草の堆積の中に埋めて、手で顔を覆って息で草のかけらを吸い込まないようにして、意識を手放した。
ずっと、何処かでUOのStonesの調べが響き続けていた。
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翌朝、Stonesの調べの中で微睡んでいた俺は、急に曲が止んで、今度はウルティマ6『False Prophet』のキャラメイキングの曲がかき鳴らされ始めたのを耳にして、ぱちっと目覚めた。
薄ら冷えるが、まだ身体を覆っている草のお蔭で、それほど寒くはない。
幸い、雨は降り出していない。
雲はそこそこ天を覆っているが。
ならば、急がずに、もう少し暖かくなってきてから動き出そう。
問題は、曲が変ったこと。
いや、それ以前に、Stonesが昨日は夕暮れに気がついた時からずっと夜の間もなり続けていたこと。
普通じゃないだろ、それって!
なんで俺は気づかなかったんだ!?
あれか、マインドなんとかってやつか?
精神が操作されている?
たしかに俺はぼんやりすることが多い人間だが、ここまでぼんやり気づかないなんてのは普通じゃないからな。
誰かに何かされていても、おかしくない。
それに、なんで俺はこんなところに素っ裸で抛り出されているんだ?
いつから?
いつなんだ今は?
ここは何処だ?
一体、俺の身に何が起こったんだ?
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俺は、仲間と一緒に、今年もサカヌキ村の秋の収穫祭に訪れていた筈だ。
マサノリ、エイコ、トモコ、トヨキ、皆何処だっ!?